特別編 黒いローブを着た男
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俺はどうしても気になることがあり、思い切ってシティスト郊外の教会を訪れた。そこは俺が黒いローブを着た男から「村を立て直してほしい」と依頼された場所である。追放されたばかりで仕事が無い頃に、何でも屋に仕事を紹介されたんだっけ。
二度と行くことは無いと思っていたが、ティナと出会うキッカケになった場所だ……と思い、彼女や村長には内緒で1人でその教会を訪れた。
結婚式の次の日、夫婦で共同作業をするべきなんだろうが、あいにくモンスターの討伐依頼が入ってしまった。それでノーマッドの何人かとモンスターを討伐し、その帰り道。今いるメンバーは、ホークと俺とジュリーの3人だけ。
「それで、お前は休めばよかったのになぁ。結婚式の次の日から臭い仕事だぜ。休で暇な俺たちに任せろよ」
こうやってジュリーが陽気に俺と話してくれる。良い仲間を持ったものだ。それはそうと、彼らは詳しい事情を知らない。本名は知っているが、マイトとは呼んでくれない。未だに”お前”としか。
ここでウェール村を立て直せと依頼を受けたとか、黒いローブを着た男に出会ったとか、そういうのはまだ誰にも言っていない。
「んで、何でこんな所に来てんだ。俺もガールフレンド待たせてんだけど」
俺が探し物をしていると伝えても、彼は教会の外で古い壁にもたれたままずっと文句を垂れ流している。これを言い合える仲になったのはいいことだが、もっとホークのように熱心に取り組んでいてほしい。
と、ここで俺は教会の奥にある倉庫の中で、ビリビリに破れた黒いローブを見つけた。これは彼、謎の男が着ていた物だろうか。虫に食われているせいでただの黒い布にしか見えない一方で、フードはかろうじて残っていたため、尚更彼の物では無いかと----
「おい、やべぇって!」
ちょうど考え込んでいる時に、外からジュリーの叫び声が聞こえた。何だろうと思い、黒い布を持ったまま外に出てみると、目の前には骨を手に持ったホークが震えながらも立っていた。
「それは?」
「埋まっていた、骨が。何だよ……」
ホークも何の骨か分かっていない様子。そりゃ驚く、人間の骨だったら怖くてしょうがない。だがここで俺はあることを思い出した。俺は教会の外でゴブリンを討伐した後、死体を土の中に埋めたんだよな。
「それは多分ゴブリンの骨だ、俺が以前ここに訪れた時に埋めた」
こう説明しても、彼らはまだ何かに怯えていた。安心するよう説得するも、首を横に振っている。何かと思い近づくと、足元にはまた別の骨が落ちていた。それを手に取ってみても……特に違いは分からない。多分これもゴブリンの骨なんだろう。
「じゃあ……俺の足元に転がってんのは何だよ、この頭蓋骨は……ゴブリンの物か?」
ジュリーの声が明らかに震えている。骨を地面に置いてから振り返って彼の足元を見てみると、そこには明らかに人間の物と思われる頭蓋骨が落ちていた。ゴブリンは顔が横長だから、こんな形をしていない。これは間違いなく……人間のだ。
「違ぇんだよ……骨が2つあるんだよ」
ジュリーは足元に置いてあった頭蓋骨をどかし、2つ目の頭蓋骨をそれの前に置いた。ジュリーの足元には人間の物と思われる頭蓋骨が2つ。これには俺も耐えられない。
俺は黒い布を捨てて、その場から逃げ出した。これを見たホークとジュリーも続いて逃げる。流石にモンスターの死体には慣れていても、人間の死体には慣れていない。
俺は後ろを振り向かないようにしながら、ずっと前だけを見て走っていた。ジュリーやホークが追いついているかどうかも確認せずに。
「はぁ……走るなら言えよ。体力は無限じゃねぇんだからよ」
「それにしてもあの場所に骨があるなんて、何か怪しい」
ホークとジュリーは何とか俺に追いついていたもののヘトヘトで、立つこともできなくなっていた。そんな中でもホークは1人で、さっきの骨についてを考察している。もうその話題には触れたくないのに。
「悪い、怖くなってきた」
「悪いで済んだら世の中平和だ! ったく、ガールフレンドとの約束に間に合わないじゃん」
流石のジュリーもご立腹の様子。彼は現在、赤い髪をしていて身も細い、目つきも悪いからよく悪者と勘違いされるらしい。
ノーマッドのメンバーと公表しているのにも関わらず、都市の中心部に行くとその目つきから役人に取り押さえられるとか。身は細いが力はあるから頼りになる。
ホークは黒髪で今はメガネをしている。力は抑えめになってきたが、逆に推理力が上がっている。ジェスも周りをよく見る性格をしていたから、2人は気があっただろう。俺は詳しくは知らないが、何でも考えるより先に突き進もうとするタイガと一時期仲が悪かったとか何とか。
「今度何か奢るから、日が落ちないうちに帰ろう」
「まぁいいけどお前、言葉には責任持てよな」
何度も言うが、こんなしょうもない言い合いができるようになったのも、色々とあったお陰だ。シャリアに入りたい俺は、何故か勘違いされて彼らに殴られて。俺がデリーシャの元メンバーと知った時にはまた彼らに殴られて。それでも着々と仲は深めることができた。
デリーシャではそういう関係は築けなかった。何せただモンスターを討伐するだけの集まりだから。リーダーのガルやサタナが真面目な人間で、討伐する時や会議の時以外は基本集まろうともしない。
だから幼馴染のソール以外とはあまり仲が良くなかった。もちろん討伐に支障が出ないように頑張っていたし、他のメンバーに合わせて行動していた。それでも……まぁ、過去のことはもう考えなくていい。
俺はティナと結婚したんだ。これからは家族の一員として、ティナを守っていく。言い方は変だが、彼女を保護する立場となるんだ。
これからも頑張ろう、俺。ノーマッドも頑張るし、ウェール村の手伝いも頑張る。余裕ができたら、色んなことをしよう。
「おかえり、マイト。パーティー活動お疲れ様、ご飯はもう作ったけど、ゆっくり休む? ……それとも?」
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