第2夜 紅く燃える執着

「ルカ班との共同戦線…か。」


日本某所に作られた、レネゲイド災害緊急対応班のマルコ班本拠地にて。

協力要請の書類を手にした青年は、傍らに置かれた武装システムに目を向けた。







「朔夜!『ギャレン』が完成したってのは本当か!?」

「――情報が早いな、確かに先ほど対災害特殊武装ライダーシステム『ギャレン』が出来上がったところだ。」

これははるか昔にあった、マルコ班のエージェントと研究者の男の話だ。

朔夜と呼ばれた研究者―鳴海なるみ朔夜さくやは、気付け代わりのコーヒーを啜りつつ職務終わりに飛び込んできたのであろう友人を苦笑交じりに迎え入れる。


「これで『退魔の遺産』に頼りきりの戦闘は変われるんだな…。」

嬉しそうに保護ケース内に収められた武装帯ベルトを覗き込む青年に対し、鳴海はカップを片手に肩をすくめた。

「気が早い。事前検査で適正の高い君が、実際に装着してテストして評価を受けてからの導入になるだろう?」

「別に喜んだっていいだろ!?…日々、Re災害も激化している。『ギャレン』で少しでも隊長たちの負担が減ればいいと…俺はそう思ってるんだよ。」

慈しむように保護ケースの表面を撫でた青年は、ニッと笑いつつ当たり前のように鳴海に向かって『夢』を語った。


そして、運命の試運転の日。

「適合率、侵蝕率、負荷状態…すべてクリア。これで正式に完成だ!」

「やったな!朔夜…!!」

装着から疑似戦闘まで一通りのテストをクリアし、正式に武装の一つとして対災害特殊武装ライダーシステム『ギャレン』がマルコ班に配備されることになったのだった。


しかし、運命とは時に何よりも残酷で。

「――彼が、死んだ…?嘘だろう…嘘だと、言って、ください…。」

鳴海朔夜の友は、守護者エージェントとしての意志を示すかのように。

「嘘ではないわ。――彼は、遭遇したジャームと相討ちになる形で亡くなったの。」

『ギャレン』の力を本来の戦場で振るうことなく、散っていったのだった。


「――っ、くそ…ッ!」

友の最期にすら共に戦えなかった自分への怒り、どうすることもできずに過ぎたことに対する哀しみ。

涙を隠すように手で顔を覆い俯いて肩を震わせる青年に対し、彼の友の殉職を伝えに来た少女――中央評議員アクシズのテレーズ・ブルムはこう言葉を続けた。


「Mr.サクヤ、貴方が開発した武装…『ギャレン』なのだけれど。貴方に、使ってもらいたいと思っているわ。」

その言葉に対し鳴海は頬を伝う涙を隠すように拭い、彼女の真意を見据えるように顔を上げる。

「――私が、ギャレンを。ですか?」

「えぇ。――残っていた適性検査データに貴方のものもあったわ。を除いて最も高い…現在所属しているマルコ班員の誰よりもね。」

何を言いたいのかと見上げてくる青年に、テレーズは少しだけ悲しげな微笑みを浮かべつつ、ほんの少しばかりの言葉弔いを伝えた。

「レネゲイド災害緊急対応班・マルコ班に所属していた彼の遺志を継いで、『ギャレン』を用いて私たちの下で戦ってほしいの。」


「――その話、受けます。」

青年の瞳に、紅い強い意志の炎が灯る。

「彼の遺志は、私が継ぎます。彼が目指した平穏を叶えるために、私は戦います。」







「戦えども戦えども、災害は尽きない…か。」

僅かな時間過去を思い出すように目を伏せた後、武装とは別の棚に置かれた写真立てたちに今ではマルコ班隊長となった鳴海朔夜は目を向けた。


「彼の後…小夜子。君も災害で亡くなり私は…道を見失ったような気持ちだった。」

かつて彼の友人が武装ベルトに対してしていたように、彼もまた写真立てを一つ一つ慈しむように指先で触れていく。

「まだまだ未熟だが、私なりに隊長として戦えている…とは思うが。小夜子、君はどう思うだろうか…。」

友と『ギャレン』プロジェクトのメンバーの写真、自身と婚約者だった女性の写真、そして最後に一番真新しいを中心とした写真に手を伸ばす。


「あの時も色々あったが、やはりこうしてまだ戦えている。…感謝しなくてはな。」

フッとほんの少し自嘲も混ざった微笑みを一つ浮かべた後、鳴海は手にしたままであった書類にサインをしてから上司テレーズの待つ応接室へと向かったのであった。

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