第7話 霞ヶ関で逢いましょう

地下鉄桜田門駅 午後0時50分

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

はぁっはぁっはぁっ・・・・・・・・・!


🌞に吠えろ!ばりに全力疾走する一人の男。

スーツの上着を右手で鷲掴みにし、地下鉄桜田門駅の階段を二段飛ばしで駆け上がる。


「どうして出がけにいつも雑用がはいるんだよ!」


息を弾ませながら地上に出れば警視庁の巨大な建物だ。

セーフか?時間は?

0時50分!?5分アウトだ!

頼む、待っていてくれ!


祈る思いで正面玄関に近づくと警杖を携えた警察官が立つその少し離れたところに白い傘を差し、淡いグリーンのスーツ姿の沙羅が所在なさげにポツンと立っていた。


「沙羅っ、さんっ!待たせてごめん、なさいっ!」


香月の姿を認めてほっとした顔で微笑む沙羅。

この前会った時よりずっと綺麗だよ、って言いたかったが、

おっと・・・仕事中だった。


「待っていない、です。陽・・・香月さんもお疲れさまです」


「本当にすみません。足元が濡れているじゃないですか。中に入りましょう」


入口に立つ警察官に敬礼をし沙羅を建物内に通す。

香月が警視庁に来たのはほんの数回だが、沙羅はモンタージュ作成のため何度も来訪しているのだろう、香月より館内に詳しい。


受付で担当の内線を呼び出して待つ。


「沙羅さん、疲れたでしょう。座っていてください」


沙羅を長椅子に掛けさせると、


「ありがとう。・・・あの、(昨夜の連絡にまだお返事できてなくて)」


「いいです、そんなの。(これが終わったら少し話ができるといいんだけれど)」



しばらくすると沙羅が長椅子から立ち上がり奥に向かって会釈した。


香月が顔を向けると40歳代の男性警察官が若い女性警察官を従えてこちらへ向かってくる。

香月は姿勢を正して敬礼をし、


「酒井警部補。本日はお忙しいところ申し訳ありません。自分は港東署の香月であります。こちらはご協力いただく雨宮さんです」


「酒井さん、ご無沙汰をしております」


沙羅が丁寧にお辞儀をする。


「香月刑事部長、ご苦労さまです。今件を担当されることは御園みその副署長と三浦一課長から聞いています」


そして沙羅を見やり、


「雨宮さん、いつも捜査の協力に感謝します。これは今回助手を務める小林唯こばやしゆい捜査官になります」


ショートカットが良く似合う引き締まった表情の女性警察官が敬礼を返す。


「小林です。香月部長刑事よろしくお願いいたします。雨宮様、初めまして」



四人が向かうのはモンタージュ作成のための部屋。

モンタージュの主流は対象者の記憶や見たかもしれない光景を引き出し、似顔絵にして表現する方法になっている。


沙羅は歯科クリニックに強盗が入った前日の午前中に診察を受けた。

この日は午後の診療がないため、もし前日に犯人が下見に来たとすればこの午前しかない。


香月が事前に調べたところによると、午前中の診察は28人。そのうち事前予約をしていない患者は3人のみ。

予約をしていた25人は沙羅を含めてアリバイが成立している。

その他の3人のうち2人は女性、男性は1人だがこの男性のカルテがなかった。


歯科医によるとこの男性は飛び込みで診察の希望をしてきたが、散々質問や確認をした上で治療をせずに帰ってしまったらしく、御園が怪しんでいる人物でもある。


ただし本人確認が出来ないため沙羅に白羽の矢が立ったのだ。



次話は「モンタージュ」です。

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