第8話 嫌な予感

 シスターの調査が終わるまで、俺達にはどうにも出来ない。仕方がないので王都から近い、風のダンジョンでレベルアップをしよう、と言う事になった。


獣王国ベルンガルとの国境に近い所に在る風のダンジョンは、その名の通り風が吹き荒ぶ。風の精霊王、ジルドレードの住みかだと言われているので、行くのが楽しみだ。


ダンジョンに行く途中にはジウの村が在るのだが、入口に馬車がたくさん停まっており、冒険者達が集まっている。


「何か有った様だ」


護衛の冒険者達が様子を見に行った。馬車には俺達しか乗って無いので、俺も降りて見に行く。


「どうしたんです?」

「判らん。まあ、見てみろ」


村人の姿はなかった、家畜小屋も空だ。地面には、其処ら中に黒いシミ跡が有る。


「これって」


冒険者の1人が家に向かって顎をしゃくるので、家の中を覗きこむ。壁と床に血の跡が有った。


「魔物に襲われたのですか?」

「だと思うが、妙だよな」


争った跡があまり無い。確かにおかしい。気にはなるが、後はギルドに依頼された冒険者に任せるしかない。俺達は予定通り、ダンジョンへ向かった。



風のダンジョンの風は、半端では無かった。特に、地下15階から16階に降りるときの横穴から吹く風は、冒険者を苦しめる。風属性か、風をやり過ごせるスキルが無ければ先に進む事は難しい。


法外な金額で通させる、"渡らせや"なる商売が成立する位なのだ。


さて、俺達はどうしようか?簡単なのは、時空間で塞ぐ事だが。


「にゃ、にゃ、にゃ」


ミイに考えが有るらしい。そう言えば風属性だな。


「にゃ~お」


呪文でも唱えたかな?


「がうっ」

「シンさん、後に魔物が」

「うっ、いつの間に」


後に居たのは、白地に黒い虎柄模様のボルテックスタイガーだった。攻撃はしてこない、ちょこんと座っているだけだ。


良く観ると、ミイの眷属召喚魔獣となっている。レベルは41だ。


今、ミイはレベル26になっているが、レベルが上でも召喚出来るのかな?その辺の仕組みは解らないが、ボルテックスタイガーも風属性なので、ミイはこの子に風を操らせるつもりの様だ。実力を見てみたいし、お願いして見るか。


「あの風なんとかして貰える?」

「がうぅ」


ボルテックスタイガーは風の渦に姿を変え、行く手を遮る風と同化し捲き込んで行く。俺達は静かになった坂を下って階段まで行き、待っているとあの子かやって来た。


「ありがとね」

「ぐわぅ」


「名前を付けるか」

「私達に付けさせて」

「そうか」


「……私達の一族に伝わる古代文字で、風はライと言うの。だからライ、貴方はライよ」


「がう、がう」

「よし、決まりだ」




         ☆☆☆☆☆



「おお、成功だ。勇者様の召喚に成功したぞ」


「ここは何処だ?」


「魔法国家セレブレイで御座います」


「セレブレイ?この世界は何と言う世界で、今は何年?」


「おお、随分とお詳しいですな。この世界に名は有りませんが、誕宇歴4246年で御座います」


「誕宇歴4246年…………」


ハハハハ、俺は元の世界に戻って来たのだ。ハハハハ…………




        ☆☆☆☆☆





神官が戻っているのが確実になる様に、予定日に余裕を加えて、俺達はダンジョンに行き地下20階まで進んだ所で、王都に戻った。




「シスター、神官様の調査はどうでしたか?」


「それが、一週間も予定が過ぎているのに、まだ戻っていないのです」


「何か有ったんですかね」


「とても嫌な予感がします。シン、神官の村に行って貰えませんか?」


「分かりました」




神官の村は、イガルガ王国の港街からダイオン帝国のザンク山へ向かう途中に在るので、結構な距離だ。



王都を出て1週間が経ち、途中のレイゴの街で目的の村、メレ出身の冒険者ドゴスが馬車に乗ってきた。母親の具合いが悪いと連絡が有り、会いに行くそうだ。


お陰で情報を聞く事が出来た。昔の資料は村長の家の書庫に有るらしい。2週間後に港街ストークに着いた、後一息だ。


馬車を乗り換えるので運行商会へ行く。ドゴスが窓口で行く先を告げると、怪訝な顔をされた。


横の窓口に並んでいた冒険者が声をかけて来た。


「あんた、メレの村の出身かい?」

「そうだが」


「気の毒にな。あの村には、もう誰もいないよ」

「どう言う事だ?」


「……1ヶ月半前に村に行った冒険者が発見したんだが、全員殺されていたんだ」


「何を言っている」


別の冒険者が言う。


「酷い有り様だった。誰がやったか判っていないんだ」


どうやら、シスターの予感が当たってしまったらしい。


ドゴスも俺達も、だからと言って行かない訳には行かない。


村の状態は酷かった。片っ端から村人達は、斬られたのであろう、家の中や小道に血の跡がびっしり付いている。


裏山に村人達のお墓が有った。発見した皆で、作ってくれたのだろう。神官の墓は、探したが無かった。ドゴスが泣き崩れている。声など掛けられない、俺達は村の様子を見に行く事にした。



家の中には貴重品が残っている。盗賊の仕業では無い気がする。


「何が目的だったのでしょう?」

「……怨みかな」


「この家だけ燃やされていますね」

「ああ、本当だな」


「そこは村長の家だ」


ドゴスが、いつの間にか来ていた。


「この様子では、資料は燃えてしまっただろう。何でこんな事に……」


「ドゴスさん、こんな時に聞きづらいのですが、村の人達は怨まれる覚えは?」


「そんなの有る訳がない。皆、正直で良い人ばかりだ」



ーー





気力の無いドゴスをほっとくわけにも行かないので、暫くは一緒にすごす事にした。





「シン、悪かったな。もう大丈夫だ、ありがとう」


「そうか、またいつか会おう」

「ああ」



立ち直ったドゴスと別れて、俺達はストークに戻って来た。


「これで手掛かりは、無くなったな」

「困りました」


「神託通りにしたんだ、村へ戻る……」


俺の頭に嫌な考えが浮かんだ。あの村は、生き残りの子孫だから狙われたのか?リサ、レナの村は大丈夫なのか?


「一旦、村に戻ったらどうだ?他に手掛かりが有るかも知れないぞ」


「そうですね。どうしようも有りませんものね」

「何れにしてもシスターの所に行かなくては」



ーーーー




「そうですか……リサさん達は、これからどうするのです?」


「村に戻ろうと思います」

「シンも一緒に行くのですね」


「はい、そのつもりです」

「本当ですか、嬉しいです」


「シン、解っていると思いますが、くれぐれも注意するのですよ」


「はい、シスターもお気をつけて下さい」


リサ、レナの村はアルバジール王国の中のルクーサと言うそうだ。ダイオン帝国の国境近くだが、ゴンニ山脈を挟んでいるので往き来は無いらしい。ウルム村の北に位置するそうだ。今度も長旅になる。


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