第16話 海魔 その③

 ジュナサンは剣を抜き構える。騒ぎに気づいた街の人達が集まってきた。


大勢の前でスキルは使いたく無いが仕方がない。俺達の顔まで覚えてない事を祈って、商人親子と一緒に時空間に落ちる。


ジュナサンの荷物と懐を探って見る。有った!3cm程の水色の珠、御神体だ。……これって海神アズミウスが造った物じゃないか。


これ程の物なら、鑑定のスキルが無くても感覚の鋭い奴なら、確かに凄い物だって判るな。


「シンさん、この人をどうするつもりです?」


「ふっ、ふっ、ふっ、これを見たまえ」

「何ですかそれ?」

「2つ有りますね。魔道具の様です」


「あっ、それってお父様がシン様に、出発の時に渡してた物ですね」


「その通り」


これはアルカド伯爵が、地位と金に物を言わせて錬金術師に、突貫で作らせた魔道具なのだ。


「ブレイクノンマテリアルとリマインドが撃てる魔道具だ。使った後は、魔力を込めれば何度でも撃てるぞ」


「凄いですね」


「伯爵と、こそこそ話をしてると思っていたら、その事でしたか」


「じゃあ、あの人は正気になりますね」


「そうだ、これでむやみに取り憑かれた人を傷つけずにすむ」



皆に使い方を説明し、実際にリサにブレイクノンマテリアルを、レナにリマインドをジュナサンに撃ってもらい、時間を動かす。


「どうだ気分は?」

「俺は一体なにを?」


「父の言う事を聞かず、この人達と戦う所だったのだ」


「……俺がどうして……どうしてそんな事を?」


リサが俺に代わって説明をする。


「そんな事が起こっているのですか?」


「ああ、ゼオノバ王国には行かない方が良いかもな」


「解りました。行き先は変更します」


「取り合えず、代金を受け取りにトロイカのギルドへ行けば良いんじやない」


「はい、そうします」


ーーーー




馬には悪いが、休憩はそこそこにして馬車を飛ばしてトロイカの街へ向かう。街に戻ったのは俺達が出発してから5日後だった。


「海人族の予測では10日以内と言う事でしたから、何とかなりますね」


「そうでも無さそうだ。見てみろ」


街道から見える海が荒れているからだ。街の中はやはり慌ただしかった。港は僅かだが既に浸水してきているので、街の人達の避難も始まっている。


疲れ果てた馬を馬屋のおばちゃんに預け、ギルドに向う。


ギルドの中には、苦しい顔をしたギルドマスターと海人族の人達がいた。


「マスター!」

「ああ、君達か」


「それは!」「御神体!」

「なにっ!」


「取り戻してくれたのですね」


「ああ、この人達が気持ちよく渡してくれたよ。マスター、面倒をみてあげてくれ」


「おう!分かった。で、どうする?」


「一刻の猶予も有りません。直ぐに祠の在った場所に行きます」


「この荒れた海をか?」

「行かなければ終わりです」


「うむむ。解った俺も行こう」


「シンさん、どうします?」


「分かった。トコトン付き合うか、俺達も行くよ」



海人族が乗ってきた船に乗り込み港を出た。


「御神体と言うからには、何かを封印しているのだろう?」


「はい、私達は海魔と呼んでいます」

「海魔か。どんな魔物なんだ?」


「海水そのものと同じです」

「海水?」


「海水ですから、海に入れば見分けはつきません。海を自在に操れます。そう言う意味では海神様と同じと言えます」


「なんて厄介な」


船は高波のせいで大変だが、海人族の船は特別だった。魔道具のお陰で力強く進む。しかし、直ぐに問題が起きた。俺にだけだが。


「シンさん?大丈夫ですか」

「気持ち悪い」


シンシアがヒーリングをしてくれるが、治まらない。


「くそ、この揺れ……何とか……」

あっ、俺だけ浮けば良いのだ!床から数十cm浮かして薄い時空間の台座を造って横になる。


「ふぅ~」


他の連中は波と格闘していて、俺の事など気にしていない、よしよし。


「シンさんだけ、楽してずるいです」

「皆がやったらバレるでしょ」

「ぶぅ~」



「た、大変です!」

「どうした?」

「あれを見てください」


「うっ!」 「ああぁ……」



それは高さ100mは有るかと言う大波だった。


「もう、どうにもならん」「海神様……」

「これまでか」

「終わった」



「シン様」「「シンさん」」「にゃう」

「心配するな」



大波が迫る。そして船は呑み込まれた。


「えっ?」「えっ?」「えっ?」「えっ?」



船は大波を通り抜けて無事。そりゃそうだ、俺の時空間の中にいたのだから。


「天の助け」「海神様!」


「俺にはよく解らんが、あの大波は街まで行くんじゃないの?」


「そ、そうです」

「それは不味い」


「大波が到達する前に、御神体を戻さなくては」

「後、どのくらいだ?」


「もう少し、あの岩が在る所です」



「よし、俺が潜ろう」

「息は持つのかい?」

「それ用の魔道具が有ります」


海人族の男が海に飛び込む。男の姿は直ぐに見えなくなった。


突然、水しぶきが上がる。それは回転しながら柱になって、先が鋭くなり船に突っ込んでくる。


「海魔の攻撃だな」


「久しぶりに自由になったので、封印されるのが嫌なのでしょう」



「フィジカルバリアー!」


シンシアが対物理攻撃用の障壁を張る。[パァーン!]と言う音と共に海水の柱は砕け散った。


「潜った男は大丈夫か?」


「彼なら水の中で遅れをとる事は無いでしょう。しかし、祠の跡に近づけるか心配です」


「そうか、あいつを止めるしか無いな」


今度は10本の柱が立ち上がる。


「シン様、あの数ではカバーしきれません」

「解った、左側の半分は俺が何とかしよう」

「はい」


「来るぞ!」


5本の柱それぞれに縦長の時空間をぶつける。海水が入った所で、時空間の反対側の面の一部を出口として開ける。


海水は向こうに流れ落ちる訳だが、時空間に入った所は他の人には見えないので、不思議な現象だ。


「おお~、すげ~!」


海魔は諦めたのか、勢いが修まって来た。止まった順に時空間を閉じる。


その時、海が一瞬震えた。


「ん?海が痛がってる感じだな……まさか……」


残った時空間に入ると中で海水が動いている。スライムみたいだ。判断がつかないので、海人族の女性を入れた。


「これ、もしかして海魔?」

「え、ええ。一部と思われます」


「じゃあ、滅していいね?」


「あっ、ダメ、ダメです。勘弁してあげて下さい。言いにくいのですが、海魔は海神様の眷属に近しいのです」


「そうなの。じゃあ、封印するまで待つか」


海魔だけ時間を止め、2人で外に出る。


「おわっ!どっから出てくるのだ」

「それは内緒と言う事でお願いいたします」


「う、うむ」


海人族の男が戻って来た。


「終わったぞ」

「では、あの大波は?」

「消えた筈です」


「その様だ、海も静かになった」

「あのぅ、海魔を……」

「あっ、解放しますね」


「ありがとう御座います」


安心し甲板に腰をおろした時、突如、海の中から三叉槍を持った巨人が現れた。


新手の敵か?糞っ!


『お前達よくやった!』

「へ?」


「か、海神様!」


『うむ。人界には直接あまり干渉出来ないのでな、困っておったのじゃ。特にそこの男、ほれ、赤いチョッキを着ている、お前じゃ』


「お、俺ですか?」


『うむ、良い働きをした。褒美をとらすぞ。何か望みはあるか?』


「そ、それでは、アズミウス様、お願いが御座います」


『申してみよ』


「古の神キクリア様と交信がしたいのですが、方法をご存知ないでしょうか?」


『古の神とな。そうさなぁ、3000年前に消えずに残った神がいたであろう。冥界神ハデスなら知っておろう』


「どうすれば会えますか?」

『冥界神だから死ぬしか有るまい』

「そんな殺生な」


『ふぉ、ふぉ、ふぉ、冗談じゃ。これを持ってハデスの古の神殿へ行き、祈るが良い』


三叉槍の紋様が入ったメダリオンを俺に渡すとアズミウス様は消えてしまった。


やった、これで手がかりが掴める。……が冥界神ハデス様の古の神殿の場所を聞くのを忘れてしまった。くそっ!

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