第39話 俺が追放された後
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「ごめん、シティストに行かなきゃ。ランのことはお願い」
「いいけど……たまには外に連れて行ったら? ランもシティストにあまり行ったことないでしょ?」
「うん! 行きたい!」
デリーシャが復活するため、俺は色々とあってシティストに行かなきゃならないのだが、ランはどうしてもシティストに行きたいらしい。駄々をこねるランをなだめるように、ティナはランを連れて行くようにと提案をした。
確かにそれもありだ。ランはウェール村とポリスタット位しか行ったことがない。まだ赤ん坊だった頃、シティストにいたジュリーとシータに彼女を見せた程度で、物心ついてからはまだ無い。
「ティナは行かないのか」
「私は……ほら、気候変動の影響とかあるからさ。2人だけで楽しんできてよ」
ここ最近、セントリー全体が謎の気候変動によって苦しめられている。雨が1週間も降り続いたり、雷が鳴り止まなかったりと。それで彼女はウェール村を守るために残るとか。そんな大げさな……とは思ったが、村長がどこかへ行ったため責任者として残るらしい。
実は以前も、セントリーは気候変動に苦しめられた。それは俺がデリーシャから追放された時、およそ8年くらい前。その時も雷が鳴り止まなかったりして、山に大変な被害を与えた。夜になっても止まらず、太陽がなくとも辺りは明るかった。
俺が追放されて少し経った時、それらは全て収まった。結局原因も解明されないまま。
「分かった。楽しんで来るよ」
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当日、俺はある大きな荷物を持ったままシティストに向かった。ランも久しぶりのお出かけなため、とても楽しそうにスキップしながら歩いたりしていた。
俺が持っている荷物というのは……剣だ。結婚式の夜に村長から頂いた、かつデリーシャ時代から使っていたあの剣だ。何故持ち歩いているのかというと、その剣が入れられていた箱にある手紙が置かれていたからだ。
剣の箱のそばに、村長の字でこう書いてあった。
『俺は教会にいる。事が済んだのなら、剣を持って教会に向かえ』と。
どこの教会かも丁寧に記されていた。
それはシティストの中心部にあるハロス城から少し離れた場所に位置する、シュタイン堂。平地の上にあり、近くに家などはない。もちろん俺は行ったことも見たこともない。ティナに聞いたが、彼女も知らないとのこと。
そのデリーシャ復活の日の前に行こうかと考えたが、「事が済んだら」と書いてあるため、それらが終わった夜に向かうことにした。
「パパ、なんで大きいお箱持ってるのー?」
「それは、みんなを助けるためだよ」
シティストとポリスタットを繋ぐ車に揺られつつも、俺はずっと村長の発していた言葉について考えていた。
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シティストには早めに着いた、車に使用されるモンスターが変わっていたからだ。俺も知らないような、どこに生息しているかも不明な、それでも足は速いモンスターに。
それで少し腹が減っていたから、ランと昼食をとることに決めた。久々のシティストだし……ということで、昼間はただのレストランとして営業している酒場に向かった。
「お! 大きくなったな」
いつもの酒場の店主がランを抱きかかえて笑いながらそう言った。”元何でも屋の店主”だっている、今はただの従業員だが。
「お前もだ、すっかりパパらしい顔つきになったな」
6年の間に、彼にも子供が生まれたらしい。既婚者なのは知っていたが。彼の子供は2歳とかで、絶賛反抗期。顔からは既に疲れ切っているのが伺える。
「それで、デリーシャの”アレ”だろ? 俺は仕事で行けねぇが、何があったかは教えてくれ。俺だってあの日からお前以外のメンバーと誰とも会っていない。倉庫だってあの日のままだ」
あぁ、そうか。デリーシャ時代、パーティーの拠点として彼の店の倉庫を借りていた。討伐したお金で目立つ場所に拠点として部屋を借りようともしたが、将来のことを見据えたサタナがそれを止めた。
俺が追放されたあの日から、彼のところにも連絡がいってないみたいだ。だから倉庫もあの日のまま……という訳か。
「そりゃ片付けようとはした、俺だって倉庫を使いたいからな。置き場にだって困っていたが、あの後ガルが----」
あの後? 俺が追放されたその日から、他のメンバーとは会っていないんじゃなかったのか? あの後……俺が追放された後、何かあっ----
「待て。もう時間だ、話はデリーシャの件が済んでからだ。子供、連れて行くか? 少しの時間なら、面倒はうちで見る」
彼は俺の発しようとした言葉を遮るようにして、話を進めた。
彼の厚意に甘えて、ランを彼の家に預けることにした。彼の妻がランの様子を見てくれるようで、彼の息子と一緒に遊ばせていた。彼の妻もまた遠い国出身の人らしく、変わった名前をしていた。
職場の近くに家があるのはいいな……と少し羨ましくも思った。いつも、家族の元にいることができるから。
同じ村の子供としか遊んだ経験のないランにとっては未知の体験だろうが、それもまた”アリ”だろう。ハロス城に連れて行こうと思っていたが、何せ人が多すぎる。ランを見失ってしまっては……連れて行けないな。
「じゃあ、頑張れよ。子守りは任せておけ、俺じゃなくスーの仕事だけどな。ケリはつけてこい。話せるならな」
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