クラス拝領②

 クラス拝領の儀は、最初は広場でのお祭り。

 続いて一般観覧客向けの式典。

 そして内陣での儀式と、移り変わっていく。

 やがて聖歌隊の穏やかな合唱と、列席者の囁き声が緩やかに流れる静謐の中、クラス拝領の儀は進んでいった。

 最初は〈戦士ウォーリア〉の組からだ。

 幾人目かでシエロの番が巡ってきた。

 十字になった神殿の回廊の中心で、黄金の盃になみなみと注がれた真っ赤な聖体ワインを飲み干したシエロは首を垂れる。

 内陣から助祭がスプリンクラーで聖水を振るい、聖歌隊が古代天使語エンシェントを合唱すると、頭上のドームから白銀の光が降り来て、シエロから流れ出した燐光が銀細工のような魔法陣を織りなした。

 彼女の志望は〈戦士ウォーリア〉で、こちらから見える魔法陣の一角にも古代天使語エンシェントでそう記されていた。


「〈戦士ウォーリア〉フォン・シエロ・ブラウン」


戦士ウォーリア〉を冠して名を呼ばれたシエロは、最初の装備である『戦士の剣』を恭しく受け取り、大きな拍手に応え、嬉しそうに袖廊へと去っていった。


 やがて〈魔術師ウィザード〉の組に移り、ボクの番が回ってくる。

 内陣には古代天使語エンシェントの呪文を詠唱する司祭様。他の候補生と同じように回廊の中心で首を垂れ、手を組んで祈りを捧げる。

 頭上のドームから光が降りた

 床に細金細工のように黄金の光が走り、魔法陣を描き出すと、そこから赤い光が伸びてボクの身体に吸い込まれて行った。

 薄く目を開けると、魔法陣の一画に少し大きめの文字が見える。

 それがクラス名。

 志望クラスは〈魔術師ウィザード〉だが、ちがう。

魔術師ウィザード〉とは、書かれていない。


「まさか、ハイ・クラス……?」


 期待に胸が膨らんだ。この一瞬の間だけは。

 稀に素質のあるものが上級職と言われるハイ・クラスを拝領することがある。

 それは百人に一人とも言われる幸運で、才能や努力ではどうにもならない、守護天使アンヘルの恩寵の類だと言われている。

 それがまさか自分に。

 と考えたところで、周囲の反応が少し不穏なことに気が付いた。


「黄金の魔法陣はハイ・クラスの証だが……しかし、あの禍禍しい魔力の色は……」

「赤い魔力の輝きなど、初めて見る」

「やれやれ、またユニーク・クラスか……今年に入り二例目だな……」


 やがて黄金の魔法陣から赤い光の柱が昇り、儀式は無事完了した。

 魔法陣に刻まれたクラス名を改めて見やる。

 そこに書かれていた見慣れぬ古代天使語エンシェント

 確か――と記憶を辿る。クラス名でもスキル名でもあまり使われない言葉だ。死とか、恐れとか、刈り取るとかそういう類の、不吉な言葉。


「ヴァン・サリオン・レーヴァさん」


 そうこうしていると、司祭様がボクの名を呼んだ。


 改めて、ボクの名はサリオン。

 父は、ヴァン・グラム・フィオナ。

 ヴァン家はウルスス連王国初代両王の一人、人間族ノイエの王オーベリオン家の遠縁。元老院に席を持つ貴族。

 レーヴァは見も知らぬ母の名。

 ウルスス地方南部に広がる黒の大森林に住まう黒の妖精族デックティーエだという。ボクと同じ銀の髪に褐色の肌をした、美しい娘だったそうだ。

 ボクはそうして生まれた貴族の庶子。

 厄介なことに、忌み嫌われる混血児ハーフティーエの男子。

 ウルスス連王国は人間族ノイエ妖精族ティーエの二つの王家が治める国だからか、庶子にも混血児ハーフティーエにも比較的寛容で、継承順位は低いものの、家督を継ぐことすら出来る。

 だけどそれは、異質な立場からして見れば難儀な問題だった。

 そして父の恩寵の元、ボクはヴァン家の長子としては育てられたが、二年前に男児が生まれた。弟だ。

 家に残れば家督を巡って騒動、或いはもっと直接的にボクの騙って弟を暗殺する者は現れるだろう。

 自分では家を継げるような身でもないと思っていても、ボクのようなモノを担ぎ出す輩が現れてもおかしくはない。ヴァン家はそれが起こりうる名門。

 だから父が健在な内に自立する必要があった。

 そうしてボクが選んだのが冒険者パスファインダー

 夢や希望などではなく、生きるために冒険者パスファインダーとして身を立てる必要があった。


 だが、名の上に冠されて宣言されるはずのクラス名はなかった。

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