第13話 不浄

 賢者が作ったと言う辞典を引きながら、魂の世界だか精神の世界かの入口を造る手順を覚えていく。


「はぁ~」


こう言う地道な作業は、ため息が出る。次は"ナジス"どう言う意味だ?……ふんふん、不浄と言う意味だ…………不浄ね、不浄……不浄の門、関係が有るのか?


……成る程。


ーーーー




部屋の中央に大きな魔法陣を1つ、その周りに小さい魔法陣を4つ造る。


大きな魔法陣に入って、書きためた文言を唱える。


[トントン]


誰よ、いいところを邪魔するの?


「シンさん?」

「うっ、リサ、レナ、ミイ」


「何日も顔を見せないで、1人で何をやっているのです。みずくさいですよ」


「ぶにゃぅ」

「いや、これはだな」


「伯爵に話は聞きました。私達も行きます」


「しかしだな、ダンジョンとは違うのだぞ。もし帰ってこれなかったら、この世界はどうするんだ?」


「そ、それはですね……」


「ほら見ろ、お前達に無責任な事は出来まい。俺だけで行く、心配するな」


「解りました。でもミイは連れて行って下さい」

「……解った、ミイ、いいか?」

「にゃう」


「よし」


改めて確認だ。向こうの世界で俺のスキルが使えるか、行ったらすぐ確認する事、これが最初にやる事だ。


「深淵に潜む闇の住人よ我は求め訴えたり、不浄の蠢く負なる世界へ誘え!」


4つの小さな魔法陣が輝き順に回り出す、4つ目が回り出した時、大きな魔法陣が光り俺を包み込んだ。


「「シンさん!」」



光に眩んだ目が慣れ、元に戻り周りが見える。ここはシンシアの部屋ではないのは明らかだった。


時空間に入り、ミイが居るのを確かめる。


「にゃ!」


時空間に入れるし、造れる。時空間の外に出てミイにライを召喚してもらう。ライが出てきた。


「がぅ」

「よし、魔法も使えるな。行くか」


何処に行けばいいか判らないが、全体が赤みがかったこの世界を歩く。


暫く歩くと大きな河が在った、どんよりとした流れの河だ。向う側は薄暗い、なんとなく解る。あっちは、あの世で冥界になるのだろう。


河沿いを下流に向かって歩いて行くと、冥界の方を見て立っている女性がいた。


「シンシア?」

「誰だ貴様?」


「にゃう」 「がるる」


意識を乗っ取られているのか?


『私のシンシアに近づく奴は誰だ?許さんぞ』

「バルキス公爵だな?」


『ほう、私を知っているのか?この世界にまで知っている者がいるとは、私も有名になったものだ』


「シンシアを自由にしてもらおうか」


『貴様、誰に口を利いておる、死ぬがよい』


俺の時空間に落とす。



『ぬぅ、何をしたか知らんが、こんな事ではシンシアを解放できんぞ』


「そんな事は承知しているよ。今度はお前が廃人になる番だ」


「何だと?」



俺は前から不思議に思ってたんだ。人体実験をしてた姉妹が、いつ正気に戻ったのか?ってね。死者の書を訳していて気づいた事も有ったので、伯爵に頼んで大急ぎでギルドに聞いてもらった。


起き出した姉妹が暴れ出したので、ギルドがやった事は実体の持たない生命体を攻撃する魔法、"ブレイクノンマテリアル"と混乱を治す"リマインド"をかけたそうだ。


よくそんな事を思いついたなと感心したのだが、丁度その場に、王都に戻る途中の宮廷魔道師、レイオダリル様がいらしてたそうだ。運が良かったとしか言いようがない。


そして1つの魔道具と、いくつかの巻物も伯爵に用意してもらった。


「不浄の意味は、おおよそ見当がついている。この巻物は宮廷魔道師様に作ってもらった特注の物だ。"ブレイクノンマテリアル"と言えば、お前なら解るだろう?」


「くっ、それをどうするつもりだ?」

「決まってる。お前を撃つ」


「そんな事をしたら、シンシアがどうなっても知らんぞ」


「はは、安全なのは確認済みだ。消えろ!」


巻物が作動し閃光がシンシアを包み込んだ。シンシアはその場に崩れ落ちた。


『はは、バカ目。攻撃方法を先に言う奴がいるか』


黒い霧が人型になっていく。バカはお前だ、シンシアの外に出てもらわねば困るからな。


『今度は私の番だ……』


「ここの中は俺の世界だ。お前に自由は無い」


時が止まり、動かない黒い人型を残してシンシアと2人外に出る。



「お待たせ」

「にゃ」「がぅ」


「バルキス公爵、お別れだ」


時空間を閉じる。これで、あいつの腐った感情、精神は消滅し、ゼオノバ王国の本体は、生ける屍になった。



シンシアに混乱回復の魔道具を使う。直ぐにシンシアは、意識を取り戻した。


「貴方は?」


「アルカド伯爵に頼まれて貴女を迎えに参りました」


「お父様に……バルキス公爵は?」

「片付けました」


「えっ、……素敵ですね。ありがとう御座います」


「これで元の世界に戻れる筈です。試して見て下さい」


「はい」


シンシアの姿が薄れて行く、帰った様だ。


「さあ、俺達も帰ろう」

「にゃう」「がぅ」



ーー


「「シンさん!」」

「ただいま」


「シン殿、ありがとう」


伯爵とシンシアが抱き合ってこっちを見ている。


「シン様、感謝致します」

「良かったですね」



ーー


「不浄の意味が判ったのですか?」

「ああ、大体合っていると思うぞ」


「何なのです?」


「人の持つ負の感情。妬み嫉み、その他もろもろだ。理屈は解らないが、これが意思を持ったのだろう。これに取りつかれると、自分の欲望が暴走する。そして俺の想像だが、肉体と精神が極限まで強化される」


「ああ、それでですね」

「な、納得するだろ?」

「「はい」」



取りつかれた人の対応は判ったが、誰でも使える魔法じゃない。まだまだ解らない事だらけだ。


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