第14話 海魔 その①

 シンシアの救出の後、様子見で一週間滞在したが何事も無かったので、アルカド伯爵の屋敷を出発する事にした。


「お世話になりました」

「何を言っている、助けてもらったのは私達だ」


シンシアが、いつものドレス姿ではなく冒険者のような格好をしている。元気になったのだ、きっと久々に何処かに行くのだろう。良かったな、などと思いながらシンシアを眺めていると、伯爵がコホンと咳ばらいをした。


「それでだ。私も考えたのだが、シンシアはこの通り、とても美しいのだ。良からぬ事を考える奴が出てきて、また同じ様な事が起こらんとも限らん。そうだろう?」


「有り得ますね」


「うむ、シン殿なら解ってくれると思っていたよ。そこでだ、一番安全な所は何処かと?考えた結果、シン殿に娘を預ける事にした。宜しく頼む」


「はぃ~?」

「シン様、宜しくお願いします」


……ああ、ナーシャ様のどや顔が見える様だ。これも神の思し召しなら、当然の成り行きか。


「リサ、レナはいいのか?」

「もちろんです」


この一週間で3人は仲良くなったからな、根回しはバッチリと言う事か?


「解りました。しかし危険な旅になりますよ」


「それは承知している。シンシアも覚悟の上だ。だが、シン殿が護ってくれるだろう、違うかね?」


「はい、必ず」

「ふふ、頼む」


「お父様、行って参ります」

「しっかりな」


「シルバーも身体に気をつけるのですよ」

「……お嬢様」



不浄に取り憑かれていた獣人の子達は、伯爵が面倒を見てくれる事になった。これで、お互いに幸せになるだろう。


獣人の国領に入り、海岸線の街道を進んでドワーフの国に行くことにした。


今回は、理由の解らない不浄の呪いの様な物で、伯爵もシンシアも不覚をとったが、シンシアは相当な実力者だ。吸血鬼のお嬢様だからな……そこが、ちょっと心配なのだが。



「シンシア、少し聞き難いのだが……」

「はい、何でしょう?」


「食事はどうなっている?」


「……、あ~、大丈夫です。私は人の血は必要としません。たまに、動物か魔物の血を少し頂けば、すみます。お母様の方が強く出たのだと思います」


「そうか……お母様には、お会いしなかったが?」

「お母様は私が小さい時に、亡くなりました」


「……伯爵はそんな可愛い1人娘を、よく危険な旅に出したね」


「お父様は、私の頼みは大抵きいてくれます」


「ふふ、そうか。そうそう、仲間を紹介しよう」

「えっ?」


空間からミイが飛び出て、シンシアの膝の上に乗る。


「まぁ、可愛い」


「ミイだ、宜しくな。もう1頭ライがいるが、さすがに馬車の中では出せないんだ」


「会うのが楽しみですね」



俺達の他に客はいないので、気楽に過ごす事が出来た。このまま何事もなく港街、トロイカに着いて欲しいものだ。



神様が俺の願いをきいてくれたのか、問題なく無事にトロイカに着くことが出来た。しかし、街に入った途端、雲行きが怪しくなった。


何人かの若者が大声で何かを訴えている。


「何事でしょうか?」

「獣人ではないようですね」


「あの人達は、西に在る島国の海人族の様です」


「海人族か?だとすると、自分の国を出るなんて珍しいな」


「そうですね。余程の事が有ったのでしょう」


海人族の若者達が一生懸命に話をするが、獣人の人達はチラッと見るだけで、立ち止まって聞く人はいない。いつから話していたのか判らないが、全く相手にしてもらえないので、若者達は座りこんでしまった。


そこに1人の獣人の女の子が駆け寄って行って、暫く話をしたかと思うと、みんなで何処かに行ってしまった。



「よく判らんが、取り合えず良かったのかな?」

「そうですね」


「さぁ、宿を探そう」

「はい」



3件目の宿でようやく部屋が空いていた。最悪、安全で全て揃っている時空間が有るので、問題は無いのだが、微妙に味気無いので、やはり宿が良い。


夕食は宿の食堂で食べる事にする。注文を取りに来た女の子は、何処かで見た顔だ。


「あっ、さっきの海人族の人達です」

「本当ですね」



大きなテーブルで、かなり腕のたつ強そうな虎族の男と話をしている。


「ねえ君、あの虎族の人は誰かな?」

「……あれは私の父ですが、何か?」


「いや、かなり強そうなんでね、気になって」


「ああ~、成る程。私の父はここの店主兼、ギルドマスターです」


「あっそうなの?どうりで。ありがとう」

「いいえ、ご注文は?」


「おっと、皆、好きに頼んでくれ」

「「「はい」」」




「ここのギルドマスターが、ちゃんと話を聞いてくれたんですね」


「良かったですね」



「そんな悠長な事を言っている場合で、は有りませんよ!」


海人族の女性が、声を荒らげて立ち上がった。食堂にいる全員がぎょっとして見る。


「落ち着け!まぁ、座れ」

「もう一刻の猶予も無いと思って下さい」


「しかしな、簡単には見つからないぞ。手掛かりが白い漁船だけではな」


ギルドマスターの声も大きくなっているので、ここまで聞こえてくる


「危険が迫っているのも解った。なら、なおさら冷静になれ。明日朝一番で冒険者に召集をかけて、聞いて見る。いいな?」


「……解りました」



う~ん。気になる。首を突っ込みたくは無いが、 ちょこっとなら良いよね。俺は、明日ギルドに顔を出す事に決めた。



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