第14話 巨人の弱点

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♢A FEW YEARS AGO(数年前)


「上級モンスターの弱点をおさらいしよう。じゃあ、サタナ。緑の巨人・ハロークと、海の巨人・シーハロークの弱点は答えられるか?」


 パーティー訓練所での出来事。


「はい先生、ハロークは首元で……シーハロークは股関節。脈の確認はいずれも首筋」


「おおサタナ素晴らしい。流石デリーシャだ、どこよりも早くパーティーの資格を取ったと思えば、もう上級モンスターを倒したんだってな」


 そう、俺たちデリーシャは優秀なパーティーだった。結成してからすぐに訓練所でトップになって、資格を取ってからすぐに上級モンスターであるゴブリンの王・ゴルゴリを討伐した。これはもちろんのこと快挙で、すぐに新聞に載っていた。


 ゴルゴリはあまり知られていないが、ゴブリンを統率する存在であるらしく、それは国を越える程の強大な存在でもあるらしい。

 で、トドメを刺したのは、ガル。だから新聞にも大々的に取り上げられていた。


「寄せ集めと聞いていたが、案外相性が良いんだな君たちは」


「やめてよ先生、私だけ女子ってのはやなの。他の子も誘いたかったのになぁ」


 彼女はそう言っているが、元を辿れば……誘って来たのは彼女だ。幼馴染であるソールに誘われたが、大元は彼女。5人以上でもいいはずなのに、5人と決めたのも彼女。何か理由があるのかと聞いても答えてくれないし、よく分からない。


「授業に戻ろう。パラレルとしてこんな問題も出る。炎の巨人の弱点は教えたから分かるか……じゃあ逆に簡単なの行こう。巨人の弱点は分かるか、マイト?」


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♢PRESENT DAY(現在)


 いつの間にか、昔のことを思い出していた。そうだった、パーティー訓練所で何となく習ったな。俺は確か答えられなくて……サタナから馬鹿にされ……これ以上思い出そうとするのは止めよう。今は戦闘中だ。


「フォルス! 剣が折れそうだ、早く次の指示を!」


 彼らはまだ巨人の足に攻撃を加えていた。

 巨人も彼らを踏みつけようとしていたが、動ける4人で連携を組み、何とか必死に避けていた。しかし彼らの持つ剣も、もう少しすれば折れそうな程耐久が下がっていた。


「まだ耐えてくれ! その間に俺が決める!」


 俺は彼らにそう告げ、巨人の真後ろに立った。俺は思い出した、普通の巨人の弱点を。訓練所で習ったアレだ。


 通常、モンスターの弱点というのは届かないような場所にある。ゴブリンやオークであれば頭の中や心臓のように人間と同じだから助かるが、上級モンスターともなれば位置が異なってくる。巨人も人の形をしているが、結局は上級モンスターで、弱点の位置が違う。


 巨人の弱点は、背中だ。


 この時、俺の脳に電流が流れたように、全身に力が湧いてきた。不思議な感覚だ、俺を何者かが持ち上げているように、自身の身体も軽くなった。今なら、いける。


 俺は2本の剣を持ったまま、助走をつけて高く飛び跳ねた。巨人の頭がある位置と同じくらいの高さまで来たところで、両方の剣を巨人の首から背中にかけて、重力のなすがまま、突き刺したまま落ちる。


 無事に着地した所で、巨人はそのまま前に倒れた。鉄格子に頭をぶつけても、そのまま無抵抗で。やがて口から白い液体を噴出した。これは死の合図……なんだろうな。


「素晴らしいです。巨人の討伐、おめでとうございます!」


 案内人の声が会場中に響き渡る。彼女の姿が通路の近くに見えたが、彼女の口元は微かに震えていた。


「何てことだ……」と動揺する上級階級の方々の顔も見える。


 彼女の近くにいた他の参加者と思われる人たちも、あんぐりと口を開けたまま止まっている。


 ぶっちゃけ言うと、俺でも凄いと思う。


 弱点を思い出すことができた上、無事に討伐することができた。身体が予想以上に動くため、軽々と巨人の頭近くまで来れた。巨人の攻撃を食らっても、受け身をとってすぐに復帰できた。


 デリーシャで活躍できなかったのが嘘みたいだ。デリーシャのメンバーのレベルが高く、こっちが低いから活躍できている……とかじゃない。身体能力もこっちで活動し始めてからの方が上がっている。


 それもこれも、メンバーのおかげだ。

 動けなくなったタイガの元に駆け寄り、礼を告げた。


「ありがとう、巨人をどうにか討伐できた」


「礼を言うのはお前じゃない、仲間に指示を出してたの見たぞ、凄いな。統制がバッチリだ」


 タイガに褒められたが、同時に少しだけ不安になった。


 そういえば、本当に報酬は貰えるのか。聞いてきた情報によると、面白くなければ貰えないとか、上級階級のその日の気分によるとか、色々とめんどくさい結果になりそうだが。


「報酬はきちんとあるか?」と俺は尋ねた。ここまでやって「報酬はありません」と言われたら、また体にこたえる。


「難しい質問だな、まずは礼儀として敬語が必要じゃないのか?」と彼らは答える。そうだ、勝手に勘違いをしていた。まずは相手を敬う言葉を使ってからだ。


「報酬はありますか?」ともう一度改めて尋ねた。


「あ……あぁ」


 明らかに彼らはそう答えていた。やっと金が貰える……と俺もメンバーも皆喜んでいた。仮面越しで表情は分からないが、多分笑っているんだろうな。声からして上機嫌なのが伝わる。


「いや、もう一戦やってからだな」


 上級階級のある1人がそう言うと、また鉄格子が開いた。奥からは……どこでどう捕獲したのか分からないが、緑の巨人・ハロークが現れた。


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