第3話 特命デカ長

「─── では、全署員が今件を遵守のこと。以上、解散」


署長の締めで会議が終わり、各々課に戻る。

俺は別件で一課長、二課長らと別室に向かった。


廊下を歩きながら俺は直属上司の一課長に声をかけた。

こういうことは早めがいいんだ。


「課長あとで時間下さい」


「いいぞ、何だ?」


「有給申請です」


「却下だ、香月」


「却下です、課長」


くだらないやり取りをしながら会議室に入ると、既に副署長が席に着いていたので一旦休戦。


会議は築地で発生した強盗事件についてで副署長の御園みそのがミーティングオーナーだ。

副署長は俺の卒大の先輩で、昨年俺が昇進したことを知ってか何かと目をかけてくれる。(仕事も増えた)


「発生から3ヶ月が経過したが検挙には至っていない。一日も早い逮捕をと署長からの指示だ。そこでだ」


一課長が資料をプロジェクターに投影する。

現場、そして強盗犯の足取りを確認した香月は目を見張った。

直近の現場は銀座五丁目。

被害現場は歯科クリニック、被害は破壊された進入口の窓、金庫の鍵と現金約300万円。


待てよ、ここ・・・確か沙羅さんの通ってる・・・


「犯人は男性、痩せ型の中背。監視カメラから分かっているのはそれだけで現場では覆面の上、防犯カメラにスプレー塗料を吹き付けるため詳細は不明だ。

犯行前に現場を下見するらしいことが調べでわかっている。この歯科にも来ている可能性は高い。今度こそ犯人を検挙する。

市民からも広く情報提供してもらう為にモンタージュを作成することにした。そこでだ、、」


香月が記憶を手繰り寄せていた時、


「おい、香月」突然御園が声をかけた。


「・・・・・・」


「(香月、副署長のご指名だぞ)」

一課長が脇腹を小突く。


「はっ、、はいっ」


「香月は以前銀座の窃盗犯を検挙しただろう」


「は・・・・・・はい、昨春ですが」


「北畠から聞いているか?雨宮さんのことを」


雨宮さん、と言われて一瞬分からなかったが ──

それって沙羅さんのことだよな。


頷きつつ「はい、聞いています」と答えると御園は満足そうに香月を見て、


「事件前日に現場の歯科に雨宮さんが来院していることが確認できている」


やっぱり・・・と香月が確信した時、


「香月、今回のモンタージュ作成を担当しろ」


「は・・・?!自分がですか?しかし一課には既経験の署員が・・・」


「誰も初めは未経験。警視庁本部との連携も必要だ。香月も経験を積め」


「はっ・・・了解しました」


香月は軽く頭を下げながら、これは参ったなぁの職務感と、日中堂々と沙羅さんに会える♡の非日常に頭の中がグルグルしてきた。



会議室を出ると一課長が香月へ不安混じりで声をかけてくる。


「おい香月。吉野から聞いているがお前沙羅ママに噛みついたことがあるらしいじゃないか」


「えっと・・・その件は自分の思い違いでしたので先方には謝罪済です」


「ならいいが・・・お前に 沙羅 を任せていいのか?」


ちょっと!!!

聞き捨てならないよ課長!

この俺ですら「沙羅さん♡」ってさん付けにしてるのに、赤の他人の(俺もまだ他人)しかも、たかが課長が(俺はその部下の下っ端デカ長)俺の大切な沙羅さんをあろう事か呼び捨てってどうよ!

これには温厚?な俺もムッとした。


でも課長は違う意味でオレの闘志に火がついたと勘違いしたらしい。


「モンタージュ、やります」


「よし、沙羅に連絡しろ。丁寧にな。本部には俺から連絡しておく」


また呼び捨てかよ!と心の中で毒づきながら


「課長、有給申請は本日中に承認お願いします」


「香月もなかなかしつこくなったな・・・」


渋い顔の課長をよそに俺は今夜のデートの連絡前に、捜査の依頼をしなくてはならなくなったことを沙羅に謝りたい気持ちでいっぱいになった。



次話は「ふたつめの約束」です。

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