第43話 幻聴でも偽物でもない
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近くの武器屋から文字通り武器を拝借し、ハロス城までの大通りを歩く。まだまだ混雑しているが、人々は裏道を使っているため逆に大通りの方が空いているという奇妙な状態になっている。
俺はいつもの赤い石が付いた剣と拝借した盾を持って、力強く歩み進めている。ホークに言われた通り、盾も持っている。
治安兵士は何でも情報を持っているようで、デリーシャ時代の俺の戦闘スタイルも裏で勝手に分析されていたらしい。俺は「盾を持って皆を守る者」とか「サポーター」と呼ばれているみたい。それは嬉しいな。
ガルには「剣を持たない者」と呼称された挙句の果て、追放されたのだから。人間、褒められる方がよっぽど嬉しい。「五人前が欲しいから一人前は抜けろ」とか、今考えれば意味が分からない。それは追放する前に言ってほしいものだ。注意しても変わらなかったら追放すればいい、たったそれだけのことなのに。
何なら今言ってやりたいが、彼らは本物のデリーシャじゃない。確証は無いが、本物だとするとたくさんの違和感がある。見た目が変わっていなかったりそれに……たくさん。
今から挑む相手は、ただのモンスター。ゴブリンと、人間に擬態するモンスター。そう思えばいいさ。
「もうすぐハロス城前だ、注意しろ」
昔のことを思い返しているうちに、もう現場に辿り着いてしまったようだ。剣と盾を構え、皆を守る者として先頭を歩く。曲がり角を曲がれば、そこはハロス城前の大通り。瓦礫だらけで歩きにくいが、行くしかない。
「止まれ! ゴブリンが居た。こいつを討伐すれば奴らも気付く。もう立ち止まれないぞ、行くか」
まだここは大通りの一歩手前の道で、ゴブリンは道の入り口にいる。こいつを倒せば……行くしかない。
タイガの掛け声と共に、俺は持っている剣をゴブリンの頭に向かって思いっきり突き刺した。ゴブリンは声にならない声を上げつつも、血を噴き出しながらその場に倒れた。口から白い液体も出ている、死んだな。
その勢いのまま、4人で大通りに向かって走る。大通りに出てすぐに横にゴブリンが居たため、剣を投げて討伐した。ホークとタイガは治安兵士の特別な対モンスター用のナイフを使って、別のゴブリンの首筋をスパッと斬った。
「誰なの? 計画を邪魔しようとしてるのは」とサタナの声が聞こえた。ゴブリンたちの妨害に耐えつつハロス城前の広場に行くと、そこには若いままの4人が立っていた。さっきの宣戦布告の時と立ち位置は変わっていない。横からフィン・サタナ・ガル・ソール。
「お前らは誰だ?」
タイガが対モンスター用の剣を構えつつ、彼らデリーシャに向かって尋ねた。彼らが本物のデリーシャである可能性は……低い。というか、無い。
「私たちはデリーシャ、全てを破壊するために復活した。何か文句でも?」
彼らが本物のデリーシャでないことを確信したところで、俺とタイガとホークは4人に向かって走り出し、剣を突き刺そうと試みた。
が……出来なかった。恐れた訳じゃない、奴らの不思議な力によって防がれた。
剣が奴らの首元に到達しそう……というところで、ガルがある言葉を口にした。
「私たちが本物である証明をしよう。マイト、酒屋のカヴァは分かるか。お前を追放した後に会ってな、話し合ったのだ」
確かに、酒屋の主人は「彼らに会ってない」と言っていた割にはどこかで話したような素振りを見せていた。しかし何を話し合ったというのか。
「まぁよい、ボルバ・ボルバ。バイバイ」
奴らが謎の言葉を発した瞬間、背後から爆発音が響き渡ってきた。少し離れた場所から、それも何回か。方角的には……酒屋がある場所だ。
「古代の呪文は便利でね、ボルバと2回唱えれば爆発を起こすことができる。錬金術師の子孫が唱えればの話だが」
ぶっちゃけ彼らの話は耳に入ってこなかった。錬金術師といった特徴的なワード以外は。それよりもランや酒屋の主人達の安否が気になっている。爆発音は店の方角から聞こえたのだから。
「酒屋はデリーシャが爆発させた」
「俺たちは本物のデリーシャだ」
奴らはそういう言葉を発すると、俺たちに向かって走りかかってきた。サタナとガルは剣を持っているが、フィンとソールはわざわざ剣を投げ捨てて素手で向かってきていた。
俺は言葉の意味が分からずに呆然とその場で立ちすくしていたが、サタナに剣で刺されそうになった時ホークに突き飛ばされたところで目が覚めた。
「どうしたの、マイト。役立たずなんだから追放されて当然でしょ。酒屋も正直邪魔だった。だからお前もとっとと消えろ」
サタナは豹変したように俺に襲いかかってきた。が、ホークに突き飛ばされた後も周りは見えるようになったが戦う気が起きない。それどころか猛烈な吐き気と痛み、頭痛と嫌悪感に体が苦しめられていった。ランが……酒屋が……怪我人の集まっていた家が……デリーシャに破壊された。
まだ確認していないから嘘だと信じている部分もあるが、爆発音は店の方角から聞こえた。
もしかして……これはただの幻聴か。または爆発音だけを鳴らす呪文か。実際に煙とか炎を見た訳じゃないし、爆発音が聞こえればたちまち皆不安になる。そこを狙ったのか、偽のデリーシャは。
いや、手が震えて思考が追いつかない今……新たな謎が生まれた。フィンは錬金術師の末裔と聞いていた、嘘だとは思うが……目の前で呪文を使っていた。幻聴でないのなら。
ボルバなんて聞いたことない上、それをフィンたちが唱えると実際に爆発音が鳴り響いた。本物のフィンが本物の錬金術師の末裔だと仮定すると、偽のフィンが唱えたとしても爆発は起こらない。となると……ほんも----
「ボルバ・ボルバ」
次は炎も煙も巻き上がる程の巨大な爆発が起こった。方角は……さっきと同じ店の方からだ。炎と煙が竜巻のようにグルグルと混ざり合いながら回転、それは天に届きそうな程の高さまで昇っていった。
「これは幻聴でも偽物でもない、現実だ」
フィンのその言葉を聞いた俺は、その場で激しく泣き崩れた。
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