第29話 どうなってんだ?

----------


 それで結局、半日以上考えた。その場にいたユーゴ・タイガ・ジュリー・シータと俺で。


 ティナには代わりに買い出しに行ってもらってた。その上俺の「ジェスとホークがどうなっているかも教えてほしい」という望みを聞いてくれて、わざわざ中心部にあるバベル城に近づいたとか。


 結局のところ、牢獄に入れられていた。

 見せしめになっていたんだ、ホークとジェスは。大盛況だったとか、新聞で騒がれていた「ストーズ出身の人間ら」を見る機会はそうそう無いから……とかで。


 ホークやジェスの弱った様子を見た彼女は泣きそうになったそうだが、それをグッと堪えて、俺たちに話してくれている。本当に感謝している。彼女がいなかったら俺は……。


 で、今はお昼時。

 ティナが買い出しに行ってくれたため食べ物はあるが、量はそこまでない。我慢して我慢して食い繋いでいくしかないのだ。


「今日中に決めよう、2人を助けるためにはどうするか。ポリスタットの奴らを説得するのは諦めろ」


 タイガは自身の、髪の無い頭を撫でながら話し始める。


「もう時間は無い。夜になる前に決めて、明日には動こう。それで----」




 ドンッ……!!




 何やら外から巨大な爆発音が聞こえた。

 俺たちは音の正体が気になり、アジトから飛び出した。音が聞こえたのは南から……海の方からだ。急いで海が見えるあの坂を上ると……城にはある異変が起きていた。


「どうなってんだよ……」


 城で巨大な爆発があったんだろう、あのバベル城から煙がモクモクと立ち上っている。ジェスとホークが城の中で捕らえられているのにも関わらず、煙は元気に城を包み込む。


 やがて煙が紫色に光り始めたと思いきや、紫色の光線が空に一直線に投射され始めた。バン……と大きな音を立てて、空を紫に染めていく。


 これはただ事じゃない、明らかにモンスターが関与している。普通の人間には起こせ得ない状況なんだ。こういうのは大体モンスターの仕業だ。


 もう考えている暇はない。

 この騒ぎに乗じて2人を救出しよう……と考えてしまった。間違っている、正式に2人を助けたいが……もうこれしか道は残されていない。それに、モンスターを討伐するのが俺の仕事だから。デリーシャの時から、ずっと変わらない仕事だ。


 デリーシャ時代から使っていた剣を背中に差し、都市の中心部にあるバベル城に向かって走り出した。


「おい待て、説明しろ!」


----------


 ノーマッドのアジトから都市の中心部までとてつもなく距離がある。そのため、車を駆使して何とか移動した。車に乗せてくれないかと思ったが、城から逃げ出す市民が多く、俺もそれに乗じてこっそりと乗ることができた。


 乗り継ぎ乗り継ぎで、何とか城に辿り着いたのだが、紫がかった煙が宙を舞っていて、前が全く見えない。竜巻のように、煙が渦巻いて昇っている。牢獄の位置は覚えているが、前が見えないようじゃ話にならない。


「怪我人がいるんだ、どいてくれ!」

「逃げて逃げて!」

「モンスターがいるぞ、気をつけろ!」


 煙の中から逃げ惑う人々が大量に出てきた。皆顔が青ざめている。中には顔面に傷を負っている者もいる。中で何があったがよく分からないが、やはりモンスターがいるようだ。俺は人混みをかき分けて、逆流するように城の中へ向かった。


「こ、子供だけは!」

「やめてくれ!」


 前から悲鳴が、これまた大量に聞こえる。女性の悲鳴も男性の悲鳴も、はたまた子供の悲鳴も。

この先にモンスターがいるんだろうと推測し、周りに人がいないことを確認し、剣を構えた。


 と、急に煙が止んだ。

 これはチャンスだ……と思い、急いで城の中に向かって走った。


 城の中……と言っても、城の庭と広場が隣接している場所に辿り着いた。

 空を貫くように投射された紫色の光線が丸見えになったところで、光線を投射している物体の横に2体のモンスターが立っているのが見えた。


 片方は……前に見たバジリスクだとすぐに分かった。少し大きめな人型の黒い上級モンスターで、人語を喋る。白目で鋭い牙と鋭い爪を持っていて、少し前に俺の背中を斬った奴でもある。


 しかし、もう片方が分からないな。見当もつかない。バジリスクの白い版……と言うしか言葉が思いつかない。目の色と体の色が、バジリスクの反対の色であるだけ。姿も形も全く一緒だ、影だけで見たら区別できないくらいに。


「きたか、ちからよ」


 黒いバジリスクの方が、俺に話しかけた。「来たか、力よ」って……何のことだろうな。前も「力を持っている」とか言っていたし。説明をしろ、説明をまず、どうしてこんなことをしているのか分からな----


 ビュン……と風を切るくらいの速さで、奴は腕を振った。その攻撃は俺には届いていなかったのだが、立っていられない程の衝撃波が俺に圧し掛かった。


「やはりちからをてにいれたか」と奴らは口々にした。だから力って何だよ、説明もせずに襲うなんて卑怯だぞ。


「ちからはぜつだい、こうもできる」


 奴らは同時に腕を振った。次もまた衝撃波が来る……と身を構えたが、衝撃波が現れることはなかった。代わりに、目の前には大量のゴブリンが湧いていた。


 モンスターを出現させる能力。

 これが、奴らの言う「力」なのか?


「ちからがあれば、せかいをしょうあくすることも、ほろぼすこともできる」


「しかしわたしたちがしたいのは、ふっかつだ」


 奴らはそう言うと、紫色の光線を投射させている物体に同時に触れた。辺りは紫の光に包まれていった。この間どうなっているかも分からない。空間が紫に染まっているから、前も全く見えない。ゴブリンらが襲ってくるかもしれない……と思い、急いで剣を構えた。


 やがて光が収まると、紫色の光線は消えていた。それと、あのバジリスクたちも消えていた。


 代わりに……紫色の巨人が目の前にいた。巨人ではないな、鋭い爪と牙を持っているから、バジリスクが巨大化しただけなんだろう。「しただけ」ではないか。


 それとも、2体が合体したのか?


「私たちは何も知らない……待つのみ」


----------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る