第7話 予兆
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ヅヅッ……ヅゥー……ヅヅッ……
全身に血を浴びた青年の目は虚ろで、髪が乱れた王の首を片手に持ち、謁見の間の長い赤の絨毯を歩き、外に出ようとしている。
誰も止める者はいない。玉座に座る王妃、重臣、屈強な王の親衛隊の騎士達は、只そこに居るだけだ。それも仕方がない、彼らの首も無いのだから。
ヅヅッ……ヅゥー……ヅヅッ……
血に染まった両刃の斧を引きずる音が、城内に響く。青年はその音に反応したのか、ニヤッと笑い呆然と見ている兵士達を横目に城を出て、奴隷商館街が有る方へ消えて行った。
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翌日、ギルドに行って謝礼金を貰い、遺跡の在る森に行く為、東のダルルカの街へ向けて出発した。
「今日の宿の料理は、とっても美味しかったですね。今度、真似して作って見ます」
「良いね、時空間のベッドも高級な物に代えるか」
「ふかふかでした物ね」
昨日の宿の話で盛り上がる。俺もそうだが、2人はとても気に入った様だ。
ベネトールの街を出て2日が経ち、ダルルカの街の近くの川沿いまで来た。
この先でゼオノバ王国方面と貿易に使う街道とが交差する、そこでゼオノバ王国の方から馬に乗った兵士の一団が、街道を曲がりダルルカの方へ進んで行く所に出会した。
「何か有ったのでしょうか?」
馬車に同乗している商人達が話し出す。
街へ着くと、やはり何か有ったらしく、街の人々の表情は固かった。警備も物々しい。
宿を決め、食堂で店主に聞いた。
「何か有りましたか?」
「ゼオノバで国王が殺されたそうですよ。それだけではなく、奴隷商館が全て襲われて、全員いなくなったそうです」
「奴隷ですか。全てって、かなりな人数でしょう?」
「2000人以上って、言われてます。それで、この街が襲われるんじゃないかって、心配しているのです。犯人も捕まっていないし」
「それは怖いですね」
ーー
「えらい時に来てしまったな」
「早く遺跡に行って終わらせましょう」
「そうだが、今日は遅いし無理だ。明日、朝一番で行こう」
「「はい」」
朝、俺達が森の中を進んでいると、冒険者と思われる獣人の一団と会った。
「こんな所で何をしている?」
正直に言うわけにも行かないし……
「シスターに頼まれて遺跡の調査に」
「遺跡の調査?……う~ん、何か証明……依頼状見たいのは無いのか」
困ったね。そんな事を言われてもな……これしか無いもんな。シスターから貰ったメダリオンを出す。
「おお!悟りのメダリオンではないか、それもミスリル製だ」
これ、そんなに凄い物なの?神父様に育てられた俺だが、今一、俺はこう言う事に疎い。
「物騒な事が起きている。気を付けてな」
「はい、ありがとう御座います」
獅子族の男達は、機嫌良く去って行った。
神殿跡は直ぐに見えて来た。智の神、キクリア様の像の上半身は無かった。神殿もほとんどが崩れ、辛うじて礼拝堂が形を成している。地下は無いようだ。
3人で礼拝堂跡に跪く。しかし、何の変化も無かった。
「困りました」
「加護が違うからダメなのか?他に条件が必要なのか」
「どうしましょう?」
「今の所、手掛かりはここだけだ。日を改めて、また来よう」
街に戻ったが、活気は無かった。料理屋に入って食事をする事にして街を散策する。突然、爆発音がした。誰かが魔法を使った様だ。街中で、穏やかな話しでは無い。
森の中で出会った獅子族の冒険者達と何者かが争っている。
良く観ると相手は獣人の子供達で、身なりは酷くボロ布1枚、まるで奴隷の様だ。……奴隷。
冒険者達は圧されている。獣人の子供なので、本気で手が出せないのだ。
「シンさん、あれを」
リサが指差す方を見ると、ボロを纏った蜥蜴族の男が居た。どうやら、子供達に指示を出しているのは、後ろに居る蜥蜴族の男のらしい。
「リサ、あの蜥蜴族を倒してくれ」
「分かりました」
リサがダークバレットを撃つ。蜥蜴族の男の頭が破裂して無くなった。これで子供達を説得すれば良い。
「えっ、ちょっと待てよ」
頭が無くなった蜥蜴男は、剣を振り上げ俺に襲いかかって来たのだ。
「どうなっている?」
慌てて応戦する。首無し蜥蜴男は、首から血を流しながら俺を斬って来た。剣を持っている腕を切り落とすが、蜥蜴男は止まらない。
仕方がないので脚を切った。片腕、両脚を切られた首無し蜥蜴男は倒れて、残った片腕と太ももをバタバタさせている。
「レナ、光魔法をこいつに撃ってくれ」
「はい」
レナの放ったホーリスピアが、首無し蜥蜴男の身体に突き刺さるが、死にもしなければ、身体が崩れ去りもしない。つまり、アンデッドでは無いのだ。
そんな事を考えながら見ていると、首無し蜥蜴男の身体から黒いモヤがすうっと抜け出た様な気がした。リサ、レナは気付いていない様だ。そして、首無し蜥蜴男は動かなくなった。
その様子を見て獣人の子供達は、一目散に逃げ出した。人とは思えない……いや獣人と言えども、あの動きと速さは異常だった。
「助かったよ」
「子供を殺す訳には、行かなかったのでしょう」
「ああ」
「こいつは何をしたんです?」
「食糧を狙ったらしい。店が襲われたんだ」
首、そして腕と脚を切っても死なない奴が、食糧だと?何か違和感を感じる。
この後、何回か遺跡に行ったのだが、何も得られなかった。
「仕方ない、シスターの所へ1回戻ろう」
ーーーーーー
「そうでしたか、神託は得られませんでしたか。やはり加護が同じでないとダメかも知れませんね」
「シスターの方は、何か判りましたか?」
「残念ですが、何も。ですが、3000年前の伝承が残っている村出身の神官に、村に帰って調べて貰っています」
「そうですか。それと……」
「首を吹き飛ばされても死なない……アンデッドでもない……」
「はい。何か黒いモヤが、すうっと抜けた後、動かなくなりました。なぜ俺にだけ、感じられたのか判りませんが」
「きっとメダリオンのせいですね」
なるほど、そうか。
「不浄の門と関係が有るのではと、思っています」
シスターの考えは、きっと当たっているのだろう。俺とリサ、レナはお互いの顔を見つめ会った。
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