第3話 狂気

 そして彼女に張り手を食らわせる。頬を打ち鳴らす渇いた音が響き、左頬に突き抜けるような疼痛とうつうが走った。

 恐怖で、涙が目のうちに溜まっていく。


「……ごめん。姉ちゃんが悪かったよ。もう勝手に部屋入らんから、さ」

「はぁ……。ほんまいい所やったんやで? もうちょいでイクっていうときにさぁ。最悪やわ」


 口元に気色の悪い笑みを浮かべ始めた弟が、あえて顔を近付けるようにしてのぞき込んでくる。


「やからさぁ。姉ちゃんがちゃんと、責任取ってよ」

「なにいうて――」


 手がまた振りかざされようとしたので、咄嗟とっさに両腕で顔を庇った。直後、左腕に鈍い痛みを受け、頭が揺さぶられる。

 彼女はただきつく目を閉じ、貝のように両腕を堅く閉ざして「こんな悪夢早く終わって」とやみくもに願う。


 舌打ちが聞こえたかと思うと、左腕を乱暴に掴まれていた。

 腕を剝がしにかかる指がきつく皮膚に食い込み、ぎりぎりとした痛みをともなって骨や肉を締め上げてくる。それでもけっして腕が持ってかれないように、奥歯を強く噛みしめて体を硬直せた。



 拮抗していた二人の腕だったが、左腕がこわばりながらもじわじわと剝がされ始めているのがわかった。

 いったん力の関係が崩れだすと、密着していた腕はみるみる隙間を広げていく。


 男女の間に当然のようにある力の差を呪い、落胆しているあいだに両腕とも床に押し広げられ、痛いほど両膝で組み敷かれる。


 弟は立ち膝になったまま無言で自らのズボンに手を掛け、下着ごと一気にずりさげ、腫れあがったペニスをしなわせながら露出させた。


「責任、取って。俺をイかせてよ」


 突如腰が突き出されたかと思うと、蒸れたペニスの先が左頬に押し付けられていた。

 おぞましい感触とともに男性器特有の生々しい臭いが鼻をかすめ、これから行われようとする虐げが現実のものとして迫ってくる。


 拒絶の声を上げながら顔を激しく左右に振ると、溜まった涙が周囲にまき散らされていった。


 腕を抜こうと全身の力を振り絞ってもがくも、のしかかった膝が鋭く食い込むばかりで意味をなさない。

 体幹をよじろうとも跨った体はびくともしない。彼女は呻きながら、喚きながら、おびただしい涙を溢れさせて無意味に足をバタつかせていた。



 けっきょくのところ、彼女は執拗な暴行を受けた挙句に首を絞められ、意識が朦朧としているなか犯された。

 弟は侵入をかたくなに拒む渇いたなかへ、力尽くで塊を押し入れ、果てるまで幾度も突いた。

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