第11話 手掛かり
長老。と言うので爺さんと思いきや、女に持てそうな白髪のナイスミドルだった。
「2人が世話になったようで、ありがとう御座います」
「こちらこそ」
「話は聞いたので、他の部族に使いの者を出しました。何か判ればよいのだが」
「シンさん、それまで時間がかかりそうです。村でも見て回りますか?」
「そうだな、昔の資料でも見てみたいな」
「分かりました、行きましょう」
「ここが私達がお祈りする所です」
「この女神像がナーシャ様?」
「はい、そうです。書籍や資料は隣の部屋に有ります」
本棚に10冊の本、机の上に積まれている資料は、触ればボロボロと崩れてしまいそうな紙だ。何だかお宝を探す気分になって、わくわくする。
資料が崩れて、粉々にならないように気をつけながら1枚、1枚、丁寧に移していく。変色していて線も字もかすれて、よく読めないし見えないが根気よく見ていく。
「ん、……」
「何か有りましたか?」
「これ地図だと思うのだが。今のとは、ちょっと違うが概ね合っている」
「そう見えますね」
「面白いのは、この二重丸の様にみえる所だ。今の地図と比べて見て、何か気づかないか?」
「う~ん」
「むむむ……」
いくら待っても答えは出そうに無いな。
「それはだな……」
「も、もう少し待って下さい。喉まで、出かかってます」
「そうか?」
「ううっ」
「はい、ダメ~!」
「「あ~ん」」
「ここは西の果ての森で、こっちの二重丸はナーシャ様の神殿だとする。どうだ?」
「あっ、この昔の地図の二重丸って……」
「神殿の在った場所かも知れない」
「正解。他部族の情報収集が終わったら、1番近い所に行ってみよう」
「「はい」」
その後の調べでは、残念ながら得る物は無かった。他部族の情報に期待だ。
待っている間、リサ、レナが別の部屋で食事を用意してくれた。
「へぇ、どの部屋にもナーシャ様の像が有るんだ」
小さい女神像が、小ぶりで低い机に置かれている。
「はい。何時でも、傍で見守っていてくれます様にと」
料理はいつも通り美味いし、この地域で採れるガバの実の酒もとても美味いので、つい飲み過ぎて横になる。
「あなた、食事の用意が出来ましたよ」
「えっ、今行く」
目の前に理の神、フェリウス様の像がある。そうだ、神父さんの教会でお祈りをしていたのだ。部屋に入るとリサとレナがいた。俺はこの2人と結婚したんだっけな。
甲斐甲斐しくリサとレナは俺の世話をしてくれる。
「お風呂場でシンシアが待ってますよ」
シンシア?誰?2人に促され風呂場に行くとリサ、レナより少し年上な綺麗な女性が裸で待っていた。
「お背中流します」
俺って3人と結婚したんだ。凄いな。
「今日は、私がお情けを頂戴する日ですからね」
「お、おう」
手が滑ったふりして、オッパイを触る。柔らかい。
「あん、ダメ!あ・と・で」
『シンさん、シンさん、起きて下さい。使いの者が帰って来ましたよ』
「え~、そんなの後でいいよ」
「何を言ってるんです!」
「うわっ」
「失礼ですね。私達の顔を見て、そんなに驚くなんて」
「夢か?」
妙に生々しい夢だったな。ナーシャ様の女神像と目が合う。笑っている様に見えるのは、気のせいか?
各村から帰って来た、使いの人達が長老と共に部屋に入って来た。
「では、報告して貰おうか」
「ゼスの村には、そのような言い伝えや資料は無いそうです」
「ヴォルの村もです」
「残るはメルレの村だが?」
「はい、今回の事と関係が有るのか判りませんが、大昔に厄災を鎮める為に、多くの生贄を捧げたと言う事は有ったそうです」
「いつ頃ですかね?」
「大昔としか、言えないそうです」
「それで厄災は治まったの?」
「はい。天空に真っ黒い穴が空いて、生贄を呑み込むと治まったと」
「メルレ村……」
「何か気になる事でも?」
「いえ、そう言うわけではありません」
ーー
「他の村では、あまり収穫は無かったですね」
「ああ、でも手掛かりは見つけたよな。とは言っても古の神殿の場所が判っただけで、智の神キクリア様と話が出来る保証は無いが」
「でも行くしかないんですよね。1番近くはドワーフの国だと思います」
「2人に予定は合わせるから、出発する日を決めてくれ」
「分かりました」
それから2日後に村を出た。長老はリサ、レナを宜しくと言って、俺に向かってウインクをした。
俺の見た夢を知ってたりして……まさかね。
旅は順調だった。もうすぐ獣人の国との国境だが、ミイが何かを見つけたようだ。
「にゃにゃぅ」
「シンさん、あれ」
「馬車が襲われているな」
「盗賊では無いようです」
近づくと襲っているのは、ボロを着た獣人の子供達だった。
「あの子達ってあの時の?」
「多分、厄介だな。殺したくないし、放っておけばまた襲うだろうし」
「私が気絶させますから、シンさんの時空間に閉じ込めては?」
「それしかないか。でも気絶するかな、起き上がって来そうだが、試してみるか」
執事だろうか?老齢の紳士が1人で奮闘している。他の護衛の者達は既に倒されていた。
「「やります」」
リサとレナによる精神攻撃と、頭に振動攻撃の二重攻撃だ。
4人の子供達は、パタパタと崩れ落ちる。
「やったか?」
次の瞬間、腕だけが起き上がる。ヤバい!
「シンさん、今の内です」
「あっ、そうだった」
子供達は無事確保。消える所を老紳士にみられたが、詮索される事は無かった。
「助けていただきありがとう御座います。私はここの領主、アルカド伯爵の執事をしておりますシルバーと申します」
ここの領主の執事さんだ。伯爵の馬車は車輪が壊れてしまったのでこちらに怪我人と共に移って貰う。馬はリサ、レナが面倒をみる。
道中、シルバーさんと話すと、伯爵の娘さんが病気になったので、薬を探しているそうだ。
屋敷に着き、怪我人を大広間に運んだ所でアルカド伯爵が来た。
「シルバーから聞いたよ、世話になったね」
お礼を言う伯爵は、娘さんの事が気にかかるのか、顔色がすぐれない。
……まて、まて、この人……人じゃない。吸血鬼だ。
伯爵が俺を見る。俺の顔色が変わったのを気づかれたか?
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