第6話 帰宅

遊び慣れた広い広い花畑

仲良く鬼ごっこをする二人

懐かしい懐かしい幼い頃の思い出

「待ってよーアクスー」

「ノロマなセティアになんか、捕まらないよ」

アクスらしくない意地悪な言い方

「待ってーーー」

いくら追いかけてもアクスは捕まらない

どんどん遠くに

離れて行く

追いつかない

伸ばした手の先に大きな剣が落ちて来て

セティアの行き場を塞ぐ

アクスは後ろを振り返らず行ってしまった

遠くへ

セティアの知らない場所へ

「嫌ッアクス!!」

ガバッ

目が覚めると

セティアの部屋だった

隣りではまだちょっと幼さの残るセティアの良く知っている少年がスヤスヤと幸せそうに寝息を立てていた

セティアは、安堵のため息をついた

目が覚めるにはまだ少し早い時間だ

外もまだ暗い

嫌な夢を見た

「セティア?もー目が覚めたのか?」

驚いて、声の方を振り返ると

「おはよ」

セティアの良く知っている少年は寝ぼけ顔でセティアを見つめ、起き上がるとセティアの髪の毛にそっと触れて前髪をかき分けると額に軽く口づけした

すると

「おやすみ…」

パタリと横になり、また寝てしまった

「アクス…」

その姿をしばらくは、複雑な表情で見つめていたセティアだったが、気を取り直してまたアクスの隣りに寝転んだ

今度はもっと良い夢を見よう

そうだね

戦争なんて無い

平和な世界の夢

誰との別れもなくて

誰の悲しみもない

永遠にアクスの側に居られる夢をーー



アクスは再び戦場へ旅立った

いつも通り元気に

「行って来ます」

そう行って背を向け、歩き出した

アクスのシャツを掴みたくなった

行っちゃダメ

そう思った

何だか、とても嫌な予感がした


アクス達が旅立って何ヶ月かが過ぎた

アクスが植えた花畑に芽が出始めた

その頃

ドアを叩く音

ライドとアクスが帰って来た?

そんな気がしてセティアは、ドアを開ける

そこには力強い筋肉の付いた逞しい体の大男、ライドの姿があった

いつものような元気は無く、なんだか様子が変だ

「おかえりなさい、お父さん?」

「アクス…は?」

無言のままのライド

何だか嫌な予感がしてセティアがライドに尋ねる

そこには、確かにアクスの姿もあった

でも、様子が変だ

ライドに抱えられ、ピクリとも動かない

ライドは、そっとベッドの上にアクスを降ろす

セティアの体が一瞬にして凍りつく

青ざめた顔

肩から腰にかけてザックリと大きな傷を

あの日セティアを包んだあの暖かさは無く

あの日聴いた生命の音は聴こえない....

セティアを見つめた深い緑色の真っ直ぐな瞳はもう二度と開かれる事は無かった

あまりのショックにセティアは、泣く事も忘れてただ呆然とアクスを見つめていた

ライドが床に膝をつき、俯きながら何かを言っていたが、その声はもうセティアの耳には届かない

「---すまない---まただ…」

セティアにとってアクスは太陽のような存在だった

アクス無しては、もう輝く事なんて出来ない

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