第36話 結婚式の日
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バジリスクを討伐し、村人が増えて少し落ち着いてきた所で、俺とティナの結婚式を挙げることになった。
会場は豪華にポリスタットの中心部の……ではなく、後々のことを考えた結果、ウェール村内で行うことにした。一生に一度の大切な行事だが、その方が費用も安く済む。今後の生活に回した方が良い……ということに、話し合って決まった。
それでも牧師は呼ぶ。会場は違えど、結婚式を挙げることに代わりはない。そうだよ、せっかくの結婚式だから色々な人を呼ぼう。簡素化されてはいるが、ある程度の食事はある。
まず、ノーマッドのメンバーは呼ぶ。それは当たり前だ。彼らには世話になったから。それに、ウェール村に来るキッカケになったのは、教会で出会った男。彼を呼ぶのは難しいだろうが、何でも屋の主人と、新聞屋の主人なら呼べるはずだ。
ウェール村に来てから、あれから1度も会っていない。デリーシャから追放された男として知っていたのは、あの2人だけ。とは言っても、ノーマッドのメンバーなのは知らない。
お世話になった人といったら、限りなく思いつく。訓練所時代の先生だって、連絡はつかないが呼べるのなら呼びたい。治安兵士のリーダーらしき女性ともまた話がしたい。治安兵士に入りたいとかではなく、単純に話がしたい。
治安兵士は性別や人種での差別を行わない組織とか言っていたな。ストーズ出身の女性でもリーダーになれる、治安兵士が羨ましい。
というか、ポリスタットやシティストが時代遅れなだけなのかもな。行ったことのないツェッペリンで、差別が行われていない……ツェッペリンが最先端なのかも。
ノーマッドのメンバーに「治安兵士はどうだ?」と勧めたが、彼らは「討伐パーティーとして、モンスターを倒したい」とだけ言っていた。治安兵士はその名の通り治安を守る部隊なため、モンスターを倒す仕事もあれば、人を捕らえる仕事もある。
純粋に討伐パーティーでも生きていける今、彼らはポリスタットに留まることを選んだ。
「ねぇ、マイトの両親は呼ばないの?」
ティナは首を傾げ、招待者の名前が書かれてあるリストを見ながらそう言った。
俺は両親を結婚式に呼ぶつもりはない。
色々とあって、縁を切られた。
それは俺が18の時、やりたい仕事もなく途方に暮れていた頃、幼馴染であるソールが俺を討伐パーティーに誘ってくれた。それがデリーシャ。俺が誘われる前から、デリーシャは4人で活動しており、既に好成績を収めていた。だから今更入って何になるんだ、と口に出した。
そうしたらメンバーのサタナが「君には不思議な力がある、デリーシャに入れば活かされる」と言ってきた。当時の俺は、その言葉が嬉しくて嬉しくて……軽い気持ちで討伐パーティーに入ろうと考えていた。実際はただの寄せ集めのグループで、俺を入れるための嘘だったみたいだが。
もちろん両親には「命を落とす仕事だ」と、猛反対された。それで話し合いの結果、家を出ていくことになった。4年間、ずっとデリーシャのために頑張っていたのに、理不尽に追放されてクビになった。
「そういえばさ、デリーシャの人達とまだ連絡取ってるの?」と、ティナにまた質問された。
デリーシャのメンバー全員、今どこにいるかも分からない。追放される前から、デリーシャは有名な討伐パーティーだったため、新聞の一面を飾っていた。しかし俺が追放されてすぐ、新聞から姿を消した。
俺が追放されたのと、何か因果関係はあるとは思うが……よく分からないのが現状だ。追放されてからもう少しで2年が経つが、未だによく分からない。
いや、村長が追放された真の理由を知っているとか言っていたが、最近それを尋ねても「結婚式を邪魔したくない」として教えてくれない。
まぁ、後でゆっくり聞くことにしよう。
「じゃあ、これでいいね。来月が楽しみ」
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それで、結婚式の日になった。
酒屋の店主と何でも屋の店主は、仲良く肩を組みながら訪れて来た。何でも屋の店主は店を閉めたため、今は酒屋で働いているとか。特別に店の酒を分けてもらった。
ティナの友人も訪れた。
何やら学校の友人らしい。ティナは久々に会った友人と楽しそうに話している。
もちろんのことながら、ノーマッドのメンバーも全員来た。黒いスーツを着て、姿勢を正している。ホークはジェスの好物だったリンゴを持参しており「お前も食べろ」と言うように投げてきた。最近はジェスの墓に行けていないから、メンバーに会うのが何だか懐かしく思える。リンゴをガブッとひとかじりし、あの日のことを思い出した。
いや、止めよう。今は大事な日。
治安兵士のリーダーらしき彼女は来れないものの、手紙を書いて送ってきてくれた。結婚を祝う内容と共に、コンテストを開催していた4人の実刑判決が下されたことを示す文も書いてあった。コンテスト参加者は罪に問われないとも書いてあった。
訓練所時代の先生も、デリーシャのメンバー、両親も、呼ぶことすらできなかった。訓練所の先生の息子がどうやら……あるモンスターに殺されたらしい。それで訓練所の仕事を辞め、山奥で誰にも干渉されずに暮らしているとか。
両親とデリーシャのメンバーに至っては、呼ぶ気すら起きなかった。一応は追放された身だ、彼らも俺の結婚式なんか行きたくないだろう。呼んで来た所で、合わせる顔がない。両親もだ。
仕方ない。
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