第26話 龍の谷
龍の谷は王都キスリィから北東に在る。はっきりと龍神が何処にいるかまでは判らないので、着いたら出たとこ勝負だ。
ひたすら山に向かって歩く。馬車などは使えるような道では無い。
谷がある場所は今見える山の裾を回りこまなければ行けない。景色が余り変わらず単調で気が遠くなりそうだ。魔物でもたまに出てくれば気が紛れるのだが、龍神のお陰か全然出て来ない。
「なんか面白い話はないか?気が滅入る」
「でしたら疑問があります。勇者はセレブレイの為に霊脈を取ろうとしてエルフの城を襲わせたのは解りますが、私が考えても御粗末な計画だと思います。結界の事とか知らなかったのですかね?」
リサの言う通りだ。俺も疑問に思う。
「自分も行くつもりだったからでは?」
「単純明解だな。その一言につきる」
そう、単純明解すぎる……。落ち着いたら本人に聴いて観るか。1つ気になる事も有るしな。
なんだかんだ言いながら歩いて、やっと谷の入口に到着した。
「ここからどうすれば良いのでしょう?」
「判らんが、大声で叫んでみるか?」
「何て?」
「龍神出てこい。とか」
「怒られませんか?せめて様をつけた方が良いのでは?」
「そうだな。龍神様、出てこいや!」
『なんじゃ?』
「うおっぷ、まじか?」
辺りが急に暗くなって俺達の前に大きな蛇の魔物?いや違う。確かに胴は長く蛇似ているが、手があるし足もある。立派な髭と2本の角、眼光鋭く俺の知ってる蛇の魔物とは次元が違うようだ。
「龍神様でしょうか?」
『そうじゃ』
「お聴きしたい事が」
『美味い酒が飲みたいのう。美味いものも食いたいのう。わしを呼び出しておいて土産の1つも無いのか?』
「うっ、しまった、龍と言えば酒か」
「シンさん、私達の村で長老に貰ったガバ酒がありますでしょう?」
「ある、ある。……ミノタウロスの肉もあったな」
リサ、レナが時空間の倉庫からミノタウロスの肉と酒を持ってきて料理を作り始めると、肉の焼ける香ばしい匂いが辺り一面に漂う。
『お~良い匂いじゃ』
「龍神様、これを」
『うむ。やや甘口でありながら後味スッキリ、度数もそこそこ有るの、甘露甘露』
ご機嫌良さそうだ。
『で、何が聴きたいのじゃ?』
「不浄の門の消し方を龍神様にお伺いするようにと、キクリア様が」
『……そうか、気配は感じていたのだ。3000年前は不浄がどのような物か不確かだった故、壊滅寸前だったこの世界を神々の特殊な魔力で無理矢理止めたのだ。人族でも犠牲になった者はいるがな』
「どれ程の物か、私には想像がつきません」
『うむ。1つではなかったのだ』
「と仰ると?」
『あの時開いた不浄の門は全部で14門だった』
「えっ、1つだったのでは……では今回もですか?」
『今回は1つと思われる』
1つも欲しくはないが、良かったのだろう。内心ほっとした。
「それで門を消す方法とは?」
『ある人族の持つ魔力の元だ』
「それは、どの人族のなんですか?」
『不浄の持つエナジーを相殺する特殊な魔力の元、それはメレ一族の血。それもターンツ家の物でなくてはならん』
「メレ一族……またメレか」
「どう言う事ですかシンさん?」
「リサ、レナの国にあるのはメルレだろ?」
「そうです」
「似たような名前を聞いた事があって、ずっと気にかかっていたのが少し前に思い出したんだ」
「何ですか?」
「村人全員が殺された事があったろう?」
「…………ドゴスさんの村」
「そうだ」
「シン様はメルレとメレは同じと考えているのですね?」
「そうだ。同じ一族が何だかの理由で分かれたんだ。だから名前も似ている。長い歴史の中でこう言う事はよくあると俺は思う」
「確かに。……あれ?勇者もメレの一族って言う事ですよね?」
「…そうだな。ああ、生け贄にされたって事は……」
『メレの血を使って不浄の門を消したのだ』
「そういう事か」
「可哀相」
「これでメレの村の人達を殺した犯人が解ったな」
「……勇者が復讐したんですね。子孫の人達に」
「納得してなかったんだな、きっと。自分だけ、なぜか生き残って異世界に行った。そしてまた元の世界に召喚されたんだ。どんな気持ちだったのか」
「皮肉な話ね」
「龍神様、その血をどうやって使うのですか?」
『ターンツ家の血を引く者から血を分けてもらい、血を魔力に変えるような魔道具を造るのだ。その魔力を増幅させ不浄の門にぶつければ良い』
「血を引く者って勇者ですよね?協力してくれるでしょうか?」
「説得するしかないだろう」
俺が勇者によって魅了されない様に、龍神様に協力してもらう。
時空間で両手両足を拘束して、勇者の時間を動かす。
「貴様誰だ!」
「俺はシンと言う者だ。勇者の貴方に聴きたい事がある」
「……私の魅了が効かない。そうか、あんたのせいだな?」
『左様だ』
「ふん、何だ?」
「エルフの国を襲わせた奴隷の残りは何処にいる?」
「何の話しだ?」
「不浄に取り憑かれた奴隷だよ」
「だから何の話しだと言っている」
「奴隷商街から逃げた……本当に知らないのか?」
「知らん」
勇者じゃない?じゃ誰だ。
「もう話しは終わりか?だったら解放しろ!」
「あ、ああ、すまない。不浄の門を消す為にあんたの血が欲しい。協力してくれ、手荒な事はしたくない。恨みは有ると思うが」
「はっ、少しは歴史を学んだようだな。…………良いだろう。もう俺の復讐はすんだしな、にげはせん。そこの龍がいるのだ無理だろう、ここから出せ息が詰まる」
「解った」
「シンさん」
「勇者は協力してくれるそうだ」
「良かった」
「ヘルファイアー!」『馬鹿者!よすのだ!』
「えっ?」
それは信じられない光景だった。勇者は自分にヘルファイアーをかけ、自らを業火の炎に包んだ。
「何て事を……」
「アハハ……ハ、この世界など滅べば……良いのだ。ざまあ……見……ろ……」
何てこった。
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