第8話 後悔-ライド編

どこまでも続きそうな森を彷徨い歩いていた

辺りはだんだん薄暗くなって来た

やっとの事で森を抜けると

ザザザッと草をかき分ける音

そこに現れたのは、我が軍の者では、無かった

いつの間にか、敵軍に囲まれてしまっていた

敵のの人数より明らかにこちらの人数の方が劣る

とりあえず、退避する方向にした

それまで人塊だったぜナル軍の兵士達は一気に四方八方に散らばり、駆け出した

だが、一人だけ無謀にも敵軍に立ち向かおうとする命知らずの男がいた

筋肉も体力も人並み以上に優れた男

ライドには自信があった

殺される恐ろしさも人を殺す恐ろしさも

いくつもの場面を乗り越えてきたライドには無かった

逃げる仲間達を尻目にライドは敵軍を挑発する

一緒に居た仲間達はそんなライドを見向きもせずに我先に逃げて行った

「ライド!!」

誰かが呼ぶ声が聞こえた

でも、そんな事などお構い無しだ

狂ったようにライドはひとり、またひとりと確実に敵軍を倒して行った

後三人、後二人…

その時一発の弾丸がライドの肩をかすめる

一瞬怯んだ隙を付いて残ったひとりがライド目掛けて大きな剣を振りかざした

咄嗟にライドは両腕をクロスにして身構える

ライドの腕から一気に血が吹き出す

その血液を見てライドは突然恐ろしくなった

死への恐怖

俺は死ぬのか?

こんな場所で?

一体何のために?

---リゼ

婚約者の姿が脳裏を過ぎる

「嫌だ!助けてくれ!」

その瞬間、自分でも情けなくなるような声をあげていた

だが、その剣がもう一度容赦なく振り下ろされた

目の前が真っ赤に染まる

そして、シルバーグレイの髪が静かに揺れ、ライドの目の前に倒れ込む

真っ赤に染まった見慣れた顔の二つ年下の少年

「アヴァ-ン!!!!」

ライドの大きな声が森中に響き渡る

その瞬間からライドの記憶は曖昧だった

無我夢中で、剣を振り回した事だけは何となく覚えている

気がつくと、アヴァンを背負い、相手のか自分のか、アヴァンのかも分からない血液に染まった身体でひたすら歩いていた

ライドがまだ八歳の頃、敵軍に目の前で母親を殺された

何も出来なかった

無力だった

自分の大切な人さえ守れなかった

それが、悔しくて悔しくて

ライドは鍛え、十分強くなったはずだった

そんな自分が命乞いをするなんて

自分より弱いと思っていた

コイツに助けられるなんて


ガーディアは、無事に男の子を産んだ

意識が朦朧としているその中で

まだ産まれたばかりの小さな小さな手を握り優しく呟いた

「あなたの名前はアクス」

「大切な人を守れるように、強い子に成長してね」

それが、ガーディアの最後の言葉になった


"強さ"

それは、一体何なのだろう

人を傷つけることに

人の痛みに慣れてしまう事?

それが本当の強さなのだろうか?

アヴァンを思い出す

他者を守れる強さ

それが、本当の強さなのかもしれない

俺には、強さなんてあるのだろうか?

ライドは思う


そして、その息子も十六年後同じ戦場へと足を踏み入れていた

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