第42話 元メンバーだから

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 シータとジュリーの店と例の酒屋はそこまで離れていない。2つぐらい大通りを挟むから離れているように感じるが、いざ裏道を使ってみれば目と鼻の先にあるように感じた。


「シータ、ジュリー!」


 暗い店の中に入るも誰も居なかった。灯りをつけて中を探索しても客どころか店員すら居なかったため、もう既に避難したんだろうと思い、その場を後にした。


 酒屋に到着すると、そこには大勢の人が集まっていた。怪我人もいる。ハロス城からそこまで離れていないのにここに集まってしまってもいいのか。


 酒屋の主人は居なかったが、代わりに元何でも屋の主人が居た。


 彼は大切な商品である酒を、怪我を消毒するための消毒液として使用していた。いつも酒を飲んでいたから、酒は常備している。事情を聞いてみると酒屋の主人が怪我人をこの場所に避難させたらしい。店自体そこまで広くないのだが、倉庫や地下室を使って、色々な人の怪我を見て消毒しているとか。


 彼がそういう行動に出るとは思わなかった。というか彼は一般人だ、こういうのは医者か治安兵士に任せておけばいいのに。


 俺はランを探しつつも、酒屋の主人を探した。ホークとタイガには店の外にいる怪我人を中に案内させたり、歩けなくなっている人の避難を手伝うようお願いした。店の近くにある彼の家を訪れると、中にはランと彼の妻が居た。


「パパ……」とランは不安そうな顔をしている。無理もない、ここから見えるはずのハロス城が壊れ崩れているのだから。爆発音が鳴り止まないのもある。ぶっちゃけここは危険だ、より遠くに逃げるべ----


「子供は俺たちが預かっておく。信じろ、怪我を負わせたりなんてことはしない」


 酒屋の主人が奥から出てきて、そう俺に言い放った。彼も怪我をしているようで足から血を流していたが、器用に1人で包帯を巻いていた。


「ガルの声はここまで聞こえた。何をしたのかも聞いた。これだけは言っとく、話してこい。ケリをつけろ。あいつらは今、あいつらじゃない。とにかく、子供は預かっておく」


 確かにそうだな、ランをより遠くに逃がすことを優先すべきなのだが、デリーシャに接触できるのも俺しかいない。それ以外はまた別の話だ。デリーシャの元メンバーである俺が、ケリをつけるべきなんだ。彼らが何をしたいのか、俺が理解するべきだ。


「ラン、ここは安全だから大丈夫。パパはちょっと出かけてくる」


「……パパ頑張って」


「……大丈夫」


 酒屋の主人に礼を言い、その場を後にした。


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 大通りに出ると、ホークとタイガの他に2人の男が居た。近寄ると誰かすぐに分かった、シータとジュリーだ。肌の色でも分かったのだが。話を聞くに、彼らは避難するため客を逃がして外に出て、少し歩いたところでタイガ達と合流したとか。


「どうなってんだよ、デリーシャが世界に宣戦布告って意味分かんねぇよ。お前なら分かるよな、元メンバーだから……」


 分かる訳がない。6年くらい前に現れたバジリスクだとか、上級モンスターの中でも上級の、人間に恨みを持っている奴らにしか発想できないだろう。世界を滅ぼそうとしているのは感じ取れる。


 それに何度も言うが、彼らは姿が何も変わっていない。10年は経っているのだから、少しくらい変わっててもいいはずなのに。


「で、どうするんだ。デリーシャの奴らが何を考えているのか俺らには分からない。お前も分からないかもしれないが」


 だから何も分からないって。これ以上犯人扱いされても……何も出てこない。


 と、ここで何者かが俺たちの元に駆け寄ってきた。着ている服を見るに、治安兵士のメンバーだろう。彼はタイガとホークに耳打ちで何かを伝えている。


「……分かった。近くの武器屋から拝借しよう……ゴブリンは、俺たちノーマッドが片付ける」


 久々にタイガの口からノーマッドという言葉が出た。何を話しているかは分からなかったが、ホークはその治安兵士のメンバーがどこかへ走り去っていったに、俺たちにも内容を教えてくれた。


「デリーシャのメンバーがハロス城前に居る。その周辺にはゴブリンが大量にいるらしい。怪我人や死体は見当たらないため、警戒しつつも周りを固めている」


 話を聞いていて、俺はすぐに疑問に思ったことがある。城の前は瓦礫だらけで、その瓦礫に巻き込まれた人も多かったはず。実際、ホークもタイガも俺も目の前で見たから。死体も怪我人も居ない……そんなの有り得るのか。誰かが運んでくれたのか……?


「そう。周りにゴブリンが彷徨いているのも考慮して、明らかに人間だけの犯行じゃない。普通の人間では起こし得ない事件だ」


 となると、またモンスターが関与しているのか。デリーシャの名前を騙って、シティストを襲った。絶対に許されないぞ、誰かは知らんがモンスターめ。


「俺とホークは一旦治安兵士としてではなく、ノーマッドとして活動する。これからハロス城周辺を彷徨っているゴブリン共を討伐する。ユーゴは居ないが、ノーマッドの復活だ」


 タイガとホークが治安兵士に入隊したのを機に、ノーマッドとしての活動は少なくなっていった。残されたユーゴ・俺・ジュリー・シータで活動していたが、2人は店を開いて忙しくなった。同時期にユーゴも訓練所のコーチとなって、モンスターを討伐し続けたのはあの中で俺だけになってしまった。


 そのノーマッドが、デリーシャの復活日と時を同じくして……復活した。ユーゴは居ないが。


「近くの武器屋から拝借しよう。念の為、対人間用の剣も持っておいて……盾も必要だろ、マイトにとっては。本物のデリーシャじゃないにしても」


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