第19話 獣王国の怪

 古代文字の解読をする事になった神父様と分かれ1週間で獣王国ベルンガルに入り14日後にベネトールに到着。


「あ~、またあの宿に泊まりたいですね」

「ふかふかのベット良かったですもんね」


「リサさん達は前に来たことがあるのですね?」


「そうなんです。あの時は虎族のお嬢様が拐われて、お礼に泊まらせて貰ったんです」


「そう言えばベットを買い換えてなかったな、買って行くか」


「「やった~」」


商店や商会を見ながら大通りを歩いていると声をかけられた。


「兄さん達」

「ん?」


誰だっけ?……。


「誘拐事件の時に居た冒険者の人」


レナが憶えていたようだ。ああ、あの時の獣人冒険者か。


「憶えていてくれたか」


「も、もちろんさ、あの時の犯人は判ったのかい?」


「ああ、証拠は無いがゼオノバのバブール男爵と言う事は判っているが、後ろにもっと大物がいると見ている」


「またゼオノバか……」


「なあ、兄さん達、また手を貸して欲しいのだが?」


「手を……何が有った?」

「話を聞いてくれるなら、ギルドに来て欲しい」


皆を見ると頷いている。


「解った、行こう」


ーー


久しぶりに会ったギルドマスターは疲れた顔をしていたが、入って来た俺の顔を見ると牙をむき出して迎えてくれた。




「なるほど、虎族のお嬢様が捉えられていた森の洞窟に、今たむろっている者達がゼオノバから消えた奴隷達かもしれないと言う事か」


「ああそうだ」

「相当に厄介だぞ」

「だから困っている」


「消えた奴隷全部か?」

「いや、100名程度と思われる」

「それにしても多い」


「何か良い案はないか?」


「有るにはあるが、金とそれなりに時間がかかる」


「構わない教えてくれ」

「解った」



「実体の無い物を攻撃出来るブレイクノンマテリアルとリマインドの魔道具か?よし、領主に言って作って貰う」


「相手が大人しくしてるかな?」

「見張りは付けて有るが」


「そうか、上手く行くといいな」

「手伝ってくれんのか?」


「魔道具が出来るまで時間がかかる。その間に遺跡の森に行ってきたい」


「……理由が有りそうだな。解った、待ってる」


「それまで事が起こらない事を祈ってる」

「ああ、ありがとう」




「シンシアのお父様の所に居る獣人の子供の様な奴隷が100人では本当に大変ですね」


「殺すだけなら簡単だが、操られているようなものだからな、流石に忍びない」


「早く遺跡に行って帰って来た方が良いですね」


「その通りだ」


馬車を飛ばして一路ダルルカの街へ、頑張った甲斐があって翌日の夕方には着いた。


「明日の朝に森に出発だな」

「「「解りました」」」



ーーーー



「今度こそですね」

「だな。リサこれを」


ハデス様から受け取った宝珠を渡す。


「私で良いのですか?」

「ああ」


礼拝堂の跡でリサが宝珠を天に向かって掲げて祈る。


キィィ────ンと耳鳴りの後、頭の中に声が響く。


『よく来てくれました勇気ある者達』

「キクリア様」


『不浄の意味はもう解っていますね?』

「はい、生き物の持つ負の感情と考えています」


『その通りです。しかし、今回の門はその出所が問題なのです』


「出所ですか?」


『そうです。この不浄は異世界から噴き出して来る物なのです。一筋縄では行かないでしょう』


「異世界から噴き出る……それで不浄の門の場所は何処なのでしょう?」


『場所は銅板が教えてくれます』


あの銅板か。


「どうしたら防げるのでしょう?」


『残念ながら、そろそろ宝珠の力が無くなって来たようです』


薄い青色だった宝珠が紅く染まり紫色に見える。


『龍の谷の龍神を訪ねな……い』


宝珠は真っ赤になり割れてしまった。


「ここまでか」

「でも、やるべき事が解りました」

「そうだな」



ーーーー



帰りは盗賊達に襲われる事が多く、ベネトールの街に戻って来たのは4日後になった。ギルドに直行する。


「おっ、戻って来たか」


ギルドマスターだと言うのに、部屋には居る気の無いタイプのようだ。


「状況は?」


「動きは無い。魔道具の方は領主の許可が出たので錬金術師達が夜通し交代で作っている」


「作っても絶対に無駄になる事は無い。必ず必要になる時が来る」


「うむ。所で差し支えなければ色々と話を聞かせてくれないか?」


「解った。俺はシンだ」


「あの時から世話になっているのに、名乗って無かったな。レパルドだ、宜しく」



ーー


「……不浄の門か、ゼオノバ王国に在るかもしれないのか……」


「まだ判らんが、確定するには時間がかかる」

「そうか、隣国に在るとなれば厄介だな」


「出来る限り準備はしておいた方がいい」


「この街だけの話ではないな。領主に言って国王にも伝えて貰った方がよさそうだ」


「それが良い」




俺達が戻って来てから5日が経った。魔道具は20セットずつ出来た。相手は100人なので、あと30セットは欲しい所だ。



「レパルドさん、奴らが動き出したぜ」

「なにっ!」


「何をするきだ」

「それが山の裏側に移動し始めたらしいんだ」


「街を襲いに来る感じではないのだな?」


「従魔が持ってきた手紙には、そうは書いてなかった」


「最優先はこの街を護る事だからな、それならば良いが」


「奴らそこで何をしているんだ?」

「流石にそこまでは解らない」


「俺の従魔を行かせてもいいか?」

「シンの従魔?」


「こいつさ」


空中からミイが飛び出てくる。


「うっ、いつの間に。……カッツェルか、確かにこの魔物なら近くまで行けるかもしれんが……どうやってシンに伝えるんだ?」


「ミイが見た物は俺にも見えるのさ。今だから言うが、拐われたお嬢様の場所が判ったのもミイのお陰だ」


「な、なるほど」

「じゃ、行ってくる」

「頼む」




「大勢は不味い、皆は待っててくれ」

「今回は仕方有りませんね。ミイ、頼むね」

「にゃにゃう」


俺とミイは街を出て夕暮れの森に向かった。

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