第13話 パワー・コンテスト

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「おや、新入りですか?」


 司会をやっている女性が、いつの間にか俺たちの背後に立っていた。入り口も塞がれており、戻るには戻れない状況に置かれていた。


「まぁ、そんなとこ」とジェスが素っ気なく答えた。


「全員顔が見えないようにしていますが、それも作戦ですか?」という彼女の問いには、タイガが「こっちの方が慣れてる」と答えた。慣れているかは置いておいて、仮面とフードがあった方が良い。


「了解しました、まずは手続きからです。契約書をお願いします」


 そう言って渡された契約書らしき紙には、中々の内容が書かれていた。

 まず、本名・性別・出身地の記入が任意となっていた。これらを書かなくてもいいのか、コンテストに出場するには必要ないのか。


 逆に記入が必須となっていた項目は、通り名・戦闘可能なモンスターの種類・報酬の種類だけだった。


 ”通り名”は……何と呼べばいいかとかそういうことか? それこそ別に本名でいいが、配慮しているのだろう。俺は本名通りに「フォルス」と書いた。


 ”戦闘可能なモンスターの種類”は、単に下級モンスターか上級モンスターかのどちらかを選べと記されていた。


 たしかに、初心者相手にムスルのような巨大で厄介なモンスターが出てきても、倒せないどころか死に至るだけだもんな。まだ難易度も分からないため、下級モンスターの枠にチェックを入れた。


 ”報酬の種類”というのは、現金か物品かどうかを聞かれている。現金なら貰ってすぐ使えるし、便利だ。物品ならそれ相応の物が貰えるらしい。宝だったり、煌びやかな宝石であったりと様々。俺たちは生活のために現金を選んだ。


「記入終わりました! それでは、装備を貸し出しますのでこちらへ。後で返してくださいね」


 彼女に案内され、装備だらけの部屋を訪れた。対モンスター用の剣や盾が大量にある。鎧は少ないものの、7人分ちゃんとあった。

 俺はデリーシャ時代の剣と盾に慣れていたため、鎧だけ借りることにした。


 彼女に連れられ、試合の会場にやって来た。

 黄金の鉄格子に囲まれた広い空間でモンスターと戦うらしい。地面も滑らかな金属で出来ているため、派手に動けば滑りそうだ。


「それでは……えっと、グループ名は何ですか?」と彼女が尋ねた。そうか、7人で挑戦するからグループ名とか、まとめて呼ぶための名称が必要か。


「ノーマッド」

 誰かがボソッと呟いた。


「そうですか。じゃあ……ノーマッドの始まりです!」


 彼女がそう大声で叫んだ次の瞬間、ゴゴゴゴ……といった爆音と共に、向こう側の鉄格子が開いた。鉄格子の奥には、上級モンスターである”巨人”が捕らえられていた。しかし鉄格子が開いたと同時に巨人も起き上がり、俺たちのいる上にも横にも広い空間に入ってきた。


 後ろを振り向くと、入り口は閉まっていた。どうやら巨人を倒すまでは、ここから出られないらしい。


 巨人……というモンスターは珍しい。人間の10倍程の大きさで、普通の攻撃を食らってもビクともしない。普通の対モンスター用の剣ならまず、剣の方が折れるだろう。


 というか俺たちは上級モンスターでなく、下級モンスターを選択した。間違いなく。


 と、ここで戦闘する会場の上の方に、高級そうな椅子に座った5人の男が見えた。仮面を着けているからよく見えないが、コンテストの主催者か? 彼らは王冠を着けているため、間違いなくここら辺の上級階級の方々だろうな。


 そして、そのうちの1人が立ち上がり、下にいる俺たちにも届くくらいの大きな声でこう言った。


「驚いただろう、君たちにはプレゼントとして……上級モンスターをやろう!」と。


 何を言っている。俺らは下級モンスターを選んだはずなのに……いや、それを狙ってか。俺らが上級モンスター相手に苦しむ姿を見たいのか。仮面越しで見えにくいが、確かに上にいる彼らはニヤニヤしながらこちらを見ていた。


 更に畳みかけるように、彼女がある言葉をボソッと発した。


「言い忘れていましたが、あなた達が万が一殺られたとしても、支援金は降りませんよ。何故なら……違法なゲームですから」と。


 そうだ、村でも聞いた通り、本来これはあってはならないゲームだ。モンスターは討伐対象で、車等に利用することはあっても、娯楽目的で人の命をかけたゲームに使ってはいけない。法とか関係なく、倫理的に考えれば分かる。


「じゃあ、ゲームスタートです!」


 彼女の掛け声と共に、急に巨人が俺たちの元へ突進してきた。皆に避けるよう指示ししても、巨人の走る速さには叶わず、巨人の足で蹴飛ばされてしまった。

 多くのメンバーが鉄格子まで吹き飛ばされ、持っていた剣を手から離してしまった。巨人はその剣を持っていないメンバーを狙うように、ゆっくりと歩みを進める。


 今何とか避け切ったのは、俺とホークとジェスのみ。俺は2人に近づき、動けなくなったシータを助けるよう指示を出した。2人とも素直に俺の言うことを聞き、シータの救助に向かった。


 巨人は今狙いを変え、タイガの元に向かっている。で、タイガ自体気絶していないが、指示を出せるような状況でない。

 俺はタイガの剣を拾い、剣を両手で構えた。


 シータが起き上がったのを確認した俺は、すかさず巨人の右足に傷を何度も付け、歩みを止めさせようとした。効いているかは分からないが、やらないよりは良い。


「ホークとユーゴは巨人の左足を、ジュリーとジェスは右足を攻撃してくれ! シータはタイガの保護を頼む」


 つい最近出会ったばかりの俺の指示を、彼らはちゃんと聞いてくれる。いつも指示を出すタイガには申し訳ないが、ここは俺に任せてほしい。


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