第37話 世界を救え
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結婚式は比較的簡素に行われた。
晴れていたため、草原の上でティナと永遠の愛を誓い、天に向かってお祈りした。その後は用意された食べ物を皆で囲みながら食べ、一通り終わらせた。結局、3時間くらいで終わったのかな。早く終わりすぎて不安にもなったが、参加者は皆楽しんでくれたようで……よかった。
一生に一度の式だが、思い出には残るだろう。
俺もティナも楽しめたことだし。
「おい、奥さんを幸せにしろよ。いつでもシティストに来い」
酒屋の店主は俺の耳元でそう囁いた。ティナがいると教えてくれたのは、何でも屋の店主。それを聞いたのは、酒屋の中。必然性のある運命だった。彼らには感謝しなければ、いつでも飲みに行こう。礼を言い、彼らを帰した。
「マイト、俺たちはパーティーを続ける。お前は村に残るとは思うが、いつでも遊びに来てくれ」
タイガはメンバーを代表して、そう俺に伝えてくれた。彼らは治安兵士に入らずに、ポリスタットで討伐パーティーを続けていくとのこと。
俺には守る者が増えたから、モンスターを討伐するといった危険な仕事は辞めよう……と考えていたが、それはティナに止められた。「モンスターを討伐するのがマイトの仕事」と言われたな。
考え直した結果、ノーマッドの方にも行くことにした。常にいる訳じゃなく、行ける時にはノーマッドに行くことに。そのことを伝えると、彼らは快く承諾してくれた。
「いつでも来い、6人で待っているから」
そう言って、彼らは帰っていった。
いい仲間を持ったな、俺は。改めて実感したよ。
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「マイトって呼んだ方がいい? ”さん”をつけた方がいい? それとも、”あなた”?」
「どちらでも、好きな方で呼んだらいい」
日は沈み、辺りが暗くなった。その時はティナと他愛のない会話をしつつも、ウェール村の住民と共に式の後片付けをしていた。
今日から2人は夫婦になる。そこまで実感は湧かない。いつも通り2人で生活すればいいだけ。それでも夫婦になった訳だから、あんなことやこんなことをするのだろう。
これからが楽しみだな。
「おい、ちょっとこっちに来い」
ティナと話している最中に、いきなり村長に呼ばれた。結婚式の最中は他の人と話すのに忙しく、村長と話せていない。彼はこのウェール村の村長でもあり、ティナの祖父。親のいないティナにとっては、父親のような存在だ。
一旦彼女との会話を中断し、彼の元に向かった。彼は唯一改築されなかったボロボロの家の中に入っていった。
一戸だけ、ウェール村で唯一、この目の前に建っている家だけが改築されなかったのだ。他は全て新しくしたのに、彼は頑なにこの家の改装や改築を認めなかった。何か思い出があるんだろう。
何も人の手が加えられていないため、床には草が生い茂り、窓ガラスは白い粉と化していた。屋根はあるものの、雨水は防げそうにない。
辛うじて机は使えそうだ。脚が曲がっており、少し触るだけでガタガタと揺れるが、物を置く分には使えそう。
「まずは結婚おめでとう、ティナを幸せにしてくれ」
頑固な村長から「おめでとう」とか、そのような祝福の言葉が出るとは思ってもいなかった。驚いたまま固まっている俺を見て、彼は頷きながらも、過去を思い返していた。
「ティナの両親は事故で死んだ。私はティナの親にはなれなかった。お前もなれない。でも夫にはなれる。お前が幸せにしていけ。お前も幸せになれ」
彼はいつもとは違った、柔らかい表情で俺のことを励まし続けた。ティナの両親は事故で亡くなった……というのはティナ本人から聞いたことがある。それでも彼から聞くのは初めてだな、多分。
「ティナの両親の形見だ、それをティナではなく……お前に渡す。見たことある物だとは思うが、改めてだ」
彼は長い箱を取り出し、机の上に置いた。箱が重そうで、置く時にガンッ……と鈍い音が家に響いた。見たことがある物……肩から手まで伸ばした長さと同じくらいの箱。長めで重いもので……見たことがある物か、よく分からないな。
箱を開けると、そこには……俺がデリーシャ時代から使っていた剣が入っていた。剣の形を見ただけで自分の物だと分かる。グリップ部分には自分の手の跡が残っており、ガードという部分には赤い宝石が入っている。
「剣を、誰から貰ったか覚えているか?」
確か、デリーシャに入ったばかりの頃、リーダーであるガルから貰った。「これはマイトに向いている」とか何とかで。これがティナの両親と関係があるのか。
「そうだ、こんな物騒な物……ティナには持たせるな。お前が持って、世界を救え」
世界を救え? 何を言い出したのかと思いきや、世界を救う……俺がか。ただの剣1本だ、不思議な剣ではあるが、たかが剣1本。これでどうやって世界を救えばいいのか。
ハロークを討伐した時、この剣は不思議な挙動をしていた。ハロークの首から、自ら抜けて俺の元に落ちた。ハローク自体の挙動もおかしかった。討伐者である俺を助けるように、腕を伸ばした。その後、枯れるようにして死んでいった。
つまり、この剣に----
「俺は老いぼれだ、今更世界は救えない。意志もなければ力もない。時間も残されていない。だからお前に託す」
彼はそれを俺に伝えると、どこかへ去っていった。俺も彼に聞きたいことがあったが、呼び止める気にはならなかった。不思議な気分だ。
俺は机の上に置かれてあった自分の剣を箱から取り出し、赤い宝石を触りながら力を実感していた。
俺が世界を救わなきゃいけない……らしい。何で、俺が。俺以外にも世界を救える人達は沢山いる。討伐パーティーだって何十組も存在するし、治安兵士だって存在する。
よく分からないまま、また剣を箱の中に収めた。
後で聞いた情報によると、一戸だけ残されたボロボロの家は、ティナの両親が暮らしていた家らしい。ティナの両親の働き先は同じで、ほぼそこで寝泊まりしていたから、帰ってくることはほとんどなかった。
ティナの両親と、デリーシャと、俺の剣に深い関わりがある。いつかそれも解明しなきゃいけないな。
「マイト、私の家に来て」
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