第5話 お巡りさんのサシ飲み①
池袋駅東口 午後7時30分
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都心から近く、近郊県へのアクセスもよい池袋は平日にも関わらず大勢の人で混雑している。
サラリーマン、OL、そして学生。
池袋駅東口からまっすぐ、サンシャイン通りにある雑居ビルの地下にある有名焼き鳥チェーン店で二人は飲んでいた。
「デカ長なんだからもう少し高い店で奢れや」
「馬鹿言うな。あれぽっちの役職手当なんて雀の涙だってお前も知ってるだろ」
「まぁな」
和中は大きな串にかぶりつくと、
「それで?噂のデカ長さんが最近そわそわニヤニヤしているのはどうしたことかね?さぁ正直に吐け。吐けば楽になるぞ」
「噂って何だよ。和中のくせして一丁前に尋問形式をとるな」
フンと香月が横を向くと顎を掴まれてキュッと正面を向かされる。
「へぇぇ、香月。お前って秘密主義だったっけ?」
「なんだよ・・・その勝ち誇ったような目はよ」
和中は片眉を上げてニヤリと笑った。
「お前さ、以前は確かこの辺り勤務だったよな。聞いてるぞ、有名だぞ〜。
上から下までめちゃくちゃモテてたことも、それを隠しもしないおバカさんだったこともよ」
あーー↓、だから嫌なんだよ。警察官同士こういう事に限ってやたらと情報伝達が早くて尾ひれもついてさ。
もう本当にヤダ・・・と片手で顔を覆ってため息をつく。
「・・・・・・・・・」
「あ、黙ったww」
「うっせ!飲め!飲んで寝ろ!伝票ごと店に放置の刑だ」
「うわっ、おまわりさんがそんなこと言っていいのかなぁ」
「貴様もおまわりだろうが」
和中はビールを一口飲んで笑っていたが、すっと真顔になる。
香月もそれに気づき、ハイボールのグラスを持ちかえた。
「俺が・・・前沢ちゃんと付き合ってるの知ってるだろ」
「あ、・・・・・・うん、、だな」
「だよな。俺の方こそ隠す素振りすらしていないもんな」
「わかりやすいよ、和中は」
和中は苦笑いしながら前髪をかき上げてネクタイを緩めた。
「香月がはるかちゃんと一時期、そうだったことは知っている。彼女、幸せそうにしてたからさ」
「・・・すまん・・・」
「謝るな。そういう意味じゃない。彼女は強くていい子だ。今は仕事も一生懸命だぜ。で、俺のこともちゃんと見てくれている」
「和中も、前沢君も幸せそうだよ。俺なんか出る幕はない。俺には出来なかったことをお前は二人でちゃんと築けているんだな」
香月もネクタイを緩め、目を
「そんな申し訳そうな顔をするな。でも俺が幸せだからなのかわからんが、香月が最近驚くほど幸せなんだとわかる。
自分がそうだからなのかもしれんが」
「そう・・・か?そんな風に見えてるのか?」
「お前ここ一年くらいずーっと苦しそうな顔をしていたからな。昇進試験を受けると聞いた、去年の夏あたりからか」
「ふーん、和中刑事は意外と見えてるんだな」
「ばーか。でも、そういう意味ではお前だって変わってないぜ」
「ん?どういう意味だよ」
「 “ 今俺は幸せです ”って隠しもしていないもんな。でも署内で噂が立たないってことは(港東署以外の)違うところの人なんだな」
香月は目を見開いて和中を見た。
興味本位で俺をからかう男ではないことはわかっていたが。
どうやら、自分が考えていた以上にこいつには心配をかけていたようだ。
「そう、だな。サンキュ、和中」
「で、誰なんだ?俺の知らない人か?」
いきなり切り込まれて、これは和中に言っていいものか香月は一瞬考えた。
相手は担当した事件絡みで知り合った一般市民で、管内では有名な捜査協力者でもある。
しかも銀座の高級クラブのオーナーママと一介の警察官では一般論で真逆の立ち位置にいると言われても仕方がない。
さらにいえば沙羅は男性だ。
そこは知ってもらう必要・・・ないか。
次話は「お巡りさんのサシ飲み②」です。
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