第31話 多い方が有利だろ
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「そこから動くな、化け物どもめ!」
背後の城に入る門の方から声が聞こえた。
振り向くと、そこにはたくさんの兵士が門を塞ぐように立っていた。剣と盾を持っているが、どれも対人間用だ。
「貴様らノーマッドか、ポリスタットを陥れた犯人は」
どうやら彼らは勘違いをしているようだ。悪意のある解釈をしているとでも言うべきか。
俺たちはバジリスクを倒すため、いや……紫色の光線を止めるためにここに来た。確かに騒ぎに乗じてホークとジェスを助けようとも考えたが、ポリスタットの平和を守りたいのは本当だ。これは普通のモンスターでも、普通の人間でも起こし得ない出来事だから。
「俺たちは敵じゃない」と示すように彼らに近づいたが、それすらもできなかった。
「動くな、次動けば……斬ることも刺すこともか----」
剣を向けていた兵士は突然、黙り込んだ。
どうしたのかと思いよく観察すると、その兵士はバジリスクの変形した腕によって、背中を斬られていた。兵士はバタンと前に倒れ、そのまま動かなかった。
バジリスクは腕を伸ばすこともできるのか。
現に今、腕をナイフのような鋭利な形に変形させ、それを更にムチみたいにしなやかに扱っていた。恐ろしい相手、これはどうすればいいんだ。後ろの門からは出れないし、前にはバジリスクが構えている。
「やめろ、来るな!」
バジリスクの変形させた腕は次々に、兵士たちを襲っていく。彼が持っているのは、人間を倒すために製造された剣だ。モンスターとは相性が悪く、彼らがどんなに抗おうとも、バジリスクには効果がない。
どうするべきかと迷っていると、タイガが動き出した。
タイガは対モンスター用の剣で、兵士たちに絡みつくバジリスクのムチを真っ二つに斬った。それどころか、兵士たちの心配をしている。
「お前ら早く立て! お前らには仕事があるだろ、とっとと住民を避難させろ」
「何故ノーマッドに我々を指図する権利があるのだ! 動くな、と聞こえなかったのか!」
彼らはタイガの頼みを断り、命を助けてもらったことを忘れたのか、またタイガに剣を向けた。
だが、そこに向かってバジリスクのムチも飛んでくる。ムチはタイガを狙わずに、無防備な1人の兵士を狙った。
ムチは器用に兵士に巻き付き、巻き取るように引っ張り始めた。
「あぁ、助けてくれよ!」
その言葉通りに動いたのは、タイガのみ。
他の兵士は突っ立っていることしかできなかったが、タイガのみが率先して兵士を助けようと動いた。
黙って見てられるか。
俺も乗じて、バジリスクの飛ばしたムチを斬り落とした。またバジリスクの目に向かって、自身の剣を思いっきりぶん投げた。ハロークの時と同じことが起こるのを願いつつ。
「バベル城周辺に人を集めろ、住民を安全に避難させる。ここの警備は必要ない、即刻外に回せ」
彼らは俺たちに礼を言わなかったが、住民の避難活動の方に回ることを宣言していた。そして彼らは俺たちには何も言わずに、門を開けてその場を去っていった。
まぁ、これでいい。
上級階級の人たちも助けたかったが、今は難しそうだ。今突撃しても、新たな犠牲者を生むだけ。やるべき事はただ一つ、合体したバジリスクを討伐する。
「あぁ、力が邪魔をする」
巨大なバジリスクは、俺が剣を目に投げてからずっと呻いていた。剣を刺しても効果が無かったのに、剣を投げると効果があるのか。投げた方が奥まで刺さる……とかか。
「力を欲する必要は無い、消す」
奴は目に刺さっていた剣を抜き、俺の足元に届くように放り投げた。あまり触れたくないのか、汚い物を摘むように奴に持たれた。
「最後のゴブリンだ!」と力強く叫ぶジュリーの声が空に響き渡った。兵士とのやり取りをしている間にも、彼らはゴブリンを討伐していた。最後の一体はシータの力強さに負け、ザックリと剣で倒された。
「お前の仲間、良い奴ばかりだな」
バジリスクは俺の仲間である、ノーマッドのメンバーを褒め始めた。急に何がしたいのか、良いメンバーであることには変わりないのだが。
「私たちは王の仲間でなく、側近。故に何も知らされず、何も知らない。力を奪った後何をするかも分からない。が、力は奪う」
巨大な奴は腕を鋭利な形状へと変化させ、立ち止まる俺たちを攻撃してきた。ムチのように靭やかに動く腕は、避けても避けても俺たちのことを器用に狙ってくる。
俺とタイガがその腕を斬り落としたとしても、バジリスクの不思議な力によって、また新たにニョキニョキ……と奇妙なことに生えてくる。何本斬っても、また何本と生える。
ここからは持久力が鍵になる。
バジリスクが腕を再生できなくなるのが先か、俺たちが疲れ果てて倒れるのが先か。
そういえば、体を再生させるモンスターって……他にいたよな。ティナと共に旅した時に現れた、リザードという上級モンスターだ。あいつも部位を斬っても斬っても、体を再生させていた。だから首を絞めて討伐したんだっけな。
なら、こいつもこれが弱点か?
しかし、巨大なバジリスクの首は太い。流石に1人では絞め切れない。それに首が高い位置にある。俺だけが跳んで首にしがみついたとしても、他の人が来れなきゃ意味がない。
まずは首の位置を低くするために、足を斬って一瞬でも体勢を低くさせよう。斬ってもすぐ再生するだろうから、斬った直後が肝心だ。
後、バジリスクの近くにいる上級階級の方々を助けなければ。彼らがホークとジェスを無実の罪で投獄した犯人だと思われる。それでも、見殺しにはできない。
「シータとジュリーは、奴の膝に剣を入れろ。俺とタイガで、奴にトドメを刺す」
メンバーに軽く作戦を伝え、俺たちは自分のいるべき立ち位置に向かった。シータとジュリーは上級階級の方々を守るように、彼らの近くから足を狙う。俺とタイガはトドメを刺すために、2人だけでバジリスクを取り囲む。
4人だけじゃ心細いが、俺たちなら倒せる。こいつらを、バジリスクを倒せる。
「本当に4人だけでいいのか、7人で行かないか?」
と、突然ホークの声が聞こえた。
ホークはジェスと共に牢獄に入れられていたはず。それをユーゴが助けに行ったが……と思って声のする方を向くと、そこにはホークとジェスとユーゴが剣を持って立っていた。
「多い方が有利だろ」
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