第3話 西の果ての森

「うぇ~ん」「ひぃ~ん」

「どうした?2人供」


俺は2人を落ち着かせる為、ワインを飲ませた。落ち着いた所で話を聞く。内容はこうだ。


リサ、レナは冒険者として強くはなったが、行く所が西の果ての森なので、なかなか依頼を受けてくれなかったそうだ。


そんな時、ギルドの入口で声をかけられたらしい。ギルドを通すと手数料がかかるので、直接なら受けると。ここまで聞いて先が見えた。要するに世間知らずのお嬢さん達は騙されたのだ。


依頼料は前金で渡し、次の日に男達は現れなかった。途方に暮れて俺の所に来た訳だ。


しまった!と思った。16と18歳で大人だと思ったが、田舎から出てきた女の子なのだ。


迷える子羊のような目で見られると、責任の一端は俺に有る気がして、つい「俺が行ってやるから」と言ってしまった。



そして今、ベッドで寝ている訳だが、2人の娘っ子は俺の両脇でガシッと俺の腕を抱きしめ、裸同然の姿でスースーと寝息を立てて寝ているのだ。


俺はまだ30歳だぞ、中身は14だけど。悶々とする俺の気持ちを、どうしてくれるのだ。



結局、一睡も出来なかった。2人はキャッキャッ言いながら、朝飯を作っている。


西の果ての森か、何を用意すればいいかな?長期間ダンジョンに入る時は、食糧として長持ちする乾燥肉などの保存食を持って行くのだが、俺には時空間が有るので生の物でも大丈夫だ。


「食事がすんだら、今日は南の森に行くぞ」

「どうしてですか?」


「従魔を捕まえに行く」

「何を捕まえるのです?」


「カッツェルだ」

「カッツェル?」


猫族の毛並みと、もふもふの耳が似ているので、"小さい猫の様な"と言う意味で、昔からここに住んでいる現地人の方言でカッツェルと呼ばれている。


この魔物は戦闘力はそんなに高くは無いが、危機感知・危機回避・気配察知の能力が抜群なのだ。それだけに捕まえるのが難しい。



森の中に、カッツェルの好物であるコジュケイ鳥の生肉を置く。


俺の時空間は、自分を起点にして造る事も出来るし、自分から離れた所を起点にして造る事も出来る。


但し、自分から25m以内でだ。それより大きく、長く、したい時は端まで行って、もう一度造り足す感じになる。時空間を動かす距離も同じ考え方だ。


肉を置いた後は、25m離れた繁みに隠れ、気配を消してじっと待つ。


匂いを嗅ぎ付けてカッツェルがやって来た。周りを警戒して、なかなか肉には近づかない。しかし、コジュケイ鳥の誘惑には勝てなかった様だ。肉に喰らい付く。


5m四方の時空間を地中に造り、落とし穴の様にし部屋に落として、皆で中に入った。


全体は薄い茶毛で、お腹と脚は白毛のカッツェルだ。

尻尾も、もこもこしてて可愛い。


「「可愛い」」


リサ、レナも気に入った様だ。カッツェルは訳が解らず、怯えている。従魔にしなくては。敵意が無い事を知らせる為、焼いたコジュケイ鳥の肉を出す。香ばしい匂いが部屋に広がり、カッツェルは鼻をヒクヒクさせる。


目と眼が合い、そして俺の手の上に有る肉を食べ始めた。どうやら契約してくれる様だ。


メスだったので名前はミイにした。



「出発は明日だ」

「「はい」」


ーー



厄介な事になったと思う反面、俺には青春らしき物が無い。人の事を羨むだけで、甘酸っぱい経験など無かった。


リサとレナと一緒にいると、俺も昔に戻った気になる。青春を取り戻した感じだ。



「ここが西の果ての森だ。気を引き締めろよ」

「「了解」」


ダンジョンと同じで、この森も奥に行くほど魔物は強くなる。


監視役のミイは、俺の右肩の上に造った、小さな時空間に入って顔だけ出している。空中に顔が浮かんでいる形なので、決して人には見せられない。



「にゃにゃ」


ミイが何か感知した様だ。出てきたのはゴブリンが10頭だ。入って直ぐだ、こんなものだろう。


リサ、レナが率先して倒していく。この辺では、リサ達で余裕だ。


グレートウルフやオークを倒して奥に進んで行く。ワイルドボアの群れを倒した所で日が暮れたので、地面に時空間を造って、今日は終わりだ。


「シンさんのスキルって、ホントに便利ですよね」


「本当ですよ」


予め土魔法で作っておいた湯槽も有るし、ふかふかのベッドもある。そりゃ、言うこと無いだろうよ。


食事をしていると、頭の上をワイルドボアの親子が通って行く。少し落ち着かない、慣れるまで時間がかかりそうだ。


ミイを抱いて寝ようと思ったが、リサとレナに取られてしまった。仕方ないので、ベッドに横になると、今度は顔の上をグレートウルフが通り過ぎて行く。グレートウルフの〇玉が丸見えだ。勘弁してくれ、天井を高くして目隠しをして寝る事にする。



2日目、オーガ、オーガファイターと魔物が強くなってきた、オーガの住み処に入ったか?だが、まだまだリサ、レナ2人で問題は無い。


暫く歩くと、明らかに人の手が加えられたと見られる道が右に見える。道が左右に分かれているのだ。


「どっちでしょう?」


「判らんな。ん~、取り合えず右に少し行って、様子を見よう」


右の道はちょっとした登り坂だった。500m位で広い高台に出た。森全体が見渡せる。


「うに"ゃ!」


いつもより警戒感が強いミイの鳴き声、視線の先には2頭のワイバーンが空を旋回していた。


「ワイバーン!」

「シンさん、どうしましょう」


「ここからだと、俺の時空間も2人の魔法も届かない。2人は高い所は大丈夫?」


「「はい、大丈夫ですよ」」

「よし。それでは、魔法を撃つ準備をしてね」


俺達の下に薄い台座の様な時空間を造り、一気に上へ移動する。端からみると俺達3人は、飛んでいる様に見えるだろう。


中に浮いてくる俺達にワイバーンの1頭気が付いた。


「2人とも、ワイバーンの翼を狙って」

「「はい」」


両翼にダークバレットとファイターボールを喰らった、ワイバーンは魔力による揚力を失い落下して行く。


仲間が墜ちていくのを見て、いきり立ったもう1頭は俺達を喰い殺しにやって来た。


もう俺の射程距離内だ。ワイバーンの頭を時空間に入れて、閉じる。首が切断され、首も胴体もクルクルと回りながら墜ちて行った。


地上に降りると、先に落ちた奴はまだ生きている。俺達の方を向いて、大きく口を開けた。火球を撃つ気だヤバい。


地面に時空間を造り、自ら部屋に落ちる。火球は頭上を通り過ぎ、岩山を砕いて消えた。


「リサ、レナ、部屋の中から攻撃出来るよ」


「そうなんですか。よし、ダークバレット!」


リサの撃ったダークバレットは頭に着弾。ワイバーンの頭は破裂した。どうやら弾の形を変えた様だ。


ワイバーンの素材は高値がつくので、もちろん回収する。


この戦いで、お俺のレベルは相変わらず0だが、リサとレナは共にレベル19になった。


問題はミイだ。南の森の中で暮らしていれば、ワイバーンの様な大物と戦う事など無いので、大抵のカッツェルは、レベルが生涯で15が良いところなのだ。


しかし、この戦いでミイはレベル26まで上がった。成長力が高い。


しかも、知覚共有と眷属召喚のスキルが付いた。なんか凄そう、楽しみだ。


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