第9話 残酷な世界-アクス編
アクスは、草むらに待機していた
戦場の真っ只中にいるのに考え事をしていた
思い浮かんだのは懐かしい少女の笑顔
ハッと気がつくと後ろから剣が振り下ろされていて、ギリギリの所でアクスは剣をかわした
迂闊だった
こんな所で考え事をしていた自分を恥じる間もなく
敵軍の兵士は狂ったように暴れだした
激しいも乱闘の末、ようやくアクスは優位に立った
剣を相手の首に突きつけた
「こ、殺さないでくれ!俺だって好きで戦っている訳じゃない!!」
「お願いだ!故郷には幼い子供と妻が待っているんだ!」
「まだやり残した事だってたくさんある!」
泣きながら、命乞いを始めた
アクスは故郷の家族を思い出した
ライド…リゼ…
セティア…
まだ、20代前半位の兵士だった
身体は、ガリガリにやせ細っていて頼りなく見えた
殺意の無いものを殺す事なんて出来ない
震えながら、無抵抗になっている敵軍の兵士を見つめ、しばらくの沈黙の後
突きつけていた剣をさやに収めると背を向けて歩き出した
その瞬間、それまで伏せていた敵軍の兵士は顔を上げ、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた
後ろを振り返ったその時はもう遅かった
背中から胸にかけて剣が振り下ろされていた
ドサリ
土の上に倒れた
「くくくっ、苦しめよ、特別に殺さないでやるからさ」
捨て台詞を吐いて、兵士が立ち去る
激痛が走る
次第に意識は遠のいて行った
死ぬのか?
俺は死ぬのか?
「バカか!お前は!!!」
大きな声が傷口に響く
どうやらまだ生きているらしい
ぜナル軍の医療所だった
運良く仲間に発見されて一命を取り留めたらしい
「心配させやがって」
十六年前の出来事と重なって、ライドは苦しそうな表情を隠せない
「ここは戦場なんだ!殺らなければ殺られるんだぞ!!!」
「甘い考えじゃ、生きていけない!」
数日間の療養後、別なゼナル軍の兵士と合流した
アクスは嫌悪感を覚えた
その兵士達はウェルドル軍の村や町を次々と侵略し破壊していた
何の抵抗も出来ない、女や子供達までも手にかけた
---こんな事をして何になると言うんだ?
アクスは思う
村人達の泣き叫ぶ声
恐怖に怯える姿
助けを求め逃げ惑うそんな姿を楽しそうに追いかけ回す
これが、戦争?
この人達がやっていることは、戦いなんかじゃない
虐待だ
母親を殺され、泣き叫ぶ幼い子供
そんな何の抵抗も出来ないそんな子供を数人で取り囲んで、狂った笑い声を上げながらその子に向かって剣を振り上げた
それを庇うようにアクスが間に入った
ザシュッ
鋭い剣がアクスを貫く
「何やってんだ?お前?バカじゃねーの?」
男が呟く
「こんな子供まで殺さなくてもいいじゃないか」
傷口を抑えながら声を絞る
後ろを振り向き、囲まれていた子供に声をかける
「逃げるんだ…」
ビクッ
恐怖のあまり泣くことも忘れ、ただ震えていた少年が、何が起きたか分からないような顔でアクスを見上げる
「早く!!!」
アクスの叫び声に慌てて少年は
かけて行った
その姿が見えなくなると
アクスは再びそいつらを見上げる
「あーあ、逃がしちゃった」
「どーすんの?」
剣のさやでトントンとうざったそうに自分の肩を叩き、呆れた顔でアクスを見下ろす
「あんな…何の抵抗もできない…子供を殺して…何になるんだ?」
アクスはもう虫の息だった
ガクリと膝を落としてそいつらを見上げ、睨みつけた
「なんだよ、その目は」
剣を持っていた男が言う
「生意気なヤツだな」
別の誰かが言う
「反逆者だー!!!」
同じ軍の、仲間だったはずの彼らは、全員アクスの敵になった
「俺達だって、コイツらに、ウェルドル軍の兵士達にめちゃくちゃにやられてきたんだ!」
「家族だって、恋人だって殺された!!!」
「何が違うって言うんだ?」
「自分がやられて、傷ついた事を…
また、他人に返して…何になるんだ?
何が生まれるんだ?…」
「…また同じ、悲劇が生まれるだけじゃないか…」
解ってはいるんだ、きっと
皆、でもどうしようも無い苦しみをこんな方法でしか発散出来ない
悲しいループ
痛い所をつかれて
頭に血が登ったひとりが
「生意気言うんじゃねーよ!」
アクスを蹴りつけた
「説教なんてしてんじゃねーよ!」
別の兵士が蹴りつける
全身を強く蹴られ、傷跡が開く
大量の血液が滲み出てて来る
痛みで、顔が歪む
「お前ら!何やってるんだ!!!」
やって来た大男に、アクスを取り囲んでいた連中は、逃げ出した
聞きなれた懐かしい声
それと同時に意識は薄れて行った
「アクス!!!」
大きな声が響く
「ラ…イド…」
懐かしい、少女の顔が思い出された
花のように笑う
まだあどけない笑顔
泣きたい時でも
無理に笑おうとする
健気な表情…
守りたかった笑顔
どうしても伝える事が出来なかった想い
大切で…大切すぎて…
逢いたい…
愛しい…愛しい…
「セ…ティア…」
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