第27話 愛 恋色(藍 濃い色)

沙羅が思いっきり香月に抱きついた。

ギューっと抱きしめる。


「さっ沙羅さん!いい匂いっ♡でも力も強っ!うっわぁ〜〜〜♡♡」


「もうーーバカっバカバカー//////」


「そうですよ、俺すっかりバカの骨抜きです。どうか朝までこのバカ男に付き合ってください」


「えっ──朝まで?────」


斜めから顔が近づいてきてあっという間に深く口付けられる。

目を閉じて沙羅も唇をひらいて受け入れる。


唇が離れると名残惜しそうに、

「ヤバ・・・本気でヤバい、俺」

香月は嬉しそうに笑い、沙羅を横抱きに抱き上げると顔中にキスを降らせながら奥の部屋へゆっくり進む。


「明かりを」「いいよ、もう」


「消したい」「はいはい」


ベッドルームはフットライトだけになった。

そうだベッドルームのカーテンは閉めてなかった・・・ま、いっか。


沙羅をベッドに降ろす、、でもアレレ?

俺の首に回された腕はさらに強く抱くように力が入る。

沙羅サン?ベッドに降りないの?


「あのね」「なぁに」


「がっかりしないで・・」「何を?」


「勇気が消えそうで・・・」

「沙羅さん、どんとこい、でしょ?」


クスリと腕の中で笑う音がしてようやくベッドに降りる。


覆い被さるように横抱きにしてローブの紐を緩めた。

ゆっくりと耳たぶから、衿元の肌けた首筋にキスをする。


「あまり見ないで」

「・・・無理だし無駄」


「え?どうして」

「もう見えてるよ、全部」


「えっっっっ!いつの間に////」

「え?たった今」


薄暗い部屋に目が慣れてきたのか、自分のことより目の前の俺(の裸)に真っ赤な顔になっている。


今日はいったいどのくらいの、この人の色んな表情を見ただろう。

びっくり顔も可愛いけど、今夜は違う顔を見せてよ。


「陽司く・・・ん、カーテンが開いたま・・・」


「いいよ、俺以外見ていないから」


「・・・みないで」


「ヤダ」


「星が、見てる。星にもあなたを見られたくない」


「見せつけてやろう ────」


きれいだね、すみからすみまで全部きれいだよ。

思っていた通り、俺が性急に撫でる肌のあたたかさも感触も甘さも想像以上で。

あの人が触れる俺の肌も着火したように熱くなった。


あなたの上擦った声、可愛いね。

いつもより素直だね。

そこがたまらなく愛しくて、たまらないね。


「── お願、い ────」


「怖い?」


「怖く、ない」


「なら、何故」


「もうひとりは ──── いや、です。

───── どこにもいかないで」


「いかないよ、沙羅の中にずっといる」



香月を受け入れた時、沙羅の両目から涙が一筋、目尻へ落ちた。


幸せってこういうことなんだ。

静かで穏やかで、あったくて。

一瞬で燃え上り、燃え尽きる火ではない。

小さくて、でも触れたらじんわりと暖めてくれる穏やかなかがりのような火・・・でした。


とじた瞼の端から流れる涙を見た時、自分だけ急ぎすぎたのかと香月は動きを緩めながら、でもあまりに沙羅が幸せそうな顔をしていることに香月は感動していた。


好きな人とひとつになる。

それは欲望のまま勢いにまかせるとか、一時の感情に流されるとかじゃなかった。


その人を何にも代えられないほど愛おしいと俺の五感の全てが身体の底から尽きることなく溢れる、優しい優しい気持ちだった。



俺の腕の中で眠るこの人は子供のようにあどけない顔をしている。


無理をさせちゃったかな。


幼い日にいい子いい子と俺をなだめてくれた、この人。

これからは俺があなたを守るよ。


そっと沙羅の頭のてっぺんにキスをして髪を撫でた。

抱き合ったまま、脚を絡めたままシーツに包まって目をとじて。


月あかりの空は深い藍色。

どこまでもい、藍色愛色


あと少しだけ、夜が明けるまで二人このままで ───。



次話は「あなたと見る朝の色」です。

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