第15話 海魔 その②
ギルドの大会議室の一番後、出口に近い所に座る。
冒険者の他に漁師達も来ているらしく、日に焼け筋肉隆々の獣人が前の方に陣取っている。
「シンさん、"不浄"が関係していると思いますか?」
「さて、どうかな」
ほとんどの席が埋る、始まる様だ。
「朝早くから済まんな皆、この街にとって不味い事が起こると言う情報が入った。そこで、皆の話が聞きたい」
話の内容はこうだ。
海人族は、海の潮の流れがいつもと違うことに気がついた。考えられる事は、彼らにとって1つしか無い。
海人国の沿岸と沖合いの丁度境い目の海底に、祠が在る。潜って調べた所、壊れて中の御神体が無かったのだ。
大騒ぎになり原因を調べたら、潮の流れがおかしくなる前に、白い漁船が境い目から少し外れた所で、漁をしていたのを見ていた者がいた。
沿岸での底引き網は禁止して有るのだが、網が流され祠が引っ掛かってしまった可能性が高い、御神体は漁船が持って帰ってしまったのだろう、と言う事になって慌てて海人族の人達が来たらしい。
「何でも構わん。気づいた事や変わった事はないか?」
「そう言えば最近、ラモの奴が羽振りがいいって話だ」
「俺も聞いた。高級娼館に入り浸りらしいぜ」
「成る程、匂うな。誰かラモを連れてこい」
ーー
待つこと30分。酔っ払った犬族の男が連れてこられた。
「なんだよ!これからが、いい所だったのによ」
「お前に聞きたいのだが、これくらいの水色の水晶玉の様な宝石を知らんか?」
「な、……し、知らねぇ」
「嘘をつくと、奴隷にして鉱山送りにするぞ」
「う、……うう、売っちまったよ」
「酷い!誰にです!この人でなし!何をしたか解っているの?」
「落ち着いてくれ、ちゃんと聞くから。誰に売った」
「た、旅の商人に」
「今、何処にいる?」
「知らねぇよ、ゼオノバ王国に行くって言ってた」
『うわっ、最悪の行き先だな』
『不浄が絡むと嫌ですね』
『ゼオノバって危険なのですか?』
『バルキス公爵の国ですよ』
『……そうでした』
「質問いいか?」
「ん、獣人では無いな。何処かで見たような……なんだね?」
「具体的に御神体が無いと、どうなる?」
「私がお答え致します。私達の国と、この街……いえ、海岸線に接している街は全て海に呑み込まれます」
「何だって!」
大会議室にいる全員が凍りついた。
「……それはいつ頃だ?」
「早ければ10日以内にでも」
再び全員が凍りつく。最初に口を開いたのは、ギルドマスターだ。
「ラモ、商人はどんな奴だ?」
「お、親子で3人だ。大きい息子の方は、腕の立つ冒険者だって言ってた」
「売ってから3日が経っている。皆、追いかけてくれ」
「解った」
ラモから商人の細かい容姿を聞いて、皆が大会議室を出て行った。
「私達はどうします?」
「アルダルト王国にも海岸線沿いの街はたくさん在る。ウルム村も近いと言えば近い、心配ではあるな」
「シンさん、行きましょう」
「そうするか?」
「「「はい!」」」
ギルドが捜索をする者には馬と馬車を貸し出した。
「ここからゼオノバ王国に行くには、この街道を使うのが普通なんだが……」
「どうかしましたか?」
「ラモが言ってたろ。下の息子は14歳に、ついこの間なったばかっりだって」
「?」
「14歳と言えば?」
「解りました。スキル鑑定の儀ですね、シン様」
「正解。まだやってないとしたらどうする?」
「……商人なのですから、やはり商いの神エイオス様の所でやりたい……だから大神殿の在るザラツの街に寄る筈?」
「ご名答」
「じゃ、東に向かうこっちの街道って事ですね、シンさん」
「そう言う事になるな。あっちの街道は皆に任せよう」
途中で襲って来る盗賊と魔物は、ミイとライに軽く捻ってもらい、馬車を飛ばす。
「白いボルテックスタイガーなんて、初めて見ました」
「シンシアは初めてだったな。そう言えば珍しいのかな?まぁ、ボルテックスタイガー自体に滅多に会わないからな」
頭だけ出して、身体は竜巻状態になって馬車と並走しているライの頭をシンシアが撫でる。ライは嬉しそうだ。ミイはリサの膝の上でレナにもふもふされている。
2日でザラツの街に着いた。
「商人達が出発して5日が経っています」
「まだいるでしょうか?」
「う~ん、取り合えず神殿に行って見よう」
「シンさん、あの人達は違いますか?」
鍛冶屋から出てきた3人組だ。ハゲ親父に男が2人、間違いない。見事な光具合いだ、まさにラモの言った通り。
「すいませんが、ちょっといいですか?」
「何でしょう?」
「トロイカの街で水色の宝石を買いましたよね?」
「はい、それが何か」
「ええ、問題になってまして」
ちゃんと理由を説明する。
「代金はギルドが支払いますので」
「そんな事に……解りました。ジュナサン、珠玉を渡しなさい」
「…………」
「ジュナサン?」
「嫌だ!この珠玉は今作っている俺の剣に嵌め込む。そうすればもっと俺は強くなる」
「ジュナサン、何を言っているのだ」
「シンさん、これってもしかして?」
「ああ、ヤバい」
俺の目には、黒いモヤモヤがジュナサンの身体の中に入って行くのが、ハッキリと見えた。
「みんな、気をつけろ」
すんなりと事は運ばない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます