血絆のシルバーバレット~暁月夜の挽歌~
ふはい
序幕
第1夜 月に歌う御使い
「――
とあるUGNの施設。
そこにある、木漏れ日のような光の差し込む小さな礼拝堂に涼やかな声が響いた。
*
「アレックス、お前にはこの泉に何が見える?」
車椅子に座した隻脚の老人が、傍らに立つ琥珀色の髪の少女に向けて問いかける。
その言葉に、アレックスと呼ばれた少女は庭園に造られた目の前の泉を覗き込んだ。
「――月。いえ、これは、扉…?」
「―『月のような形の丸い扉』ということか?」
「はいっ、白っぽくて…キラキラで…綺麗な満月を扉にした感じです。」
少しばかり要領を得ないアレックスの言葉を纏めるように、老人は彼女が泉に何を見ているのか読み取るように少しずつ対話を続ける。
「―――――そうか。」
ここにある庭園の泉。
今まさに少女アレックスが覗き込んでいるのは、ある退魔の遺産を錬成するのに用いられる水と
「アレックス。」
「はい、なんでしょう?」
返答や仕草に年相応のあどけなさの残る少女の髪を梳くように、老人は武骨な手でアレックスの頭を撫でながら言葉を続けた。
「――泉に月の扉を見たお前の
「…ゼラキエル。」
「
少しばかり苦笑交じりに、老人はそう言っては傍らに立つ
「アレックス、忘れるな。今、泉の中に見たモノは、お前自身の死への入り口だ。死した魂が還ると思う場所への門だ。――お前がこれから振るうだろう不死者を送る、遺産の力で導く逝き先だ。」
静かに、彼女が為すべき責務を告げる。
「――っ。」
自身の死の心象風景。
今見たものがそれであると守護者の責務と共に突き付けられては、わずかに息を吞むもすぐにキュッと表情を引き締めて。
老人――現隊長である兄より先の、世界を守り続けてきた
「――良い顔だ。アレックス、お前の行く末に聖ルカの…そして聖銀の銃弾の加護があることを私は願うよ。」
*
「――隊長、アレックス隊長!」
欧州某所、レネゲイド災害緊急対応班のルカ班本拠地にて。
ひとり施設内に殉職者を弔う為に作られた礼拝堂で祈っていたアレックスの意識は、伝達にやってきた隊員の呼び声で引き戻された。
「――どうした、何かあったのか?」
自身を呼ぶ声に祈りの体勢からスッと立ち上がっては、何か問題でも起きたのだろうかと目の前の隊員にアレックスは問いかける。
日々の書類の不備かそれとも部隊内の問題か―いつもの問題のうちのどれかかと思っていた隊長に対し、隊員は別の問題を告げた。
「ルーマニアにて、
「―――なるほど。」
レネゲイド災害発生、そしてその対応任務。
その報告を聞き、アレックスは碧眼を一瞬伏せたかと思うとカツカツと執務室へ向けて歩き出していて。
「隊長?」
「…既に災害及び任務認定が下りているということは、Mr.アッシュもこちらにいらっしゃっているんだろう?」
「え、えぇ。確かにその通りですが…」
「それならば、早急に対応できるように僕が説明を聞きに行く間に。」
急に行動し始めた自身の後ろを困惑しながら追いかけてきた隊員に対し、アレックスはため息を零す。
「もう届いているかもしれないが…
「ッ――
「やれやれ、まだ彼は新人の方だったか。」
指摘してようやく意図を理解し、そのまま駆け出して行った隊員に肩をすくめつつもアレックスは執務室の方へ向けて改めて歩き始めた。
「それにしても、ルーマニアでの
ふと、くるりと指先に自身の金髪を巻き付けて遊びながら、物思いに耽るようにアレックスは言葉を零す。
「
静かな回廊にどこか自分に言い聞かせるような、歌うような中性的な少年の声が響く。
「――
するりと何かを確かめるように自身の胸に手を当て瞑目したアレックスは、何事もなかったかのようにアッシュ・レドリックの待つ執務室へと消えていった。
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