4  宿 (その 1)

そのあとは何事もなく、目指す村に辿り着いたエットォは、道具屋、武器屋、防具屋と巡り、人家に勝手に潜入してアイテムボックスを漁り、道に落ちているのも拾い、とりあえず村人全員に話を聞いてから宿に行った。


村に入ってすぐ、宿の前にブラックコーンが繋がれているのは確認した。今も繋がれたままだ。ディアブルがいるはずだ。


宿の受付を通さず、勝手に客室を巡って客から話を聞いていると、


「あ。三段腹!」

と、叫ぶ若者がいた。


「あれ? ディアブルさん?」

「はい」


どうやら、名前を呼ばれると『はい』と答えるようプログラムされているらしい。


「その姿はどうしたんですか?」

「いつも通りでは村にすら入れない」


「なるほど・・・でも、いつものほうが私は好きですよ。今、あなた、ただの若者です」

と、ここでエットォが気付く。


「この姿になれるんだったら、その姿でさっきのダンジョン、攻略すればよかったじゃないですか! 充分入れるサイズ感ですよっ?」


「村の若者がダンジョンで生きて帰れるわけがない」


「私なら、ゲームオーバーになってもよいと?」


「自動セーブ機能がおまえにはあるんじゃないのか?」


「基本的にバグですからねぇ、どうだか」


「続ける気なら、きっとある」


「私はまだ、飽きてません」


「しばらくは遊び相手しろと言ってるように聞こえる」


いやなんですか?」


「うーーーーん」

「そんなに悩むなっ! きらいになるぞ!」


「怒るな、三段腹」

「三段腹じゃない、三段目!」


「目も腹も体の一部だ、大差ない」

「へー、ディアブルさんはお腹で見るんですか? 目で消化するんですか?」


「目で消化は痛そうだな、胃液が染みそうだ。それより、今回はレベルアップしてないのか?」


「村の入り口、見えていましたから、何も出てきませんでした」


「誰にも相手にされなかった、という事だな」


「ほら、何もしてないことにすれば、レベルアップしてなくても不自然じゃないし」


「今度はどんな種類のレベルアップにするか、悩んでいると見た」


「誰が?」

「誰だろう・・・」


「で、目と腹で誤魔化した」

「きっとそうだな。悩むなら、最初からしなきゃいいのに」


「へへへ」

とエットォが照れ笑いする。


「おまえの仕業だったのか?」

「そうかもしれないと思って」


「ますますバグが酷くなっていないか?」

「このままクリアまでたどり着けるんでしょうかね?」


「聞くな」

「えー、ディアブルさん、何でも知っていそうじゃないですか」


「んなわけないだろ!」

「それにしても、この部屋、なんで凍らないんですか?」


「それを聞いたら、遊んであげない」

「困っていますか? 考えなしの展開ですか」


「いや、ちゃんと考えてある。若者の姿だからだ」

「へー、考えなしに話、進めてるわけじゃないんだ?」


「だから、誰に聞いている?」

「えっとぉ・・・」


「それはおまえのことか? それとも考えているときについ言ってしまうあの言葉か?」


「へへへ」

またエットォが照れ笑いする。


「それよりディアブルさん、アイテム、何か持ってますか?」

「俺にまでたかる気だ、こいつ」


「なんかー、誰かに何かもらうのが、クセになっちゃって。勝手に人の荷物、漁ったりね」


「おい、こら、部屋を物色するな!」


「えーー、無理、これ、標準装備」

「おまえ、言葉の使い方、間違ってないか?」


「細かいこと気にすると、女の子に嫌われるよ?」

「今、すごく嫌われたい気分ですが?」


「チッ、大したアイテム出てこない」

「まだ、はじまりの村から出て、最初の村だからなぁ」


「ディアブルさん」

「はい?」


「部屋が凍らないという事は?」

「凍らないという事は?」


「触っても凍らない?」


≪ エットォの目つきが変だ! ≫


「うぉうぉ!」

慌ててディアブルが逃げ出す。


≪ ディアブルが通常形態に戻った! ≫


宿屋が崩壊する中、エットォの耳にディアブルの哄笑が響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る