第6話 お巡りさんのサシ飲み②
香月はテーブルにグラスを置いて片肘をついた。
「な、和中。お前、守秘義務って言葉を知ってるか?」
「馬鹿いえ、俺は清き市民の味方、正義のお巡りさんだぞ」
「そうだったなスマン、忘れてた。そうだな、お前ならきっと・・・知っている人だ」
「オイ、忘れてただとぉ?て言うか、えっ俺も知ってるってマジかお前。やっぱ署内か?管内か?」
「違う、一般の人。警察官じゃないが、知ってると思う。ある意味有名な人だから」
香月は去年銀座で起きていた連続窃盗事件から順を追って話した。
話の途中で和中は気づいたようだ。
今日の昼や夕方の香月の挙動不審な態度からも察して興奮している。
しかし、二人が互いの立場を悩み、香月は未熟な自分から成長するため一年間待って欲しいと沙羅に告げて離れたことを聞いたとき、和中は顔をくしゃくしゃにして何度も頷いた。
「お〜いお姉ちゃん、こっちに赤ワイン持ってきて!一番高いやつ」
和中は長い腕をぶんぶん振って店員を呼ぶ。
「和中、いきなりワインを頼むな。まだ飲めるのかお前は」
「あっちこっちの港を渡り歩いていた管内一の色男が!とうとう港に錨を下ろしたんだ。祝わなくてどうする」
「あのなぁ、あっちこっちとか本当に人聞き悪いな・・・」
「サクラさん♪サックラさん♪♪
いい響きだなぁ。前に先輩に聞いたことがあるけど、正面から見ると目が眩んで一瞬、周りが真っ白になるほどの絶世の美女なんだってな。
しかも銀座の超一流店のオーナーママ!俺も会ってみてぇなぁ」
「勝手に名を呼ぶなバカ!それに俺はな・・・」
からかうように笑っていた和中だが、ふと優しい顔になった。
「わかってるさ香月。お前がそんな軽い理由でその人を選んだんじゃないってことくらいは、さ」
「和中・・・お前」
「沙羅さんも香月も真剣なんだろう?にしてはよ、“ いい意味で節操なしの香月君 ”がよ、・・・なぁ、へっへっへ〜」
ニヤニヤしながらワインを注ぐ。
「ンだよ・・・節操なしのどこにいい意味の要素があるんだよ。
それにお前、ヤラシイ目つきだねぇ。あーあ、ヤダヤダ」
「フーン?お前さ、俺の見立てじゃ未だ沙羅さんに手も足も出せていないんじゃねぇの?
手癖の速さと悪さじゃマッハの香月君が!信じらんねぇww」
「(o゚ェ゚)🍷・;'.、ブッ」
「純情色男と絶世の美女に乾杯!このワインもデカ長が奢れ」
「・・・覚えていろよ・・・・・・でも和中ありがとな」
互いの左手でグータッチをし、右手のグラスで何度目かの乾杯をした。
「あー酔った、俺は気持ちよく酔ったぞ」
「静かに騒げ、お前はガキか。で和中よ、明日の勤務は」
「午前中非番。今からはるかちゃんちに泊まりにいく」
「この幸せ者め」
笑いあいながら駅で別れを告げた。
「明日午後0時45分に本庁か・・・あっ、しまった!沙羅さんに7月の予定を知らせないと」
腕時計は午後10時を指している。
まだ沙羅は店で忙しくしていることだろう。
空を見上げると晴れた夜なのに星はひとつも見えない。
「50階の窓からなら・・・星が見えるかな」
沙羅の黒い瞳に灯る星に会いたい。
香月は自動改札を通り山手線ホームへ向かった。
次話は「霞ヶ関で逢いましょう」です。
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