第4話 ふたつめの約束
港東署 午後5時15分
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
デートの約束以前に事件協力のお願いをしなくてはならないとは。
香月陽司、一生の不覚。
そうはいっても仕事は仕事だ。
香月はまずモンタージュを作成する本庁の酒井捜査官へ電話で挨拶をし、
さすがにプライベートの電話へかける内容じゃない。
香月は一課のデスクにある受話器を上げ、去年春の窃盗事件の際にENDLESS RAINのマネージャーからもらった名刺の番号へ電話をかけた。
─Prrrrr─Prrrrr─
まだ5時だ、早すぎたか・・・が、
『──お電話ありがとうございます、ENDLESS RAINでございます』
マネージャーの黒木さんか?慌てて少し早口で名乗る。
「っ、すみませんこちら警視庁港東署刑事一課の香月といいます」
「あぁ港東署の。その節はお世話になりました」
去年の窃盗事件のことを言ってるのかな、香月が先を話そうとした時、小声で
『(香月さん、ママはフロアにいらっしゃいますが呼んできましょうか?)』
「・・・・(汗)!!(そっちの
沙羅に告白した日、勢い余って「俺を店の人に紹介して!」と口走った香月。
沙羅は律儀にその数日後、新橋のカフェでマネージャーの黒木と横川に香月を紹介してくれた。
二人は叔母の代から共に店を切り盛りし、沙羅をアルバイト時代から影に日向に支えてきた。
二人は沙羅にとって父親のような存在。
沙羅の行く末を案じていた二人は香月という恋人の存在を心から喜んでくれた。
香月にとっても沙羅を見守ってくれる心強い存在だが、黒木からの申し出に背中から汗が吹き出る。
「いっいえ。今日は沙羅ママにモンタージュの協力を依頼したくお電話しました」
『あー、そういうことですね。では少しお待ちください』
何故かガッカリ気味の黒木の声に「?」の俺。
やがてバイオリンが奏でる電話の保留音が流れはじめた。
ほっと汗を拭いて顔を上げると、そこにはまたもや和中の姿。
「何だよ、俺は任務の電話してんだよっ」
今度は額に汗が滲みはじめた。
「おま・・・香月、スゲー汗かいてどうしたんだ?」
「大丈夫だからっ、あっち行けったら!」
和中に向かってシッシッと追い払うような仕草をしたその時。
保留音が途切れ、あの愛しい声が受話器を通して香月の耳を愛撫する。
『お待たせしました、沙羅です』
「っっ・・・・・・!(汗!汗!汗!!!)」
『・・・あの、もしもし?沙羅ですが。えっと、刑事、、、さん?』
香月の顔がカッと赤くなりこめかみを汗が流れる。
そんな香月を和中は驚きの顔で見ている。
「香月、お前・・・」
「ご、ご無沙汰しています。警視庁港東署刑事一課の香月です。急で申し訳ありません。そ、捜査に協力頂きたくお電話しました」
事件と経緯の説明をすると、沙羅も真剣に聞く声になる。
香月ははじめて銀座の店へ、捜査協力の依頼をしに行った夜の沙羅を。
洗練された大人の雰囲気を纏わせながら的確にマネージャー達に指示を与えていた沙羅を思い出していた。
「では雨宮さん、明日の午後0時45分に警視庁本部までご足労願います。入口でお待ちしていますので」
『わかりましたわ』
受話器を戻して額に残った汗を拭うと、大きなため息とともに香月は机に突っ伏した。
そんな俺に追い打ちをかけてくる和中。
ポンポンと後頭部を指先で突っついてきた。
「か・づ・き・く・ん♡ 今夜、奢れ」
「マジかよ・・・・・・」
次話は「お巡りさんのサシ飲み①」です。
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