第28話 バベル城

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「ともかく、俺はお前のことを疑ってた。デリーシャから追放されるなんて、よっぽどだろう。デリーシャは何だって、優しい者が集まるパーティー……とか言われてたからな」


 まだそれを覚えていた人がいたのか。あくまでも新聞に載っていた通り名みたいなもので、実際に優しいかどうかは関係ないからな。


「話を聞いている限り、お前も充分……いや、この話は止めよう。とにかくだ、俺たちが仕掛けたようなものだが、ノーマッドからの追放は取り止めた。これからも、よろしくな」


 そう言うと、彼は手を差し出した。俺も、彼の手をギュッと強く握りかえした。


「まぁ、俺たちは旅に出る。お前には大切な人がいるんだろ? 打開策はゆっくりと探して----」


 と、ここでシータが坂の向こうから走って来た。

 焦りに焦っているようで、ゼェゼェと息を切らしていたその体も少し震えている。普通に走っただけではここまで汗はかかない。汗まみれで、筋肉質な体に服がビシッとくっついている。




「ジェスとホークが窃盗の罪で捕まった。俺たちは嵌められたんだ、国に」




 国に、嵌められた? 窃盗の罪、彼らがそんなことを今更するのだろうか。討伐で稼いだ金は、まだまだ余っていると聞いた。ジェスとかホークは金を貯めようとしていたしな。


 つまり、やってもいない罪を被せられたのか。


「それで、今2人はどこにいる?」


「本当かどうかは分からないが、ポリスタットの中心部にある城・バベル城に居るはずだ。あの中には牢獄がある」


 都市の中心部には基本城がある。都市を治める上級階級の方々が暮らす城で、一般の人間は基本的には入れない。それはシティストにもある、シティストの方は……ハロス城って名前だったかな。


 バベル城には他の都市の城には見られない特徴がある。それは一般の人間も、ある場所だけ立ち入ることが可能であること。更に、牢獄も設置されてあること。牢獄といっても、罪深い人間は収容されない。


 されるのは、見せしめと化した罪人のみ。


 一般の人間が立ち入ることが可能なのは、その見せしめになる牢獄。城の庭に設置されている檻に囲まれた罪人たちは、一般の人間から嘲笑われる標的となる。大人は「こうなりたくなければ、勉強して働け」と言い、教育にも利用する。真に受けた子供はその通りに動く。


 嫌なシステムだ、俺はシティスト出身だから、これを知ったのは随分最近になる。


「俺たち3人で、買い出しに行った。もちろんローブも手袋もした。気付かれないようにしていたが、遅かった。いつの間にかポリスタットの兵士に囲まれ、2人は窃盗の罪で連行されていった。俺は必死になって逃げた。何とか逃げ切ったけどな……2人は捕まったまま」


 彼は腰を落とした。

 買い出し……もう世間の興味は薄れていると思ったが、ありもしない窃盗の罪を擦り付け、それで捕まえるというのは……都市のすることとは思えない。


 シータを責めている訳じゃない、ポリスタットの上級階級の奴らの行動が……人間として有り得ない。頭のイカれた奴らだ、許せない。


「どうすればいいんだ……このままじゃ俺らも捕まる、ありもしない容疑でな。何かいい方法はないのかよ。タイガ、俺が買い出しに連れて行ったのが悪かった……それでも、助けたいんだよ」


 アジトの中で休んでいたユーゴとジュリーもこの話を聞いていたようで、奥から机を叩く音が聞こえる。


 本当にどうすればいいんだろうな。

 このままじゃ2人は牢獄行き、下手すれば死刑だって有り得る。ポリスタットの奴らなら、見せしめにするとは思うが。


 で、俺たちは……いつかしら捕まる。

 このまま行動も何も起こさずに止まっていれば「窃盗の罪」で捕らえられる。2人を置いて旅にでも出てしまえば捕まることはないだろうが、そんなことできない。


「説得するのはどうだ? 効果は薄いだろうが」


「説得って、まさか奴らの本拠地に乗り込むのか? 本気で捕まるぞ? 『城を攻めようとした疑い』とかでな」


「監視の目を掻い潜って、2人を救出するのは?」


「それができたら楽だ、しかし簡単にはいかねぇ。相手は人間だし大量にいる。ここにいるのは5人だ。無謀な作戦になる」


 ダメだ、どの作戦も良いものとは思えない。どれも失敗すれば捕まるし、成功したとしても捕まる可能性はある。どうしたら、2人を取り戻せるか。どうしたら……平穏な日々を取り戻せるか。


「どうにかして、止めないと」


 シータは、坂の上から城の方を指さした。


 ポリスタットの郊外にあるノーマッドのアジトは、どちらかといえば山の近くにあるため、標高が高い。それに比べて中心部は海に近いため、標高が低い。だから、アジトからは直接見えないが、坂からだったら城が見える。


 白い柱が何十本も立っていて、その白の煌びやかさが、一般の人間と上級階級の区別をしている。デリーシャ時代に中に何回か入ったことがあるが、高貴な装飾を見る度に何回も驚いていた記憶がある。普通じゃ見られないものばかりだし。その時のメンバー、サタナも驚愕していた……はず。


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