第32話 破壊だ、破壊

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「俺は牢獄を開けようとしたが、何をやっても無駄だった。焦りもあり戸惑っていると、兵士が牢獄を開けてくれた。その後、モンスター用の剣を貰った。何も言われなかったが」


 どうやら兵士に住民の避難誘導に回ってくれとお願いした後、その兵士たちは牢獄に捕らえられているジェスとホークを助けてくれたらしい。その上何の武器も持っていない2人に、対モンスター用の剣を渡して行ったとか。


 受けた恩を返してくれたのか。仇で返されるよりもずっと良い。仲間を助けてくれたことに感謝する。ありがたい。


 何がともあれ、仲間が増えた。

 作戦に使える人間の量が、4人から7人に増えたのだ。これなら、討伐できる。4人だけでは不安だったが、それか倍近く増えたのだ。今ならいける気がする。


「ジュリーとホークとシータで、奴の足を斬り落とせ。ジェスは彼らを助けろ。俺とタイガとユーゴでトドメを刺す」


 これなら、無防備な上級階級の方々も助けられる。日頃から討伐のための訓練を受けていたメンバーだ。ただの人が3人増えるよりも、圧倒的に戦力がプラスされる。


「バジリスクか、私たちも私たちの能力を完全に把握している訳じゃない。先程も瞬間的に空間を移動し、彼らをこの場に呼び覚ました。腕を刀に変形させる力も、訳が分からないまま扱っている」


 確かにさっき、バジリスクは一瞬で上級階級の方々を連れてきていた。瞬間的に消えたと思ったら、また瞬間的に目の前に現れ、手には彼らがいた。


 腕をナイフみたいな武器に変形させたのも、ムチのように靭やかに変形させたのも、ハンマーみたいな大きな武器に変形させたのも、理由も知らないまま使っていたのか。


 バジリスクはさっきから、意図が全く掴めない。どうして俺のことを襲っているのか。前から言っている「王」ってのは何だ? 訳も分からず、俺やポリスタットを襲っているとでも言うのか。本能とか、そんな抽象的な理由でか。


「私たちは説明されていない。王からも、何も。命令のみ。私たちは従うのみ。故、マイト・ラスターの命を奪う。『諸悪の根源を破壊、もしくは持ち帰れ』の通りに、マイト・ラスターを破壊する」


 マイト・ラスター……本当に俺の名前だ。バジリスクも王って奴も、どこで俺のことを知ったのか。それに、諸悪の根源って何だ。持ち帰る……命は助かるだろうが、おかしなことをされそうだ。


「私たちは、破壊する」


 奴がそう叫ぶと、また周りから大量のゴブリンが湧いた。地面から灰色の体が形成されていく。徐々に色がついていき、薄汚い緑色に体が染まっていく様を、俺たちは眺めることしかできなかった。


「破壊だ、破壊」


 また奴が叫ぶと、ゴブリンは俺たちのことを囲むようにして肩を組み合った。何十体もいるゴブリンだ、7人と上級階級の方々を円状に囲うこともできる。俺たちをここから逃がさないぞ、と示すようにガッシリと。


 バジリスクのすぐ近くには、足を斬るために待機しているジュリーとホークとシータがいる。バジリスクから少し離れた場所に、上級階級の方々を逃がすためにジェスがいる。で、バジリスクの目の前には俺とタイガとユーゴが待機している。


 これをゴブリンが円状に取り囲んでいる。どうにかジェスたちを逃がさないといけない。流石にモンスターを討伐する能力の無い人間を、このまま置いておく訳にはいかない。例えジェスとホークを無実の罪で投獄した奴らであっても、俺の中に潜む良心が許してくれない。


 もう考えるのはよそう、今は上級階級の彼らを助けて、バジリスクを倒す。それでいい、それだけを考える。


「行くぞ!」


 タイガの掛け声と共に、皆やるべき事を始めた。


 シータとホークとジュリーの3人で、一斉にバジリスクの懐に入り、膝を斬った。体勢を崩した巨大なバジリスクに向かって、すぐに俺とタイガでトドメを刺そうと跳んだ。ユーゴにはゴブリンを討伐するようお願いをしたから、2人だけでだ。


 攻撃されないようにと、シータとホークで更に腕も斬る。落とせなくてもいい、斬って一瞬でも隙を作る。ジュリーはその怪力で、バジリスクの心臓に向かって剣を突き刺した。流石の装甲で跳ね返されそうになっていたが、それも自慢の怪力で耐えていた。


 ここからは俺たちの番だ。


 持っている剣を、バジリスクの頭に刺す。俺の剣は目に、タイガの剣は耳に。これで少しは怯んでくれるだろう。


 それで俺は後ろに回り、後ろからその巨大な首を絞めた。オークくらいなら一発で落とせた。リザードでも時間をかければ落とせた。バジリスクでも、少し時間をかければ……いけるはずだ。


「やめろ……離せ」


 それを言うということは、効いているようだ。バジリスクの顔色も徐々に悪くなっていく。タイガも振り落とされないよう、必死に首にしがみつく。少しでも抵抗されようなら、近くにいるジュリーが怪力で支えてくれる。


 この間も、シータとホークが奴の腕や足に攻撃をし続けている。片方が腕を斬れば、もう片方が足を斬る。役割分担で、協力し合っている。非常に助かるし、強力だ。


「離した方が良い、君たちのためだ」


 奴らに攻撃が効いているようで、バジリスクはいつも以上に丁寧な口調になって、攻撃を止めるよう俺たちにお願いした。ここまで言われたら止める……訳がない。


 タイガとジュリーを交代させ、更に強く首を絞める。バジリスクは遂に何も発さなくなり、抵抗する腕も止めた。足もバタバタと動かさなくなっていた。


「これは倒せたのか?」とタイガが疑問に思っていた。確かに、口から白い液体は出ていないが、奴は抵抗を止めた。死に至ったのか、気絶したのか。首の脈を調べようにも、硬い装甲が邪魔して調べにくい。その装甲を無視して首を絞め切ることができた……今考えると凄いな。


「言ったはずだ、離した方が良い……と」


突如、奴の体は虹色に光り出した。


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