第30話 仲間を頼れ

----------


 2体が合体して、より巨大な1体へと変化したバジリスクは、話す言葉も流暢になっていた。さっきは俺の身長の4倍くらいの大きさだったのに対し、今は8倍くらいの大きさ。単純計算で、2倍になっている。


「私たちは何も知らない」って何をだ? というか何でバジリスクたちが、ポリスタットを襲っているんだ? 何の狙いがあって……まさかそれを知らないとか言い出すんじゃないだろうな。


「私たちは知らされていないが、まぁ……何とかなる」


 巨大なバジリスクはそう発すると、棒立ちのゴブリンたちに俺を襲うよう命令した。その瞬間、大量のゴブリンが俺に向かって突進してきた。何十体といる。流石にこの量を1人では無理だ。


 何とか逃げつつも、1体ずつ確実に倒していく。壁まで走った後、1番近くにいたゴブリンの頭を突き刺した。急いで剣を抜き、また構える。仲間のゴブリンが倒されたんだ……と指し示すように、ゴブリンの死体を蹴った。


 前も仲間のゴブリンが倒されたら逃げるような生物だったし、意外と人間と同じようなところもある……と思ったが、そう上手くはいかなかった。


 ゴブリンたちは臆することなく、突っ込んできた。流石にこれは倒せない……と思い、急いで死体から剣を抜き、奴らから距離をとった。


 これは……1人じゃ倒せない。




「1人じゃ倒せないなら、仲間を頼れ」




 いきなり背後から声がした。振り向くと、そこにはノーマッドのメンバーが立っていた。牢獄に捕まっているジェスとホーク以外の4人が、剣を持って構えていた。


 彼らは剣を持っているだけで、盾は持っていない。それに、いつも羽織っていたローブも、顔を隠すための仮面も色を隠すための手袋もしていない。


「俺たちはジェスとホークと、お前を助けに来た」


 ユーゴは傷の付いた自身の顔面を触れつつ、真剣な眼差しでそう言った。


「俺には作戦がある、ジュリーとシータはゴブリンの討伐を、ユーゴは単独でジェスとホークを救い出せ。俺とマイトで、でっけぇ奴を倒す」


 タイガも拳を握りしめ、そう言った。


 皆、来てくれていたのか。

 俺が作戦を話しておけばいいのに、つい独りで先走ってしまった。


「俺たちはチームだ、お前にはデリーシャっていうのもあるだろうが、チームには変わりない」


 タイガがそう言うと、皆自分の持ち場に走っていった。ユーゴは2人が捕らえられているであろう牢獄へ、ジュリーとシータはゴブリンの気を逸らすために走っていった。残った俺とタイガで、あのデカいモンスターを倒さなきゃならない。本当にいけるか?


「やるしかない、俺たちで」


 タイガの言葉と共に、ゴブリンも巨大なバジリスクも一斉に走り出した。俺はバジリスクの目の前で高く跳び、奴の右目に向かって強く剣を突き刺す。


「ぐうう、効くな。感覚が戻っている証拠だ」


 奴らに攻撃が効いているのか分からないが、何かを発しているのが分かる。続けて攻撃しよう。次は奴の左目に剣を突き刺す。


「く、良い攻めだ」


 また何かを発していたため、次はタイガに剣を投げてもらい、二刀流で奴の両目に剣を刺した。効いているようだったので、体重をかけながらグッと奥に押し込んだ。


「ああ、楽しい」


 楽しいだと? この攻撃がか?

 俺は奇妙に思い、宙返りをして地面に着地した。背中の傷がまだ痛むが、この際仕方がない。タイガに剣を返して、奴を取り囲むようにして構えた。


「私たちは恐ろしい」


 奴はその巨大な右手に力を込めていた。何をしているんだ。

 その右手は体以上に大きくなっていき、ハンマーのような形状へと変わっていく。


「最後の力を頂く」


 奴はタイガを狙わず、俺に向かってハンマーと化した巨大な右手を振り下ろしてきた。間一髪避けたが、攻撃に伴って発生した衝撃波が俺やタイガ、近くにいるゴブリンたちに襲いかかった。


 一度攻撃しただけで、ハンマーと化した右手は元の手に戻っていった。


「慣れないな。デリーシャを----させたと思ったが、まだお前が生き残っていたか」


 ん? 目の前の怪物みたいな、巨大なバジリスクは今……デリーシャと言ったよな。デリーシャを知っているのか、有名な討伐パーティーだから知っていてもおかしくはないが、俺がそのメンバーということまで知っている。最近の新聞でも読んだのか、このバジリスクは。


「簡単な話だ」


 奴はそう呟くと、消滅した。


 と思いきや、すぐにまた目の前に現れた。瞬間的に姿を消したのか、移動したのか。奴の巨大な手の中には、バベル城で暮らしている上級階級の人たちが詰め込まれていた。


「白い私にも、黒い私にも名前がある。白はレクス、黒はレジェだ」


 奴は自身のことを紹介した。

 白い私にも黒い私にも……言い方も相まってかこんがらがる。こいつらは同一人物なのか。それとも別々の個体が合体したのか。


 名前が用意されていることから考えるに、別々の個体同士が合体したんだろうな。


「私は、封印されている体を彼らに運ばれた。そうだ、見世物にするとか言っていた。それで彼らに運ばれる最中に封印が解け、思い出したのさ」


「私は森で封印されていた。が、レクスの封印が解けるのと同時に私の封印も解かれた。それで外に出ると、お前がいた。お前は力の源でもあり、諸悪の根源でもある」


 最初に話し始めたのがレクスで、2番目に話し始めたのがレジェか。ややこしい。


 上級階級の人たちが見世物にすると言い、レクスの体を運んでしまったと。パワー・コンテストに登場するモンスターはどうやって運んでいるのだろうと疑問に思っていたが、何となく掴めた気がする。


 レクスの封印が解けたのと同時に、レジェの封印も解けた。俺が解いたつもりはないから、レクスとレジェの封印は連動しているものなんだろう。それで、何だ?


 俺は力の源でもあり、諸悪の根源でもある?

 さっきから力とか言っているが、それも全て俺のことか。諸悪の根源ってなんだ、俺に力は無いし……諸悪の根源という意識も無い。俺が何か引き起こしたか?


「知らなくていい、お前は死ぬ運命なのだから」


----------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る