3  謎の洞窟(スルー)

やっとのことで南の村の入り口が見えるところまでエットォが辿たどり着くと、


「よっ、前座ぜんざ!」


と誰かに声を掛けられた。


「ディアブルに声を掛けられた!」

思わず叫ぶエットォに


「まるでイベントみたいだな」

とディアブルが苦笑する。


「イベントじゃなかったんですか?」

「イベントだったのか?」


「それに、それを言うなら『よっ、真打しんうち!』じゃなかったかな?」

「意味が判って言っているのか?」


「それより私、三段目に昇格しました」

「今度は相撲取りか」


「やだぁ、私そんなに太ってます?」


自分の体を何とか見回そうとするエットォをディアブルが馬鹿にする。


「受付嬢なんかが無理やり勇者になったから、バグっているんだ」

「もともと私がバグですから。照れるわ」


「照れるところではなかろう。それより、チュートリアルに戻れ」


これにはエットォが真面目に抗議する。


「不詳このエットォ、ここに至るにどれほどの苦労をしたことか・・・今、里に戻ったりなぞしたら、二親に会わせる顔がございませぬ」


「二親が健在であったか。おまえのような娘では、さぞかし苦労したであろうな」


ディアブルも真面目に同情している。


そして、その真面目な顔のままで


「おまえを凍らせたとあれば、泣いて嘆く事であろう」

と、エットォを脅した。


「わたくしを凍らせる所存しょぞんで? な、何故なにゆえでござりましょう?」


「ネタは上がっておる、この嘘つきめ。受付嬢の親が登場するなど、ついぞ聞いた事がないわ!」


「探せば見つかるやも知れず。しかし、ここではディアブル様のおっしゃる通り。どうぞ、ディアブル様のご恩情で一度ばかりはお許しを」


「己の非を認めるとはいヤツじゃ、許してやらぬでもないぞ。あれに見える謎の洞窟、あの地を冒険し、見事、戻ってれたなら、望みどおりに許そうぞ」


ニッコリ笑顔でディアブルが言う。


その笑顔にうっかり見惚れ、つい、『かしこまりて候』と言いかけたエットォが、示された洞窟を見る。


「あれに見えるは、見紛みまごうことなきダンジョン。しかも察するところ、冒険の中ほどで舞い戻るイベントが発動してからのルート。


そんな疑念がぬぐえずにりまする」


「えぇい、ざかしい。氷になるか、ろうはいるか、さっさと決めよ!」


「ううん、あれは牢じゃなくって洞窟でちゅよ」


エットォが人差し指を立て、左右に振った。唐突に設定が変わったようだ。


「くっ・・・一番苦手な設定だ」

「ボクぅ、何か言ったかな?」


ディアブルは答えない。設定変更に手間取てまどっているか、躊躇ためらっているのかもしれない。


待ちきれないエットォが、声を掛ける。

「ディアブルちゃん」

「はーーーい!」

終了したようだ。


「なんで私に、あのダンジョンを冒険させたいのかなー?」


エットォは少しひざを曲げて、下からディアブルをのぞきこむ。


「きっとぉ、あのダンジョンには溶岩の間があると思うんだ。ボク、温まりたいの。でもさ、ボク、自分で見に行くのは面倒なんだよ、溶岩がなかったら疲れるだけだもん」


こうなったら自棄やけクソのディアブルだ。


「いけない子でちゅね、自分の事は自分でしましょうね」


エットォは何気にノリノリだ。手が届き、触っても凍らないのなら、ディアブルの頭を撫でたそうな顔をする。


「でもさー、ほら、あそこ、入り口が狭いでしょ。ボク、体大きいから入れないの」


ディアブルちゃんがうっすら目に涙をためる。


「でもね、オネエさん、あそこで生き残れる気がしないの。ごめんね」


エットォも涙ぐむ。


「そんなぁ」

ディアブルがしゃがみ込んで号泣する。


「オネエちゃんとなんか、もう、遊んでやらないからぁーーー!!!」


「えーーーーー!!! そんなぁ!」

今度はエットォが号泣する。


と、ディアブルの号泣がなんとなく遠ざかっているのをエットォが感じる。


見ると、どこに隠していたのか、ディアブルはブラックコーンに乗ろうとしている。


「ボクーーー、どこに行くのぉ?」


慌ててエットォがディアブルを追おうとしたが、


「今日は、もうお腹いっぱい」


と、ディアブルはブラックコーンを走らせてしまう。


「ディアブーーール、カミンバーーーック!」


叫ぶエットォの耳にディアブルの哄笑が響いた。

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