第4夜 紅玉の聖者

「さてと、準備としてはこんなトコロかしら?」


アメリカに置かれたUGN本部のある施設で、鮮やかな紅玉色ルビーの長髪を揺らしながらがひとり出向に向けて旅支度を整えていた。







「俺が、オーヴァード…?」

ある国の貧民街にて、慈善と調査を兼ねたUGNの下部団体にひとりのオーヴァードの少年が保護されていた。

知識も家族も世界の何もかも知らないこの少年を、穏やかな教育者が引き取った。

「あぁ。――強い力には大きな責任が伴う。今はまだ慣れないかもしれないが…君らしい生き方を一緒に探していこう。」

それからしばらく経って、少年は義理の親となった保護者の苗字なまえを貰い。

大人となってもなお、人との繋がりを確かに理解することなく戦い続けた。


戦って、戦って、戦い続けて。

手を伸ばせる相手には手を伸ばし、ただひたすらにがむしゃらに青年は戦い続けた。

その結果、彼はこう呼ばれるようになった。

「流石だなソーヤー!『男の中の男、真のマスラオ』だ!」


「…ドーモ。ありがとうございます。」

そう言って、ソーヤーと呼ばれた赤髪のUGNエージェントは肩を竦める。

「…あまり嬉しそうじゃないな?まぁいい、次の任務なんだが対遺産部隊ナイトフォールと共に遺産の調査に向かってほしい。」

「この前、俺がちょっと下調べした例の遺産ですか?」

「そうだ。――人為的なRe災害にも関わる影も確認されている。気をつけろ?」

パラ、パラ、と手渡された資料に軽く目を通しては、ひとつ溜息を吐き。

「―――了解ラジャー。」

いつも通りに、青年は戦場に向けて歩き出したのだった。


しかし、青年は知らなかった。

「今は一人でも戦える人間せんりょくが欲しい。共に戦ってくれないか?」

誰よりも高潔で、家族思いなやさしい友人とこの任務で出会うことを。

そして友と迎えた未来の戦いで、彼の言葉でオーヴァードの『生きる理由あした』の一つを心の底から理解することを。


「ソーヤー!しっかりしろ…!!」

友との出会いから数年を経て、中東から始まり辿り着いた欧州での遺産を巡る決戦。

その戦闘の最中で、ソーヤー・シノザキはFHエージェントの凶刃に倒れていた。

「げほっ…だい、じょうぶ、だ…!まだ、戦える。」

友の問いかけに血反吐交じりに答えつつ、青年は懐に隠していた敵が求めていただろう赤黒い液状の遺産を一息に口に含んで飲み干す。

「まだ、は倒れるわけにはいかないから…!」

そして、体が遺産によって作り替わっていく苦痛すら意志の力で押し退けて、彼が手にしていた白銀に輝く光が敵を貫いた。


「――すまない、ソーヤー。」

彼が手にしていたのは、実は乙女だったらしいある聖人の血と槍。そして皇帝の力。

「ダイジョーブ、デイブが気にすることじゃないわ!アタシが、アタシ自身が自分で選んだんだもの、後悔してないわよ。」

瀕死ながらも偶然その遺産に適合したソーヤーは、奇しくも友人デイビットと同じ遺産継承者としての人生を歩むことになったのだった。







「場所は…欧州ヨーロッパネ。ゲート便を用意してくれた上司チーフには感謝しなくちゃ。」

纏められた今回向かう事件の資料とR災対の外部人員募集の書類を、ソーヤーは昔のようにパラパラと捲りながら確認していた。


「敵討ちってのはガラじゃないんだけど…まぁ、ちゃんと『約束』は守らないとね。」

かつて友と撮影した端末内の写真に目を落としつつ、先ほど詰め込み終わった荷物を入ったキャリーバッグを軽々と持ち上げる。

「さてと…アタシなりに『アスカロン』のに恥じないように頑張りましょうか。」

最後に自身の武器でもある錆びついた槍を手にしては、名残惜しそうに端末を仕舞って青年は集合場所へと向かうのであった。

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