第24話 戦うしかないか……

 思い出した。リサ達の村で聴いた話を。


「厄災を治める為に、生け贄になった人達は天空の真っ黒い穴に吸い込まれたんだよな」


「確かそうだった感じの話でした」

「なんとなく私も解ったような気がします」


「だよな。問題はその人達が吸い込まれた先がどんな所だったかだ。勿論、その時点で死んだかもしれないが生贄になった上に行った先がとんでもない所だったら、勇者の気持ちも解かる」



「どうしてです?」


「生け贄にされたんだぜ、俺だったら御免だね。嫌なこった。大体どうやって生け贄を決めたんだ、納得してなったのかもしれない」


「つまり皆を恨んでいる」

「そうだ」



これは困った事になったな。




ーーーー



「神父様、銅板の方はどうですか?」


「場所の手掛かりになりそうな事は今の所無いな」


「やはり全部ないとダメですかね?」

「そうだな、何か有ったのか?」


「ええ、実は……」




「そうか……そうなると協力は期待出来んな」

「でしたら力ずくでも」


「そんな事をして国同士の争いにでもなったら、それこそ不浄の思うツボだろう」


「すいません……しかし勇者さえ倒せば、魅了が解け、国王達は正気に戻るのでは?」


「ふむ、一理有るか。……だが慎重にせねばならん」


「解っています」



とは言ったものの、どうしようか?……単純な話し、勇者を時空間に閉じ込めれば良いのではないか?その間に魅了にかかっている連中を正気に戻す。上手くすれば閉じ込めた瞬間に戻るかもしれない。これだ。となると、どうやって会うかだな。




「今度は魅了を解除する魔道具が欲しいと言うのか?」


「はい」

「……解った頼んでみよう」

「ついでに……」



ーーーー



時空間を通ってセレブレイの王都で聴き込みを開始。勇者と接触出来る機会を探す。


「どうだ?何か判ったか」

「こっちは何も無いです」


「そうか、シンシアは?」

「耳よりな情報がありました」

「ホントか?」


「はい、兵士達に聴いたのですが2日後に軍事訓練で東の森に勇者も行くそうです」


「それは良い、待ち伏せして落とし穴に落としてやろう」


「騒ぎになりませんか?」


「なるとは思うが、そこまで気にしてられん。よし、今から東の森に行って待機してよう」




「「「はい」」」



ーーーー



イチニノサン、それ。


「はい、いらっしゃい」


「さすがの勇者様もシンさんの落とし穴時空間には手も足も出ませんね」


「よし。暫くはここで、じっとしていて貰おうか」


「次の予定は?」

「これさ」

「なるほど」


「では着替えて行くぞ」

「「「はい」」」



ーーーーーーーー



「随分と待たせますね」


「国王に謁見となれば、いくらアルダルト王国の使者といえども手続きには時間がかかるものさ。今回は先ぶれも無かったしな」


「勇者様の失踪の件も有るでしょうし」

「そう言う事」


「だとしてもですよ、今日で5日目です」


「美味いもんが食べれて良いだろう?」

「そうですけど……」



「失礼致します。謁見の準備が整いましたのでご案内致します」


「分かりました」


「やっとですね」

「さて、どうなるか」




勇者を落とし穴に落とした後、俺達はセレブレイの国王に謁見を申し込んだ。




謁見の間に通された所で周りを観る。


お偉いさん達であろう貴族は5人、騎士の中で装備の良い奴がいる。団長だろう。


残念な事に下っぱ以外は、皆が魅了状態になっている。


国王が入って来たので俺達は跪く。当然に国王も魅了されている。


魔道具を出して、いちいち解除してはいられないな。全部落としちゃえっと。


「ほいっと!」



「ほとんど全員ですね」

「めんどくさいからな。国王からやるか」


「ここは何処じゃ?」

「陛下、ご無礼をお許し下さい」


魔道具を使って正気に戻った所で、理由を説明して陛下に親書を渡す。


「あの勇者が……ここに書かれているのは真の事なのじゃな?」


「はい、陛下。今、争い事を起こすのは得策ではありません。銅板により世界が救われるなら、各国全てがセレブレイを讃え、エルフの国の説得に力を貸すでしょう」



セレブレイの国王は目を瞑り深く考え込む。頼むから良い返事をしてくれよ。



「むむぅ……よかろう、銅板は持って行くがよい」


「ご英断、感謝致します」



助かった。


ーーーーーーーー



「やりましたね、シンさん」

「意外と楽勝だったな」


とは言っても勇者の扱いをどうするかは頭が痛い所だ。考えたくないので先延ばしにしよう。この時俺は、行方不明になっている奴隷達の事をすっかり忘れていた。



銅板を持って帰るとシスターが小躍りして喜んだ。それを見た神父様が安堵の溜め息をする。


「成果が出て良かったな。国王陛下と大司教様にはだいぶ無理を聞いて頂いたからな」


「無理を言ってすいませんでした」

「慣れっこだよ」



「ふふ、神父様たら。ところで銅板の解読には時間がかかります。シンはどうするの?」


「でしたら龍の谷に行って、不浄の門の対処の仕方を聞いて来ます。龍の谷って何処です?」


「エルフの国の西に在る山の中よ」


「だったらセレブレイ迄の時空間が使えるな、ついてる」


「なあに時空間て?」

「シンのスキルで創り出す空間の事だよ」

「神父様は入った事が有りますの?」


「うむ、ここに来るときにな、快適だぞ」

「シン、ずるいですよ」


「そんな事を言われましても」

「帰って来たら私もいれなさい。いい?」

「分かりましたよ」



ーー


「シスターって意外と子供っぽいですね」

「全くだ」



エルフの国クワンタムはセレブレイの南に面している。


セレブレイの王都からなら、時間がかなり稼げるので1ヶ月もかからず王都キスリィに着いた。



「エルフの国だけあって森と山が多いですね」

「王都の周りでもこれだけの緑だもんな」


「ギルドには寄るのですね?」

「ああ、そうする」




ギルドの受付嬢は美人揃いだ。噂に違わぬナイスバディ……。


「シン様は何処を観てるのです?」

「おうっぷ、いやぁ、掲示板は何処かな?」


話をそらそうと、きょろきょろしていたら男のエルフがギルドに飛び込んで来た。


「大変だ、色んな種族の武装集団が街を破壊しながら城に向かっている」



何だって!ギルドを飛び出し街中を観ると、服はボロボロだが装備は立派な物を付けている武装集団が目に入った。


「シンさん、あれって?」


「ああ、奴らだ」


これが狙いだったのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る