第44話 全て破壊する
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風向きも相まって、爆発による火災は広範囲に及び、シータやジュリーの店がある場所まで巻き込まれていった。俺たちのいる大通りに沿って建てられた店もどんどん炎に巻き込まれていき、やがて残ったのは黒い骨だけ。その惨劇を目の当たりにしてしまった俺はその場から動けなくなり、他の4人が俺を補佐するように周りを囲んだ。
「ラン……ラン……ランが……ランがぁ……ランがひら……ラン」
自分でも何を言っているか分からない。ただ、ランを失った悲しみを確認している。ランが死んだ、確実に。実際に爆発は目の前で起こっている。幻覚にしては……他の4人も見えてしまっている。
ジュリーとシータの店も、大通りに沿った店も……近くの建物はほとんど炎に巻き込まれていった。爆発から生き延びたとしても、この炎の中では生き残れない。もう分かりきってしまったんだ。
「まだお前は娘さんを見た訳じゃないんだろ。俺たちに幻覚を見せられている可能性だってある。それに今は辛いだろうが、目の前の元凶を潰すだけだ」
タイガはこんな時でも俺に立ち直るように言ってくる。かつてシャリアとして活動していた頃、取引先の人間に裏切られたことがあって、その時皆落ち込んでいた。自分が殺されそうになったとしても、剣を構え直すことすら皆できていなかった。
その時、俺が彼らを助けた。剣を使わずに素手で奴らを倒し、彼らを遠くに逃がした。その帰りにノーマッドとして再結成したんだっけな。
あの時の恩を、彼らは返そうとしているのか。
剣を構え直すことすらできない今の俺を、彼ら4人はどうにかして助けようとしている。娘を失った悲しみは晴れなくても、今は目の前の奴らに集中するしかない。まだ娘を失ったと確定した訳じゃないんだし。
「マイト・ラスター。お前にずっと助けられてきた。次は俺たちが助ける番だ。あいつらを潰す……討伐できるのは俺たちしかいない。やろうぜ」
シータとジュリーはそう言って俺を奮い立たせてくれる。その言葉に俺も何だか救われた気持ちになった。
「お前は酒屋を失った。帰る場所は無い」とか、ガルの姿をした何者かが何か喚いているが、もう聞こえないことにしておく。
奴らの言葉に耳を傾けていても、何の得もない。それよりもノーマッドのメンバーの声を聞いておく方が、生きる糧になる。これは本物でも偽物でも同じだな。
「それでも立ち直ろうとするか、消えろ。消えろ。消えろ。消えろ、消えろ」
奴らは語彙力を失ったのか「消えろ」としか言わなくなってしまった。そんなに消えてほしいのなら、お前らが先に消えてく----
「遅くなったな」
突然のこと、対モンスターの大剣を持った何者かが、向かって右にいたガルとソールの首を撥ねていった。首を失った彼らはそのままバタッと倒れ、そのまま紫の煙となって消滅していった。
大剣を持った謎の人物は続いてサタナの首も斬ろうとしたが、フィンの「ナハース」という謎の呪文により吹き飛ばされた。その人物は吹き飛ばされつつも大剣を地面に突き刺し、何とか地面にしがみつこうと必死に抗いていた。
ここで顔が判明した、そう……ユーゴだった。大剣を持ちガルとソールの首を撥ねていった男は、あのユーゴだったのだ。
「悪い遅れた、生徒を安全な所まで避難させていたからな」
そうだった、ユーゴは訓練所のコーチとなっていたんだった。彼の顔には大きな傷跡があり、見た目は少々怖いものの根は優しい。そんな彼が大剣を扱って……って話が脱線してしまったな。それくらい嬉しい。
それにしても、ガルとソールの死体は残らずに煙となって消滅していった。これは普通の人間ではもちろんのこと、モンスターでも起こらない現象だ。モンスターでも死体は残るために取引に使われる。人間や他の生物も残る。
年月をかければ死体は分解されて消えることもあるかとは思うが、こんな一瞬で……それも紫の煙になって消滅するなんて有り得ない。
モンスターでもなく人間でもなく、他の生物でもない。新たな何かが関与しているのか。はたまた幻覚を見せられているか。
「これは幻覚でも何でもない。現実だ」
フィンはそう言うと、手を前に構え何かをブツブツと呟き始めた。何が起こるのかと俺たちも剣を構えてそれを待っていた。
するとフィンは手を広げて呟きをやめ、俺の剣をジロジロ見るなり大声で叫び始めた。
「その剣だよ、俺を奮い立たせてくれるのは。俺が力を貰う。時は要らない、全ては俺のものだ」
フィンは豹変したように俺に飛びつき、俺の命ではなくその赤い石が付いた剣を奪おうと俺の体を引っ掻き始めた。呪文を使う訳でもなく、必死に剣を奪おうとしてくる。
この剣がそんなに大事なのか。俺にとっても大事な剣だが。ここまでこの剣に執着しているとなると、これを渡してしまってはダメな気がする。これを何に使うかは分からないが。
俺も抵抗して、左手で持っていた盾で必死にフィンを殴る。周りにいたメンバーも引き剥がそうとして剣でフィンの足を斬ろうとしたが、不思議なことに刃が通らない。まるで金属で出来ているのかという程に。
逆にサタナは何も言わずに棒立ちのまま。フィンに全てを振っているのか分からないが、それにしては違和感が……ダメだ、フィンに剣を奪われてしまう。
「力が全てだ、お前が持っていても使いこなせない。俺が持っておくべきものなのだ」
フィンは豹変し、遂には俺の腕に噛みつき始めた。飯も食っていない空腹の犬のように、俺の腕の肉を狙ってきた。
仲間の剣は通らないため、俺が必死に抵抗して剣を取られないよう奮闘するも、手を血だらけになるまで噛まれて、つい剣を手放してしまった。
フィンはその赤い石が付いた剣を高々と掲げ、叫びに叫んだ。
「遂に手に入れたぞ! これで世界を征服できる。これで願いが果たされる。全て破壊する、全て俺のものだ」
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