第41話 世界に宣戦布告
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♢ MORE THAN 10 YEARS AGO(数十年前)
寄せ集められたメンバーで討伐パーティーを組み、訓練所に通いつつもモンスターを討伐していった。これはゴブリンの長を討伐し、パーティーにデリーシャという名が付けられた日のこと。
「僕ら以外の誰かが、パーティーに名前を付けてくれた。名前はデリーシャ、由来は……よく分からない。でも、ありがたい」
柔らかい口調をしたフィンが、俺たちのパーティーのことをデリーシャと呼称した新聞を何度も読み返しつつそう発言した。
「もっといい名前があっただろ。それに名前なんてどうだっていい」とガルは否定的な意見を持っていたが、フィンだけはデリーシャという名前に惹かれた様子を見せながらも、ずっと喜んでいた。
「名前は付いていることが大事だ。それに……いい名前だ、僕のお爺も喜ぶ」
そういえば、フィンは錬金術師の末裔なんて話を聞いたな。それは本当の話だろうか……と急に疑問に思い、彼に尋ねてみた。
「フィンの祖先が錬金術師って……本当か?」
「突然どうしたのさ。僕もその時を生きていた訳じゃないから知らない。でも何となく聞いたことはある。祖先は錬金術師で、世界を代々救ってき----」
「関係ない話はしないで、これから作戦会議なんだから。明日の討伐目標は危険よ。錬金術なんて有り得ない話はしないで、明日のことだけ考えて」
フィンと俺の会話を遮るように、サタナが口を挟んだ。そうだ、今日集まったのは討伐の喜びを噛み締めるためじゃない。明日討伐予定のモンスターについて話し合うためだった。
「そう、錬金術なんて存在しない。マイトは昔から純粋な子だ、もうその話は忘れよう」
昔からの幼馴染であるソールが、過去を懐かしむようにしつつ俺にそう告げた。俺も俺で、そう言われてしまったら仕方がない。錬金術なんて物は普通存在しない。魔法とかそういった類で、噂から生まれてしまった物だろう。
「そうだ、忘れろ」
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♢PRESENT DAY(現在)
「助けてくれ……」
「子供が中にいるんだ……」
「目が赤くて……見えないの」
入り口は城の瓦礫によって塞がれていたため裏口からレストランの外に出ると、ハロス城の近くにいた人は皆赤く染まっていた。
割れたガラスの破片を浴びた者や、ハロス城の爆発に巻き込まれた者、その爆発によって半壊したハロス城の残骸によって怪我を負った者達が、辺りを埋めつくしていた。
「世界に宣戦布告をする。私たちは、シティストに暮らす民を殲滅させる」
彼らがどこにいるかすらよく分からないが、それでもガルの声は鮮明に聞こえる。大通りに出て半壊したハロス城の方を見ても、怪我人に溢れているせいで彼らの姿は見えない。それに遠くの方からも何回か爆発音が聞こえる。遠くでも被害にあっているとなると……ポリスタットも安全じゃない。
これは本当に彼らなのか。いやそんなことは有り得ない。昔の彼らと姿が全く変わっていないのに、目的は変わっている。世界に宣戦布告するとか意味が分からない。昔はそんなこと言わずに、ただモンスターを討伐することだけを考えていた。
今の彼らは違う。世界を滅ぼそうとしている奴の行動だ。目的の意図も分からない。同じ人間としても分からない。もう何も分からずに、俺はその場で立ち止まってしまった。逃げ惑う群衆に押し潰されてもなお、その場に留まろうとした。
しかしそれは、無理やりタイガ達に止められた。
「ジェスは君の死を望まない。ともかくここから逃げよう。ついていくから」
立ち止まっていた内に、ホークも俺の元に来てくれたようだ。彼も俺のことを心配してくれたようで、ついていくとまで言ってくれた。彼は目を怪我しているのか分からないが、右目に黒い眼帯を付けていた。
正直……自分自身、混乱していてよく分からないんだ。
いきなり姿が変わっていないデリーシャのメンバーが現れたと思ったら、突如世界に宣戦布告。更にハロス城を爆破させ、遠くから今でも爆発音が鳴り響いている。
一体、彼らの目的は何なんだ……。
「デリーシャの元メンバーとして、マイト・ラスターは奴らに狙われるだろう。俺とホークで彼を他の都市に送り届ける。避難誘導はお願いする」
タイガは剣を持っていた別の治安兵士メンバーにそう告げた後、俺と共にランの所へ行くことになった。俺には守るべき者がいる。村もノーマッドもポリスタットもシティストも、モンスターから守らなきゃいけないが、父親として家庭を守る義務がある。だからまずはランを助けに行こう。
「決まりだ、裏道を使う。なるべく早く迎えに行こう。走れば間に合----」
ドンッ……!!
ホークの話を遮るようにして、さっきまで居たレストランが爆発した。俺たちは外にいたため無事だったが、怪我人は皆その瓦礫に巻き込まれていった。助けようとして近づいたが、また爆発が起こるかもしれないと2人に止められた。
とにかくレストラン近くの裏道は使えなくなったため、瓦礫が少ない別の裏道を通ってランのいる酒屋へ向かった。
俺は箱に入った剣を背負っているため重かったが、治安兵士に属している彼らも上着の中に色んな武器を忍ばせているらしく、走る度にチャラチャラと音が鳴る。
「ここを右に行けば大通りに出る、人が少なかったら使おう。いや、デリーシャに見つかっては危険だから裏道で行くべきか。後もうひとつ、ジュリーとシータの店にも寄ろう。彼らも助けなきゃ」
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