片目の将軍

覚醒


 長く沈んでいた昏睡から、ナイペルクは、泥から這い出すようにして、目を覚ました。

 枕元の侍従が、はっとして、顔を覗き込んだ。すぐに、部屋の外へ走り出ていく。


 間もなく、マリー・ルイーゼ……彼の妻……が、入ってきた。

 彼女の目は、赤く腫れていた。自分の部屋で、朝からずっと、刺繍をしていたのだ。


 「皇帝には、お話ししましたか?」

掠れた声で、もう、何度めかになる問いを、ナイペルクは発した。


「ええ」

妻は答えた。


 彼は重ねて尋ねた。

「皇帝は、お許し下さいましたか」


「はい」


 しばらく、沈黙が流れた。

 傍らの椅子に、マリー・ルイーゼが、腰を下ろした。


 仰向けのまま、ナイペルクは、天井を見つめた。妻の趣味で、天井には、美しい絵が描かれていた。薔薇の花の飛び散る中を、大勢の天使が飛び回っている意匠だ。

 病人ナイペルクは、ため息をついた。

 ……全ては、誤解から始まった。

 ……。

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