クラス拝領③

「司祭様。ボクのクラスを」


 足元の黄金の魔法陣。古代天使語エンシェントで記された文字。それが何なのか。ボクにはおおよその予想はついていた。

 まず世に知れている〈魔術師ウィザード〉のハイ・クラスではない。

 不吉な名が記されている。

 だけど、そんな程度で冒険者になることを諦めるわけにはいかなかった。

 今まで不肖の子を大事に育ててくれたヴァン家の誰にも、不幸になる人が出るようなことはごめんだ。

 ボクの決心を察したのか、事情を知る司祭様は優しい笑顔を浮かべていた。


「この者のクラスを告げます――」


 神殿内の誰もが息を飲んだ。

 空気が浮ついている。内陣で儀式を行う司祭様方の動揺が冒険者候補生や、列席者、観覧客にまで広がっていた。


「――〈死神グリムリーパー〉ヴァン・サリオン・レーヴァ!」


 司祭様は出来る限り高らかに告げてくれた。


守護天使アンヘルぺレスヴァルが授けたもう、唯一無二のユニーク・クラス〈死神グリムリーパー〉ヴァン・サリオン・レーヴァ!」


 司祭様の宣言と共に〈魔術師の杖〉を恭しく受け取る。

 控えめな、パラパラとした拍手。

 お歴々ですら動揺が隠しきれていない。王族や元老貴族も列席しているせいか、不用意に不満の声を上げる者が居ないのは幸いだった。

 ここで委縮してはいけないと、ボクは立ち上がって振り返った。

 幾人かと目が合う。

 父やヴァン家の者たち、他にもフォン家シエロの父上や、見知った顔があった。


「これより私は〈死神グリムリーパー〉サリオン・レーヴァ! 守護天使アンヘルぺレスヴァル様より授かったこの類稀な力をもって、冒険者として名を上げて見せましょう!」


 授かった力を強調して、そう宣言する。不吉な名でも守護天使アンヘルの威光があれば、王族でさえ無下には出来ないはず。ボクはそう算段した。

 シン、と場が静まり返る。

 歌劇のような真似までして見たが、効果があったかは分からない。

 聞き慣れないクラス名。それも勇敢な戦士を天界へと連れ去る〈死神グリムリーパー〉という不吉な名に、この場の誰もが息を飲んだ。

 そんな静まり返った神殿の中に、優雅な、それでいて有無を言わさぬ拍手が響く。

 貴賓席に座る一人と目が合った。

 父だ。

 彼に長子として育てられたが、弟が生まれた以上、ボクはヴァン家にとって不要。

 もともと元老院に席をもつ貴族の家としては、庶子の上、混血児ハーフティーエの男子であるボクは疎まれる存在だ。

 だが――


「サリオン・レーヴァでは座りが悪かろう。ヴァンの名はくれてやる、持って行けサリオン。往ってヴァンの名を挙げよ」


 いつも通り。ボクにいろいろなことを教え込んだ瞳と声音でそう言った。

 父がそう宣言したことで、動揺していた周囲も、この場は祝福しておく方向で納得したようだった。

 拍手の数が増した。


「必ずやヴァンの名に恥じぬ働きを!」


 声を張り、歌劇の真似事を続ける。

 拍手の数は増えた。打算的であろうとも今は心強い。そういうものを味方に付ける術に父は長けていた。


「〈死神グリムリーパー〉ヴァン・サリオン・レーヴァに、守護天使アンヘルぺレスヴァルの加護があらんことを」


 司祭様も慣れたもので、誰ぞが余計な口を挟む前に高らかに儀式の完了を宣言した。

 こうなってしまえば、不吉な名に疑問を呈しかけていた者たちも、拍手で送らざるを得ない。

 ボクは慌てずにゆっくりと拍手に応えながら、冷や汗をかき、礼装の下で震える脚に爪を立てつつ、段取の通りに袖廊へとはけていった。

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