第21話 セレブレイの使者

「神父様、銅板の文字を写し取れないのですか?」


「それは考えたのだがな、1組しか成功していないんだ。1枚ずつ光の種類が違うらしい」


「何でそんな面倒な記録の遺し方をしたんだ、まったく」


「私もそう思うのだが……理由が有るのかもしれん」


「あ~、昔に何が有ったんだよ、もう」



ーーーー



「シンさん、どうするか決めたのですね?」


「考えたのだが、銅板を取りに来るって言うのが妙に引っ掛かるんだ」


「なるほど」


「うん、そこで銅板を取りに来るセレブレイの使者を観てみたいんだ」


「解りました」



セレブレイの使者が来るまで1ヶ月、ただじっとしているわけにもいかないが……。




「そう、ではセレブレイの使者が来るまでここにいるのね?」


「はい」


「それならシンにお願いが有ります」

「何ですか?シスター」


「危険かもしれませんが、ゼオノバ王国の苔むすダンジョンに行って貰いたいのです」


「苔むすダンジョン?で、何をすればいいんですか?」


「ルミナモス苔を取ってきて下さい」


「ルミナモス……あ~、なるほど、解りました。あそこなら、そこそこで戻って来れるし苔もどこにでも生えてる」


「ふふ、お願いね」



ーーーー


「シンさん、何で苔なんかを?」

「ルミナモス苔は光るんだ」


「???」

「???」

「……解った!」


「はい、レナ君」


「苔の光を当てたら、他の銅板も文字が出るかもしれない」


「御明察」

「そうか、色々と試さないと」


「可能性があれば少しでもやらないと」

「そうですね、頑張って行きましょう」



ーーーーーーーー



ゼオノバ王国領に入り苔むすダンジョン街、ウエストディレクに着いた。


「空気が重いですね」

「確かに」


「不浄の門が有るかもしれない1番の有力候補地だからな」


「仕方ないですね」


「そうそう、この街にも出張所ギルドがある、顔を出して見よう」


「「「はい」」」


小さいながらもダンジョンが在るお陰で、冒険者がかなり多くいた。


「シンさん」

「どうした?」


「これを見て下さい」


「どれ?……これは……国王を殺した奴の人相書か」


側にいた冒険者に話を聞いてみる。


「商人のヴァランって言う奴なんだが若いのにやり手で、いずれは大商人になるだろうと言われていた男さ」


「何であんな事を?」


「それはだな、悪い連中に目をつけられてしまったのさ」


「悪い連中?」

「バルキス公爵の手下どもだ」


バルキス公爵、あいつが発端か。ろくな事をしないな。


「そのお陰でヴァランははめられ財産は全て失い家族は皆、奴隷落ちさ」


その怨みをはらすべく、王族達が集まる朝の時間帯を狙って城に行ったのか。だが悪運の強いバルキス公爵はイカルガ王国の記念式典に行っていたってわけだ。


城での惨劇の後で奴隷商館街を襲ったのも頷ける。


2000人の奴隷は何処に行ったのか?見つからないところを見ると、1つには纏まってないのかもな、この前みたいに。


年よりの王族は居なくなり、唯一生き残ったバルキス公爵は自分が国王になれると思ったかもな。


しかしシンシアに手を出して廃人になったわけだ。


今この国は若い世代に移っている。いい方向に向かえばいいが、問題は不浄の門だ。




ルミナモス苔はダンジョンで直ぐに見つかった。リサ達が丁寧に岩や土から剥がしていく。


「よし、このくらいあれば十分だ、帰ろう」

「「「了解」」」



これで運が避ければ2枚目の銅板の文字が記録出来る。


俺達が王都に戻った時、後2、3日程度でセレブレイの使者が着くと先ぶれが有り、そしてルミナモス苔の光が有効か試せない内にセレブレイの使者が王都に着いた。





「いよいよですね神父様」

「うむ、何とか引き延ばし出来ればよいが」


「せめてルミナモス苔の効果が判るまでと思います」


シスターも祈るような気持ちなのだろう。


国王に挨拶を終えた使者が大司教と共に部屋に入って来た。


お互いに挨拶をした所で話を切り出したのは使者だった。一刻も待てないと言う感じが伝わって来る。


「銅板は既に用意して頂いているのでしょうな?」


「はい、ですが……」


使者とシスター達がやり取りをしている間、俺は口を出す事など出来ないので、使者をずっと観察していた。



この使者にはなんか違和感がある。表情に乏しいと言うか……そう、目の動きがほとんど無いのだ。



直ぐにスキル鑑定をする。今の俺はスキルレベルも上がっていて。従魔は8、時空間創生は7、鑑定とスキル鑑定は7なので、スキル鑑定では相手の状態を見る事が出来る。



こいつは自分が持っているスキルを封じられている……しかも魅了状態だ。


いったい誰に?……どうする?神父様に話すか、……大事になるのは不味い。


考えたあげく全員を時空間に落とした。神父様だけを動けるようにする。


「ここは?シン、どうしてこんな事を」

「この使者は誰かに操られています」


「なんだって……それでどうするつもりだ?」


「魅了を解くしかないのですが……」


どうすればいい?……。



ーーーー


リサが使者に向かって魅了を解こうと頑張ってくれている。リサのスキル悪夢なら精神支配を打ち壊せると考えたからなのだが、そうは簡単にはいかないようだ。何も無いまま10分が過ぎた。


「えいっ!」


リサが気合いを込めた。


「シンさん、どうです?」

「お、おう」


スキル鑑定で見る。スキル封じも魅了も消えていた。


「やったな、リサ」

「はいっ!」


使者の時を動かす。


「ここは?貴方は?」

「特殊な場所です」


使者に状況を説明するが、納得するまでかなり時間がかかった。


「魅了ですか?覚えが無い」


それはそうだろうな。


「では記憶に残っている最後の人は誰です?」

「最後にですか……勇者様ですね」


「勇者様?セレブレイは勇者召喚をやったのか?」


「あっ、いや……この事は内密に」

「解りました。シン、よいな」


「解っています」


セレブレイも召喚された勇者も、いったい何を企んでいる?

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