あらすじ

 昭和五十八年一月。仙台のホテルで現職の衆議院議員・坂本が死亡した。その裏には、政界を陰から 牛耳る元首相・中田にとって最大のブレーンである若林の暗躍があった。

〝事故死〟した中田の秘書・立木が残した告発文書が坂本の手に渡っていたのだ。若林は中田の命令で告発文書を奪還すべく部下を差し向け、坂本を脅迫した。だが、議員はその場で心臓発作を起こして死に至った。さらに同じ時刻にホテルを訪れた地検特捜部の検事・狩谷が彼らに濡れ衣を着せられ、殺人犯として拘束される――。

 一方で特捜部は、イスラエルの秘宝と言われるダイヤモンドの盗難を捜査していた。狩谷の幼なじみの大熊宗八が犯人として内定されていたからだ。狩谷は、宗八が『罠師』と呼ばれる犯罪集団のリーダーであるとの情報を得ていたのだ。

 罠師は、闇に潜む義賊として数百年間も巨悪と戦い続けてきた組織だという。彼らの武器は、研ぎ澄まされた罠。その罠によって、時に歴史が動かされてきたのだ。

 狩谷は己の無実を証明するために、坂本の死が中田と若林の謀略によるものだと暴かなければならなかった。孤立無援のまま警察から逃亡した狩谷は密かに宗八を訪ね、ダイヤモンド盗難に激怒したイスラエル情報機関が宗八の命を奪おうとしていることを明かす。宗八の命を検察が守る代償に、罠師の組織を動員させることが狙いだった。

 目的は、立木文書の奪還――。

 一方の若林は、罠師の暗躍を正確に把握していた。そもそも罠師を立木文書強奪に向かわせたのは、若林の策略だった。

 若林は、坂本から立木文書を奪うことができなかった。しかし文書には、若林自身の犯罪行為が記されている可能性が高かった。その文書が検察に渡れば、社会的生命が絶たれるのは必至だ。それは、闇から日本を牛耳るという若林の野望を打ち砕くことになる。若林は何としても、立木文書の信憑性を失わせなければならなかった。

 そこで考え出したのが、検察内部へ送り込んでいた〝協力者〟を利用した策略だった。その武器として、若林は自ら偽の立木文書をねつ造した。その文書を罠師に奪わせ、検察から発表させるためだった。その後に文書が偽物であることを暴き、検察の権威を失墜させようとしていた。

 その若林の策略は、罠師の〝不手際〟によって瓦解する。逃げ場を失った罠師は、イスラエルの攻撃から身を守るために賭けに出た。立木文書をエサに若林から大金を奪って逆上させ、若林本人と宗八が対決するという計画だった。その現場に狩谷の手配で検察を呼び、若林の裏の実態を暴こうというのだ。

 だが、検察の〝協力者〟から『罠師の文書強奪作戦の失敗は意図したものだった』と知らされた若林は、新たな作戦を練る。罠師が仕掛けてくる次の手も、正確に知らされていた。確実な情報を得ながら組み立てられてゆく若林の策略は、罠師の反撃を巧みに逆用するものだった。若林が呼び寄せたマスコミ関係者が見守る前で、罠師の計画は次々に崩れ去っていく……。が、それこそが罠師の〝罠〟だった。罠師は自分たちが追い詰められたと見せかけながら、着実に若林の逃げ場を狭めていたのだ。

 そして、闇の義賊・大熊宗八と、政界の黒幕・策士若林との火花を散らす頭脳戦が幕を開けるのだった――。

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罠師伝・1983 岡 辰郎 @cathands

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