第12話 新生
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怪我をしたメンバーはいなかったが、オークを討伐した際に貰えるはずだった金は入らなかったために、結局無駄な時間になった。
いや、取引先に裏切られてそのまま殺されるよりは間違いなく良い結果になった。それでも彼らの傷は癒えないようだが。
流石に命を狙われる程まで裏切られたことは無いから、どう接していいか分からない。
「悪ぃ、少し色々思い出してただけだ」
彼らは口を揃えてこう言った。過去、今まで迫害されてきたことを思い出してしまったんだろう。
「俺たち、これからどうすりゃいいんだろうな」
拠点まで帰る道中、まだ日は昇ったばかりだが皆の気持ちは落ちきっていた。取引先を失った今、モンスターを討伐したとしても収入は得られない。新たな取引先を探すか、いや、取引業界で悪評が立つとか言っていたから、もうその業界に期待するのは止めた方が良さそうだ。
そもそも、このまま討伐パーティーを続けてしまって大丈夫なのだろうか。俺はシャリアに途中から入った身、何ならここ最近入った身だから深く言えるような立場じゃない。
でも、俺は一応今まで何年間かは討伐パーティーで活動していた。その時の経験を活かして、彼らに何か教えられないか。何でもいい、彼らに役立つようなことを、捻り出せれば。
「あ」
と、俺はつい声に出してしまった。
皆も立ち止まって振り向く。
「どうした? 何かあったか?」とタイガが心配する。
何もない、良い案を思いついただけだ。
拠点に辿り着いてから実践してみよう。そう俺は心に決め、また歩き始めた。
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皆に荷物を預けて、先に拠点に行かせ、自分だけある店に寄った。装備や武器を売る店だ。俺は仮面を着けているが、その店の店主は気にせず買い物を続けるよう言ってくれた。
拠点からもポリスタットの中心部からも離れた、ある武器屋で、俺は黒いローブと仮面と手袋を6人分購入した。白い仮面は無かったが、6個セットで安いのがあったため、それを購入した。カラフルで前が見えにくくなりそうだが、何度か被れば慣れてくれそうだ。
剣や装備は買わずに店を出て、急いで拠点に戻った。
彼らは疲れ果て、ぐったりとしていた。肉体的な疲労だけでなく、精神的なものも来ているんだろう。
俺は彼らを起こし、さっき購入したばかりの黒いローブ等を彼らの前の机に置いた。俺の追放支援金を使って購入したものだ。
「俺が買った、6人分ある。これを着て活動すればいい。討伐パーティーじゃなくても、これなら顔がバレない」
そう言って、俺はホークに無理やり着せた。
仮面の大きさもちょうど良い、ローブを着せても違和感がない。手袋もあって少々動きにくいかもしれないが、仕事に支障はきたさない。
彼らは何度か頷いてばかりで、何も発さなかった。
個人的には納得のいく案だった。顔や目が見えなければ、そう差別されることは無い。髪がないのはローブのフードで隠せる。前が見えにくくなるのは……慣れるしかない。
技が足りないのなら伝授しよう。
俺も一応は有名な討伐パーティー出身だ、その時の知識をこっそり教えることもできる。さっきみたいな、オークを指だけで倒すことは難しい。というか初めての経験だ。
「悪ぃ、ありがとな。この際パーティー名も変えるか。ノーマッドってのはどうだ? 俺の好きな……響きだ」と、ユーゴがボソッと呟いた。他も彼の意見に賛同するように、拍手をした。
俺には、思いつかなかった。
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数日後、俺らは正式に活動を始めた。正式に……都市に届け出は提出していない。どちらかと言えば非公式のまま活動する。
ではどうやって金を貰うか、これは村で聞いた「パワー・コンテスト」に出場する。仮面を着けた7人組、それだけで好感は得られるだろう。「おかしな集団だ」とか「不思議だ」とは思われるだろうが、仮面や格好を貫けば何も言われないはず。
彼らもどうやら昔、パワー・コンテストに出場しようとしたらしいが、肌の色が違うという理由だけで出場を降ろされたとか。それなら仮面を着けた方が都合が良い。
で、日も落ちて辺りも暗くなった頃、俺たちは仮面とローブを着けたまま、ポリスタットの中心部に向かった。
ウェール村にいるコンテストの参加者によると、ポリスタットの中心部にある喫茶店の地下室から繋がる通路の奥に、コンテスト参加用の施設があるらしい。
彼に言われた通り、喫茶店”コンボイ”に行き、そこで店限定の”コンボイ・クッキー”を頼む。金を払う必要は無い。そこで出された菓子は仮面を着けているために食べられないが、地下室へ向かった。
地下室の中は暗いが、白い文字で「魔王」と書かれているのが見えた。これも隠語で、正しくは「先に進め」という意味だとか。魔王からどう意味が繋がるのかは分からないが。
更に進むと、通路の奥の方から笑い声が漏れていた。ここが会場だろう、と思い7人で入ってみた。中は黄金をくり抜いて部屋を作ったのかという程、金に囲まれた空間であった。また空間も巨大で、天井は空高く奥にも続いていて、こんな空間が存在するとはにわかには信じがたかった。
「お集まり頂きありがとうございます! 久々の開催となりましたが、どうかお楽しみください!」
甲高い女性の声と共に、奥から巨大なモンスターが現れた。あれは何だ? 俺も見たことがない。
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