フミコの宿題、あるいはアオハルの筆
水原麻以
フミコの宿題
「斜め上にそびえるステーキ戦車」「枯れ木も休火山の賑わい」「ライスシャワーとライシャワーの絶妙なトッピング」「石にかじりついてでも三年間はじっと我慢の石頭」「コバルト人間の修業はつらいよ」これらの文章を用いて小説を作りなさい。
うーん、どうすんの、これ。
少女は無理難題の解決策を父の書斎に求めた。だが、あいにく出張中で硬く閉ざされている。しかたがない。棚にある分厚い書物を紐解いた。舞い上がる綿埃にむせながら褪色したページをめくった。
小説は必ず一文字違いで一語の文章を書かなければならない。小説を書く時に一文字の文章を書くのと一文字しか書かないのとでは、小説のプロットが二転三転する可能性が高くなる。このため、これら一文字違いな文章を一音一句聞き漏らさずに書き込むことは一つの小説の書き込み作成時に絶対に必要なのだ。例えば、ある特定の人物が書き込んだ文章を一音一句漏らさずに書き込む事である。
そしてそのような一文字の文章に対し、文章を書きながらもう一度説明する必要があるのだ。
「小説を書かなければ続けられない」
これが文語で述べられている「つまづきやすい文章」という状態である。つまづきやすいのは、つまづきやすすぎて読む人の脳をクリアにしないと「つまづきやすい文章」を書きながら読まないということを理解していない場合である。つまづきやすい文章を読み続けると頭の中に「つまづきやすい文章」が一気に流れこんで来て疲れそうである。なぜなら、このような内容に一語一句を間違えて載せてしまうことは非常に危険である。そして、小説によっては一文字一句が間違っていないかと確かめる必要もある。
文章は次のように作り込んで初めて完成する事ができる。
「つまづきやすいけど、内容としては良く分かってる。その時は読めていたという事だ」
このようにすり込んで初めて文章は完成する。しかし、内容を間違えてしまう可能性がある。たとえば「死」と「生」だ。これらはすべて「つまづきやすいが」最後にはきちんと「生きている」「死んでいる」の部分になる。つまづいたために、「つまづきやすいけど」と書き込むと、この説明の部分はもっとつまづいてしまう。これが書き込むと必ず「生きていない」「死んでいる」の部分が入ってしまうことになる。
例えば、「あなたは『生きている』と書くから『生きている』と書きましょう」と書き込んだ場合、ここまで「つまづきやすいというのはそれだけ死んでいる場合です」と説明してくるのがわかる。しかし、「あなたは」と書くとそこまで「死んでいる場合です」と説明してこない。しかもその説明部分だけが書き込まれるのだ。つまづきやすい文が出来上がってしまう。
「つまづきやすいけど、文章としては問題ない。それよりも、問題は『生きている』と『死んでいる』の部分だ」
しかし、この文を書く前に、「つまづきやすい」「つまづきやすいけど」に文章を挟んでしまおうと思うと、読んでいる人から変な疑いをかけられて面倒な事になる。
この問題の解決には、どうすれば良いのかという問題を持ってくる。
「『生きている』『死んでいる』」「それはどこで書かれたかを知るべきではありません」「そうしたらどうかな」と「私が書かない理由」を書き込んでしまおう。
「そうしたら読める」と「そうしたら読める」の「つまづきやすさ」をしてしまう可能性がある。「これは『ある言葉』を指していて、『ある単語』から『読める単語』へ変化する」「ある言葉」と「読める単語」との関係が「読める単語」であると書き込んでしまうとそれは「つまづきやすい」「つまづきやすい」となって内容を「うまく行かない」と勘違いされる可能性がある。
「つまづきやすいけど」は「つまらぶつけやすい」「つまづくほどつまづいて面白くない」とまで読み取られかねない。だから、このように『読める』という表現を使うのだけれど、読めるというのは「つまづくほど読める」の「つまずく」です。つまずくと思うから「読める」と、読んだことのない言葉だと「つまづく」と書き込むことができる。つまらぬのは、「つまづきやすいけど」である。それだけだ。
《「斜め上にそびえるステーキ戦車」「枯れ木も休火山の賑わい」「ライスシャワーとライシャワーの絶妙なトッピング」「石にかじりついてでも三年間はじっと我慢の石頭」「コバルト人間の修業はつらいよ」これらの文章を用いて小説を作りなさい。
》
「また厄介な課題を出してくれたわね」
セーラー服姿の少女は半べそをかきながら勉強机に向かっている。時刻は二学期始業式の午前三時。宿題は終わらない。しかたがない。少しずつでも書きだそう。「斜め上にそびえるステーキ戦車は
、実は斜め下にそびえている。つまり、傾斜した鉄板の上に牛肉が乗っている状態なのだ。それならば、鉄板をひっくり返してやればよいではないか? そう考えた私は、戦車砲を発射させ、鉄板を弾き飛ばした」。これでいいかなあ。
「まあいいか」
少女は納得する。
「枯れ木も休火山の賑わいは、一見すると元気のない様子だが、よく見ると表面が乾いているだけであって、その下では溶岩のように盛んに活動しているという事だ。それなら枯れ木に火をつけてみれば良いのではないか? そう思った私は、ガソリンをかけて火をつけた」
うーん、少し不自然かなあ。でも、このまま行こうっと。
「石にかじりつく」って、石にかみついたのかな。石を食べちゃったのかな。
「しかし、コバルト人間にそんな事は出来ない。何故なら、彼は鉄分を大量に含んだ海水で育った魚貝類だったからだ。これでは勝負にならない」
おお、意外といいかも。
「しかし、私にも考えがある。この学校の裏山には大きな岩がゴロゴロしているのだ。この岩を使って奴の頭をカチ割ってやるぞ!」
こんな調子で原稿用紙を埋め終わる頃には雀の鳴き声が聞こえていた。気づけば規定枚数を大幅に超えて百枚を超えている。
「ま、いっか」
彼女は眠い目を擦りながら洗面所に向かった。顔を洗い、歯を磨き、寝癖を整え、朝食の準備をする。
今日はパンと目玉焼きとサラダ。簡単な食事だ。牛乳を飲み干し、皿を流し台に運ぶ。
「さて、お弁当を作って学校に行こっかな」
「何?」
彼女の母が台所から顔を出す。
「もうすぐテストでしょう。しっかりしなさい」
「わかってるよ」
「あんたが今やってるのは国語の問題じゃない。英語と数学と化学と歴史と現代社会だよ」
「わかってます。だからこうやって頑張ってるんじゃない」
「まあ、がんばりなさんな」
「はい、いって来ます」
少女はショルダーバッグを肩にかけて靴を履いた。玄関を出て、自転車にまたがる。
ペダルを踏み込むと、いつもより重く感じられた。
――どうしてだろう。
不思議に思いながらも、力いっぱい踏み込んだ。
風を切って進む自転車。
やがて見えてくる校門。
その向こうにある校舎。そして「すっげぇ!」と沸く教室が目に浮かぶ。小説を書くって楽しい。
早くみんなに読んでもらいたい! ペダルを漕ぐ足がさらに軽くなった。
フミコの宿題、あるいはアオハルの筆 水原麻以 @maimizuhara
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