舞い降りる濡羽
一際大きいトロルの
出来る限り、私に死者の注意を向けさせる。でないと、意識が途切れて暴走が始まった時、また守るべき人々を手にかけてしまう。
トロルの死者を斬り捨てて、横薙ぎに冒険者風の死者の胴を裂き、斧刃の重さで隣にいた
「吼え猛るもの、太古の衝動、原初の霊脈、魂の鼓動、命を燃やすものよ――」
スキルの大半は極大級でもない限り、スキル名を呼ぶだけで起動できる。つまり、このスキルはそれだけ危険なスキルだということ。
クラス〈
そして第三
〈狂戦士〉の齎す
だから、危険と分かっていても使うしかなかった。
「――汝、魂より出でて、汝、悉く骨となり、汝、悉くを灰燼と帰せ――生まれ出でて、死に往くものよッ! 〈
体の周りで赤い
「ぐるおおおおおおおお!」
物理的衝撃波を伴う
その隙に――脚で地を蹴るよりも速く、私の思い描いた通りに体が跳ぶ。
実体化した
それと同時に、自分の身体から力がゴッソリと抜け落ちるのを感じる。
「ぐ……凄い威力なのに、身体の別のところから力が抜ける……」
自身で戦っている気がしない。身体を守るように浮遊する狂戦士の鎧片。それに操られているような感覚だった。
でもまだ、コントロールは出来る。まるで暴れ馬のようだけれど、それでもまだ抑えが効く。
ヒトの脚力では到底不可能な跳躍で間合いを詰め、ヒトの膂力では到底不可能な威力の斧を振るい、
キチンと死に装束で埋葬されていた遺体。
冒険中に亡くなった冒険者の亡骸。
古く、殆ど肉が削げ落ちた骸骨。
あるいは
有象無象、一切合切を無常に薙ぎ斬る。情感が死んで逝く感覚。死体は所詮死体でしかないはずなのに、濁った感情が口から零れ落ちそうな吐き気がする。
それはスキルで呼び起こされた狂戦士の
「まだ……!」
斧を振るうたび、泥に沈むように混濁する意識を無理やり引き戻し、また振るう。
ともすれば、主を無視して暴れ出しそうな狂戦士の
「感覚が掴めて来――」
油断したところに、
死者はまだまだ十重二十重に
儘ならない。
強力なスキルなのに、振り回されて。何のために戦っているのかも〈
分からない。
「私は……私はまだ……何も……何にも……!」
目が回り、意識が朦朧として、手元が狂う。
斧の一撃があらぬ方へ飛び、その隙を逃さず死者が殺到する。
「だめ……か……」
突き飛ばされ、視界が回り、空を仰ぎ見る。
逢魔が時を回り、赤く赤く焼ける夕闇の空から、羽音が舞い降りた。
殺到した
大鎌に翼の人影。
その腰に浮遊する、巨大な黒いカラスのような翼は、狂戦士の
「クラカライン・ヴィオ・ドナ様ですね?」
泥と黒血と腐肉に塗れ、素裸に外套一枚で、獣のような唸り声をあげて斧を振り回している、もはや誰とも知れない私にである。
墜ち汚れた私に名を告げるその姿はまるで――
「死……神……?」
そういうと、死神は苦々しく笑みを浮かべる。
「やっぱり、そう見えますか」
不思議と安心する、心地のいいボーイソプラノ。
死者の群と、狂戦士。挙句に現れた死神。
それに怯える
「ボクの名は〈
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます