第3章『復活』

第38話 デリーシャ、復活

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 ティナと結婚してから、6年が経った。


 俺もティナも変わらず、元気に暮らしている。周りもあまり変わっていない。強いて言うなら、ウェール村がゆっくりと栄え始めてきたことくらい。住民が増え、家も多く建てられた。


 今ではポリスタットの中で1番栄えて……それは嘘か。ポリスタットで1番貧しかったウェール村が、今では上から5番目に入るくらいに栄えている。それは本当に良いことだ。


 村長も足腰を悪くして、今は杖をついているが、それでも何とか畑仕事を手伝おうと頑張っている。昔は元気でも畑仕事を手伝わずにどこかへ行っていたのと比べると、大分優しく丸まってきた……とティナが言っていた。俺の意見じゃない。


 結婚してからの6年間、特に何もなく暮らした。


 ウェール村を支える者として、率先して畑を耕したり家屋を直したり。討伐者として、上級モンスターを討伐したり。一部を除いて、特に変わったことは無かった。


 周りでも事件は起こっていない。

 バベル城にバジリスクが出現して、俺たちが討伐してから……特に何も起こっていない。有難いことに、平和に暮らすことができた。


 ノーマッドのメンバーと、最近は交流していないが、どうやら彼らは各々の道に進んだようだった。


 そもそも、最近モンスターが出没することが少なくなってきた。討伐パーティーが増えすぎたからだ。討伐パーティーが増え、討伐される側のモンスターが討伐されすぎて減ってきた。だからノーマッドは活動を休止し、若手に席を譲った。理由は他にもあるが、それはまだ言いたくない。


 タイガとホークは結局、治安兵士に入隊した。最初は勧誘を断っていたものの、改めて考え直してみると「俺たちに合っている組織」と言って、2人だけで入ることになったとか。


 ジュリーとシータは店を始めたらしい。飲食店で、俺も何回かそこに訪れた。味は悪くなかったが、2人とも豪快に料理を作るため、厨房の奥から耳障りな音が聞こえてくる。


 ユーゴは自身の技術を活かして、訓練所のコーチとなった。先生ではないが、討伐者を目指す若者に技を引き継いでいる。


 決して、ノーマッドの仲が引き裂かれた訳じゃない。お互い、進みたい道を進んだだけ。連絡を取り合うこともあれば、ジュリーとシータの店に集まって話し合うこともある。治安兵士に入ったタイガとホークは遠くの地で忙しいため中々会えないが。


 まぁ、働く環境が違うくらいで、6年であまり変わったことは無----


「言ったでしょ、ジュースは1日1杯までって!」


 ティナの、誰かを叱る声が家中に響いた。

 もちろん、俺が言われている訳じゃない。


「ラン、話聞いて」


 そう、娘が生まれた。

 名前はラン、ティナと俺で名付けた。活発な子で、いつもティナに叱られている。4歳で親に反抗したい気持ちがあるんだろう。それか単純にワガママなだけか。


「パパはどうして髪がピンクなの?」


「昔から……だよ。ママの言う事は聞こうね」


 髪の色はあれから変えないようにしている。シャリアに入るため髪を桃色にしたのだが、シャリアやノーマッドでお世話になったのもあってそのままにしている。色が薄くなっていくため、少しずつ桃色を足して足してって。


 まぁ、何かと平和な生活を送ることができている。


 娘に「パパ」と初めて呼ばれた時は嬉しかった。3年以上前になるが、俺が久しぶりにノーマッドとして活動して帰ってきた夜のこと。いつもはティナのことを「ママ」か村長のことを「じじ」と呼んでいたが、その日は俺の顔を見るなり「パーパ」と腕をバタバタさせながら言っていた。


 懐かしい、その時はふいに涙がこぼれたな。


 他にもランが初めて歩いた時、これもノーマッドとして活動し帰ってきた時のこと。朝出る時は伝い歩きをしていたランが、帰ってきた時には既に立っていて、驚いた俺の顔を見るなりニコッと笑っていた。


 思い返すとキリがない。

 他にもランと初めては----


 コンコン……


 誰かが家の扉を叩いていた。軽く返事をして扉を開けると、新聞の配達員が立っている。


「号外です、マイトさん」


 そう、栄えたウェール村にも新聞が流通するようになった。ポリスタットに寄らないと手に入らなかった新聞が、今は届けてくれるようにまでなった。


 また軽く返事をして部屋に戻り、その新聞を読み進めた。大体の新聞は朝早くに届くのだが、今は昼過ぎ。号外というからには、何か特別なことが発生したのだろう。


 最近号外として報じられたのは、シティスト付近の森での謎の崩落事故。謎の爆発が起きたみたいで、巻き込まれた人こそいなかったものの、原因が未だに解明されていない。


 今回は、新聞の一面にドンッ……とある見出しが大きく書かれていた。




『デリーシャ、復活』




 最初、目が点になった。よく理解ができない。デリーシャは俺のことを追放してから、特に音沙汰もなかった。俺をクビにしてから新聞に書かれなくなり、彼らが討伐しないためにモンスターも溢れかえった。


 追放された理由は、未だに知らない。

村長に尋ねても「ランを育てることにだけ集中しろ」や「いずれ分かる」とだけしか返されない。


 村長からすればランは曾孫だ。俺ももちろん大切に育てるが、追放された理由を教えてくれないのは何故だろうか。ずっと先延ばしにされている気がする。


 本文を読み進めてみると、新たな情報を得ることができた。


『明後日の午後より、デリーシャ復活。シティスト中心部のハロス城前で、ある発表を行うとのこと。詳細は不明で、シティ----』


『----また、デリーシャから追放されたマイト・ラスターは参加せず、4人だけでの活動を発表----』


 明後日の午後、シティストの中心部の城の前で発表する。そのことをもちろん俺は知らない。知らされていない、追放された立場なのだから。


 ひとまず、彼らが無事なことをほっとした。


 俺が追放されてから彼らと一度も連絡を取っていない。クビにされたと思ったら、急に彼らも消えたからだ。だから俺が仲間外れにされようとも、彼らが無事なことに安堵した。


 しかし、今更何をするつもりだろう。どうして活動を休止していたのか、それについての説明か。


 また、4人で活動ということに対して少し複雑な思いを抱きつつある。俺が必要なかったから追放した、そこまでは分かる。それで彼らは何か結果を残したか。何もせずにそのまま居なくなったと思えば、8年くらいして急に復活。説明不足だ。


 新聞を村長に見せると、彼は何故か青ざめ新聞をぐちゃぐちゃに握り潰した。


「有り得ない、これは間違いか何かだ。あいつらが復活する訳が……」


「お義父さん、俺が追放された真の理由を……今教えてください」


 彼はいつまで経っても、俺に理由を教えない。ならば俺から、無理やりでも引き出させるしかない。彼の反応から察するに、明らかにデリーシャと関係はある。彼の震えた肩を押さえつつ、彼の泳ぐ目を顔で塞ぐようにそう言った。


「出かける、お前は明後日行け。やるべき事をやれ」


 彼は何の説明もせずに、鞄を持って村の外に出かけて行った。


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